無罪で補償が受け取れる?弁護士が解説|刑事事件の中村国際刑事法律事務所

無罪で補償が受け取れる?弁護士が解説

刑事弁護コラム 無罪で補償が受け取れる?弁護士が解説

無罪で補償が受け取れる?弁護士が解説

 以前,私が法律には素人の知人と弁護士費用のことを話していた際,「無罪判決が出た場合,有罪判決よりも弁護士の成功報酬は高いのですか?」と訊かれ,私は「無罪を争う事件は時間も手間もかかり,有罪率99.9%と言われる中で,高度な訴訟能力を発揮して無罪を勝ち取るわけだから高い」と答えました。その知人は「何もやってない無実の罪で裁判かけられたのに,どうして有罪の人よりたくさんお金を払うの?」と言いました。考えたこともないその発想に,それもある意味もっともなことだと思いましたが,当時は「弁護士費用とはそういう仕組みになっている」としか答えられませんでした。
 また,刑事裁判で無罪判決を受けた場合,刑罰を受けないのは喜ぶべきことですが,その間身体拘束され,失った時間は返ってきません。先述のとおり,無罪を勝ち取るために付けた弁護人に支払う報酬も発生します。

 そこで活用したいのが刑事補償請求裁判費用補償請求です。以下,代表弁護士・中村勉が解説いたします。

刑事補償請求と裁判費用補償請求

刑事補償請求

 刑事補償請求とは,刑事補償法に規定されており,抑留又は拘禁された人つまり,逮捕され勾留されていた事件に関して,無罪の裁判を受けたときに,身柄拘束に関して補償を求めることができる制度です(刑事補償法1条)。

刑事補償法 第1条

 刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)による通常手続又は再審若しくは非常上告の手続において無罪の裁判を受けた者が同法、少年法(昭和二十三年法律第百六十八号)又は経済調査庁法(昭和二十三年法律第二百六号)によつて未決の抑留又は拘禁を受けた場合には、その者は、国に対して、抑留又は拘禁による補償を請求することができる。

 補償金額は,逮捕又は勾留されていた期間 × 1日当たり1,000円~12,500円とされています(同法4条1項)。
 そして,「補償金の額を定めるには,拘束の種類及びその期間の長短,本人が受けた財産上の損失,得るはずであつた利益の喪失,精神上の苦痛及び身体上の損傷並びに警察,検察及び裁判の各機関の故意過失の有無その他一切の事情を考慮しなければならない」とされています(同条2項)。
 そこで,実際に刑事補償請求する場合は,拘束期間を正確に計算し,4条2項の考慮要素から使いやすい要素をピックアップして具体的な主張を組み立て,1日あたり最高額12,500円の補償を求めていくことになるでしょう。

刑事補償法 第4条

 抑留又は拘禁による補償においては、前条及び次条第二項に規定する場合を除いては、その日数に応じて、一日千円以上一万二千五百円以下の割合による額の補償金を交付する。懲役、禁錮若しくは拘留の執行又は拘置による補償においても、同様である。
 2 裁判所は、前項の補償金の額を定めるには、拘束の種類及びその期間の長短、本人が受けた財産上の損失、得るはずであつた利益の喪失、精神上の苦痛及び身体上の損傷並びに警察、検察及び裁判の各機関の故意過失の有無その他一切の事情を考慮しなければならない。

 注意点としては,「抑留又は拘禁された人」が対象になるため(同法1条),逮捕・勾留されていない事件(在宅事件)は,刑事補償の対象外になります。
 また,実際に「抑留又は拘禁」されていた期間に応じて補償されるため,途中で保釈された事件については,逮捕された日から,保釈許可決定により釈放されるまでの期間についてのみ,刑事補償を求めることができることにも注意が必要です。
 刑事補償請求は,無罪判決をした裁判所に対して,刑事補償請求書を提出して行います。そのため,管轄裁判所を間違えることはあまりなさそうですが(同法6条),請求期間が,無罪の裁判が確定した日から3年以内とされているため(同法7条),請求期間には気を付けてください。
 後述のとおり,裁判費用補償請求は無罪が確定してから6か月以内にしないければならないので,セットで請求すれば期間を過ぎることはありません。

裁判費用補償請求

 裁判費用補償請求とは,刑事訴訟法(188条の2以下)に規定されており,弁護士報酬など一定の範囲の裁判費用の補償を受けることができる制度です。
 請求できる費用はご本人が出頭に要した旅費・日当・宿泊料,ならびに,弁護人が出頭に要した旅費・日当・宿泊料及び報酬になります。そして,その金額については,刑事訴訟費用等に関する法律で定められた計算方法によって計算されます。弁護人の報酬については,実務上,国選弁護人の報酬が基準にされています。
 なお,国選弁護人の報酬基準は法テラスのホームページで公開されています。

刑事訴訟法 第188条の6

 第188条の2第1項又は第188条の4の規定により補償される費用の範囲は、被告人若しくは被告人であつた者又はそれらの者の弁護人であつた者が公判準備及び公判期日に出頭するに要した旅費、日当及び宿泊料並びに弁護人であつた者に対する報酬に限るものとし、その額に関しては、刑事訴訟費用に関する法律の規定中、被告人又は被告人であつた者については証人、弁護人であつた者については弁護人に関する規定を準用する。

 しかし,これは私選弁護人を選任した場合に国選弁護人の報酬が基準になるということであり,国選弁護人を選任した場合の報酬は法テラスから支払われるので,費用補償請求の対象外になります。
 裁判費用補償請求は,無罪判決をした裁判所に対して刑事補償請求書を提出して行う点は刑事補償請求と同様ですが(188条の3第1項),請求期間が無罪の裁判が確定した日から6か月以内と短くなっているため(同条2項),こちらも請求期間には気を付けてください。

