不同意性交等罪とは、被害者の方の性的自己決定権(社会生活上、誰と性的交渉を持つか、または持たないかという本人の意思決定権)を侵害し、被害者の同意のないまま性交を行う罪です。
不同意性交等罪は、被害者への謝罪や示談交渉を行うことが多い類型です。
今回は、示談をするためにはどうすべきか、示談交渉の方法など不同意性交等罪(旧 強制性交等罪)の示談交渉を詳しく、弁護士・坂本一誠が解説いたします。
不同意性交等はどのような行為か
まず、不同意性交等罪(旧強制性交等罪)は、刑法177条に規定されている犯罪で、「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、性交」等をしたときに成立します。
第177条 不同意性交等
前条第一項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、性交、肛門性交、口腔性交又は膣若しくは肛門に身体の一部(陰茎を除く。)若しくは物を挿入する行為であってわいせつなもの(以下この条及び第百七十九条第二項において「性交等」という。)をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、5年以上の有期拘禁刑に処する。
2 行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、性交等をした者も、前項と同様とする。
3 16歳未満の者に対し、性交等をした者(当該16歳未満の者が13歳以上である場合については、その者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第一項と同様とする。
177条1項において「前条(176条)第1項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由」とされている行為は、以下の通りです。
第176条 1項柱書略
一 暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと。
二 心身の障害を生じさせること又はそれがあること。
三 アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること。
四 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること。
五 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。
六 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕させること又はその事 態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること。
七 虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること。
八 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。
…(以下省略)
不同意性交等罪の罰則
不同意性交等罪の罰則は、「5年以上の有期拘禁刑」となっています。改正前の強制性交等罪の時は「5年以上20年以下の懲役」でした。この令和5年7月の変更で年数の上限が撤廃され、厳罰化されました。
不同意性交等罪には罰金刑は定められていませんから、起訴された場合には公開の法廷での裁判を受けることになります。裁判になった場合、執行猶予が付くかどうかという点が、被疑者・被告人の側にとって大きな意味を持ちます。執行猶予は懲役3年以下の懲役刑にしか付けることができません。したがって、不同意性交等罪で起訴されて有罪判決を受ける場合、法定刑の下限が5年のため、原則として執行猶予付きの判決を受けることができません。
犯罪の情状に酌量すべきものがあるときは、酌量減軽の規定が適用され、法定刑の長期及び短期が2分の1になります(刑法66条、68条3号)。そのため、示談が成立して被害者が重い処罰を求めていないなどの特段の事情がある場合、法定刑の下限が懲役2年6月まで下がるため、執行猶予が付く可能性が出てきます。もっとも、執行猶予が付くのはあくまで例外的な場合ですので、重い処罰が予定されている犯罪といえるでしょう。
不同意性交等罪で逮捕される具体的なケースとは