刑事訴訟法 第188条の3

 前条第1項の補償は、被告人であつた者の請求により、無罪の判決をした裁判所が、決定をもつてこれを行う。
 ②前項の請求は、無罪の判決が確定した後6箇月以内にこれをしなければならない。

申立手続の流れ

 先ほど説明しましたとおり,刑事補償請求も裁判費用補償請求も無罪判決をした裁判所に請求書を提出して請求し,その後はどちらも同じ流れです。
 申立後,裁判所から「求意見書」という書面が送られ,追加の意見がある場合は意見書にそれを書いて送り,特になければ,「請求人の意見は〇年〇月〇日付け刑事補償請求書(裁判費用補償請求書)の記載のとおりである」などと回答するのでも構いません。
 裁判所から求意見書が送られる際に,検察官から提出された「回答書」の写しが添付されているケースと添付されていないケースがありますが,回答書の写しが添付されているケースではその回答書に対して反論すべき点について意見書を作成して提出し,添付されていないケースでは追加の意見はない旨回答することが多いかと思います。
 ここまですれば,あとは裁判所の決定を待つことになります。決定が出るまで半年~1年かかるケースもありますが,早いときは最初に請求書を提出してから3,4か月程度で決定が出るケースもあります。特に,身柄拘束されていない事案の場合,刑事補償請求はできず裁判費用補償請求だけになるため,最初に請求書を提出してから3か月も経たずに決定が出たケースもあります。
 決定に不服がある場合は,刑事補償請求も裁判費用補償請求も即時抗告という不服申立て手段があります(刑事補償法23条,刑事訴訟法188条の3第3項)。
 ただし,即時抗告の提起期間は3日しかないことに注意が必要です(刑事訴訟法422条)。
 即時抗告は原決定を行った裁判所に即時抗告申立書を提出する方法で行います(同法423条1項)。決定を行った裁判所は,即時抗告に理由があるものと認めるときは,決定を更生しなければなりません(同条2項)。

刑事補償法 第23条

 この法律の決定、即時抗告、異議の申立及び第十九条第二項の抗告については、この法律に特別の定のある場合を除いては、刑事訴訟法を準用する。期間についても、同様である。

刑事訴訟法 第188条の3

 ③補償に関する決定に対しては、即時抗告をすることができる。

刑事訴訟法 第422条

即時抗告の提起期間は、三日とする。

刑事訴訟法 第423条

抗告をするには、申立書を原裁判所に差し出さなければならない。
 ②原裁判所は、抗告を理由があるものと認めるときは、決定を更正しなければならない。抗告の全部又は一部を理由がないと認めるときは、申立書を受け取つた日から三日以内に意見書を添えて、これを抗告裁判所に送付しなければならない。

被疑者補償規程とは

 被疑者として身柄を拘束されながら起訴されなかった人は,無罪の判決を受けたわけではないため,これまで見てきた刑事補償請求や裁判費用補償請求の対象外になります。
 しかし,被疑者補償規程(法務省訓令)によって,一定の場合に,補償が行われます。被疑者補償を受けるためには,抑留や拘禁されたが不起訴処分になった者のうち,「罪とならず」又は 「嫌疑なし」の不起訴裁定主文か,それ以外の場合で,その者が罪を犯さなかったと認めるに足りる十分な事由があるときの要件を満たし,補償の申出が必要となります。(被疑者補償規程2条)
 補償される金額は,刑事補償請求と同じく,拘束された期間の1日あたり,1,000円~12,500円となります(同規程3条1項)。
 責任能力や責任年齢の規定によって罪とならない場合など,一定の事情により,補償の一部又は全部がなされない場合があります(同規程4条の3)。

被疑者補償規程

 第2条(補償の要件) 検察官は、被疑者として抑留又は拘禁を受けた者につき、公訴を提起しない処分があつた場合において、その者が罪を犯さなかったと認めるに足りる十分な事由があるときは、抑留又は拘禁による補償をするものとする。
 第3条(補償内容) 補償は、抑留又は拘禁の日に応じ、1日1,000円以上12,500円以下の割合による額の補償金を本人に交付して行う。
 第4条(立件手続を行う場合) 補償に関する事件の立件手続は、次の場合に行う。
 (1)被疑者として抑留又は拘禁を受けた者につき、事件事務規程(昭和62年法務省刑総訓第1060号大臣訓令)第72条第2項に定める「罪とならず」又は「嫌疑なし」の不起訴裁定主文により、公訴を提起しない処分があつたとき。
 (2)前号に掲げる場合のほか、被疑者として抑留又は拘禁を受けた者につき,公訴を提起しない処分があつた場合において、その者が罪を犯さなかったと認めるに足りる事由があるとき。
 (3)補償の申出があったとき。
 第4条の3(補償の一部又は全部をしないことができる場合) 次の場合には,補償の一部又は全部をしないことができる。
 (1)本人の行為が刑法第39条又は第41条に規定する事由によって罪とならない場合
 (2)本人が,捜査又は審判を誤らせる目的で,虚偽の自白をし,その他有罪の証拠を作ることにより,抑留又は拘禁されるに至つたと認められる場合
 (3)抑留又は拘禁の期間中に捜査(少年法の規定による審判を含む。)が行われた他の事実につき犯罪が成立する場合
 (4)本人があらかじめ補償を受けることを辞退する旨の意向を示している場合その他特別の事情が認められる場合

まとめ

 いかがでしたでしょうか。補償請求をご検討の際には,当事務所の弁護士までご相談ください。

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