性行為というのは、お互いの同意の下で行われる限り犯罪ではありません。私たちの誰もが、そのような行為をしても良いと考えた相手と行う可能性があるものです。それゆえに、相手の同意がないまま自己の欲求を先行させてしまったり、相手の同意があると誤信してしまったりして問題になる可能性は、我々の身近に潜んでいると言わざるを得ません。
不同意性交等罪で逮捕されるケースには、道端で突然見知らぬ女性に襲いかかったり、一人暮らしの女性の自宅に侵入して無理やり性交したりするような、およそ相手方の同意が期待できないような状況で行われる事件もありますが、知人同士の事件や、マッチングアプリやSNSを通じて出会った男女間の事件、ナンパの流れでラブホテルに行って性行為に及んだ事件なども珍しくありません。そして、相手方の性行為に対する明確な同意の意思表示がなければ、こちらが相手に同意があったと考えていたとしても、意思に反して性行為をされたとして相手方が警察署に被害届を提出し、逮捕につながる危険性があります。
逮捕を回避するために、警察に発覚する前に示談をするという方法もあります。というのも、マッチングアプリを通じて出会うなどのケースで実名を明かしていなかった場合でも、逮捕の可能性はあるからです。警察が重大な事件であると判断した場合には施設等の防犯カメラを確認することや、アプリやサイト等に登録情報を照会することにより本人の特定は十分可能です。性行為に及んだ後、相手方からその行為が意思に反して嫌であったとか、被害届を提出するなどの連絡があった場合には、速やかに弁護士に相談し今後の対応を検討する必要があります。
不同意性交等罪における示談交渉
不同意性交等罪は、被害者の性的自己決定権を侵害する重大な犯罪です。したがって、検察官や裁判官は被害者の処罰感情というものを重視します。そのため示談が成立した場合には、被害者の許す気持ちが重視され処罰に影響があります。
不同意性交等罪において不起訴処分を得ることは、被疑者にとって極めて重要です。不同意性交等罪には罰金刑が定められておらず、起訴された場合には必ず裁判になりますが、不起訴処分となれば、前科がつかないため社会復帰が容易となり、職場や家庭への影響も最小限に抑えられます。
特に不同意性交等罪のような性犯罪では、社会的信用の喪失や再就職への悪影響が避けられないため、不起訴処分を得ることで将来への影響を最小限に抑え、生活を守ることができます。不起訴を得るためには、示談交渉が重要な役割を果たすと言えるでしょう。示談をすれば、検察官が不起訴処分にする方向へ判断する可能性が高まるのです。
示談するメリットとデメリット
不同意性交等罪は非親告罪です。告訴等が取り下げられたとしても起訴することは不可能ではないことから、不同意性交等罪(旧強制性交等罪)での示談の重要性は減退した、という意見を耳にすることがあります。
しかし、被害者の自己決定権を尊重すべきという点、捜査機関・報道機関等の第三者によるセカンドレイプを防止すべきという点は、刑法改正があったとしても何ら変わりありません。したがって、検察官が、被害者の望まない起訴をする可能性は低いと言えるでしょう。
これについて、平成29年の改正直後になされた法務省での報告では「検察としては、制度的な担保を設けず非親告罪化された場合にも、通常は被害者の協力がなければ立証も難しく、被害者が望まなければ起訴をしない方向になると思われる。」と報告されています。したがって、今日でも示談を成立させれば不起訴を得ることは十分に可能と言えるでしょう。一方、基本的に、示談をすることにデメリットはありません。場合によっては高額な示談金の支払いをすることになりますが、起訴された場合に実刑判決を免れるためには必要なことです。
不同意性交の示談交渉を弁護士に依頼するメリット
不同意性交等罪の被害者の連絡先は本人・家族には伝えられませんが、弁護士であれば教えてもらえる可能性があります。弁護士は、警察や検察を介して被害者の連絡先を教えてもらった場合、早急に被害者とコンタクトを取って示談の成立を目指します。もっとも、不同意性交等(旧強制性交等)罪が卑れつな犯罪であることから、被害者の心情に特別な配慮が必要となります。そこで、性犯罪について豊富な経験と高い専門性を積んだ弁護士に依頼することが重要です。
謝罪文を書く
示談交渉の際には、被疑者の作成した謝罪文を被害者にお渡ししてお読みいただくことで、被疑者の謝罪や反省が真摯なものであると評価を頂いて被害感情が多少なりとも緩和され、その後の示談の成立に繋がるケースがあります。被疑者が被害者に面会して、直接謝罪の気持ちを述べる機会は原則ありません。したがって、被疑者が事実を認めて被害者に対して謝罪の意思を表明したいと考える場合には、直筆の謝罪文を作成して渡すことが一般的です。
もっとも、その作成には最大限の注意が必要です。謝罪文が、被害者の感情を逆なでし、示談の成立を困難にすることもありえます。被疑者の側の謝罪の気持ちをただ書き連ねるのではなく、その事件によって被害者がどのような精神的・肉体的なダメージを負い、その後の被害者の日常生活にどのような影響が出ているのかを想像して、被害者の感情や具体的な不利益に配慮した記載が必要です。謝罪文を作成することにより、真摯な謝罪の気持ちを丁寧に伝えられる可能性を高めることができます。
家族の協力をとりつける
性犯罪は一般的に再犯のおそれが高い犯罪だと言われています。したがって、加害者の更生には、本人の努力のみならずそのご家族の協力を得ることが必要となります。ご家族とともに弁護士が本人の今後の更生をサポートする体制を構築することでより有利な結果を獲得することが可能となります。
専門機関のサポートを受ける
「わかっていても」性衝動を自分の力で抑えきれない、中にはそのようなケースあります。一種の依存症のような状態といえるでしょう。そのような場合には専門の医療機関、カウンセリングを受診することが必要となります。専門機関による治療を継続して受けることによって、再犯をしないと言った決意であったり、反省の気持ちがあったりすることを被害者や検察官に伝えることも考えられます。
特に当事務所では、本人の更生に目を向けることが反省に繋がると考え、専門機関との連携を行っています。
不同意性交等罪の示談金相場
示談を成立させるには示談金の支払いが必要になります。
不同意性交等罪の示談金の相場はだいたい100万円~500万円と広範囲に及びます。 加害者の立場としてはどうしても交渉が不利に流れがちです。しかし、事案によっては加害者を完全には責めきれないケースもあり、交渉次第で示談金を減額させることができます。
経験を積んだ弁護士であれば、さまざまな事情を客観的に判断し、示談金を適正額に導くことができます。
不同意性交等の否認事件での示談
不同意性交等罪は重罪です。また、起訴されればほとんどが有罪判決となってしまいます。
そのため、否認事件の場合であっても、起訴前に相手方に示談の申入れを行い、不起訴処分の獲得を狙うことがあります。この場合には、被疑者と被害者のお互いの言い分が食い違うことを前提に、被害者(または被害者代理人弁護士)と被疑者の弁護人とが話し合うことになります。
要するに、被疑者が罪を認めて謝罪をするのではなく、あくまで不同意性交等罪は成立しないと考えているが、起訴されて刑事裁判になれば被害者が証人として出廷を余儀なくされる可能性があり、大きな負担となることなどを説明し、被害者としても一定の金銭の支払いによって刑事裁判を回避することに納得できる場合には、その金銭の支払いを条件に被疑者の刑事処罰を望まないこととする、といった示談を目指します。
このような方法で示談交渉を進めれば、仮に示談が成立しなかった場合であっても、被害者に対して罪を認めて謝罪をしようとしたわけでありませんので、起訴された場合でも不同意性交等罪(旧強制性交等罪)の成立を争うという一貫した方針に基づき無罪主張をすることができます。その場合には、刑事裁判の豊富な経験と技術を用いて、綿密な証拠の検討や法廷での弁護活動を行うことによって無罪判決の獲得を目指します。
当事務所では、身に覚えのない性交について旧強姦罪で逮捕・起訴された事件について、無罪判決を獲得した実績があります(横浜地方裁判所川崎支部令和3年3月15日判決、一審で確定)。
強制性交等罪で示談によって解決された実績
当事務所で扱った、強制性交等罪での示談が成立した事案をご紹介します。
まとめ
以上のように、不同意性交等罪での示談交渉について解説してきました。不同意性交等罪は、被害者の性的自由を侵害する重大な犯罪である一方で、マッチングアプリ等の普及によって、恋愛関係や肉体関係を結ぶ関係性が多様化した現代では「身近に発生しても決しておかしくはない犯罪である」ということができます。
性交の際に相手方の明確な同意を取るということが一番大切ですが、さまざまな事情によって不同意性交等罪の疑いで警察の捜査を受けた場合、逮捕されてしまった場合には刑事事件の豊富な経験を有する弁護士が迅速かつ的確な弁護活動ひいては示談交渉を行うことで早期解決につながることがあります。まずは当事務所の無料電話相談をご利用ください。