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痴漢で逮捕されたら
痴漢事件で逮捕された場合の手続きはどうなるのか,また,痴漢はどのような罪に該当するのか,刑罰はどのようなものなのかといった痴漢にまつわる刑事事件について弁護士が解説いたします。
本コラムは弁護士・山口亮輔が執筆いたしました。
痴漢事件で問われる罪名と刑罰
痴漢とは,一般的には,駅構内,電車内,道路上,商業施設等の公共の場所や花火大会会場,ライブ会場,レジャープール施設等の混雑した場所において,他人の身体を触ったり卑わいな行為をしたりすることをいいます。
他人の身体に直接触れる事はもちろん,着衣の上から臀部,陰部,胸部,脇腹などを撫でまわすこと,他人に股間を押し付けること,そのほかにもスカートめくりをすることも痴漢行為になりえます。
そして,痴漢行為の犯行態様によって適用される法令が異なることがあり触った身体の部位,犯行時間の長短,犯行が行われた場所,被害者の年齢などの事情から個別的に判断されます。
一概にどの法令が適用されるかどうかの明確な基準はありませんが,公共の乗物又は混雑した場所において短時間身体に触れた場合は迷惑防止条例違反に,陰部や胸部に触れ若しくはわしづかみにした場合や長時間にわたって執拗に身体を撫で回した場合は強制わいせつ罪が適用される傾向にあります。
迷惑防止条例違反
各都道府県で制定されている条例で,内容や罰則に違いがあります。 | 単純 | 常習 |
---|---|---|
東京都(公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例) | 6月以下の懲役又は50万円以下の罰金(8条1項2号,5条1項1号) | 1年以下の懲役又は100万円以下の罰金(8条8項) |
神奈川県(迷惑行為防止条例) | 1年以下の懲役又は100万円以下の罰金(15条1項,3条1項1号) | 2年以下の懲役又は100万円以下の罰金(16条1項) |
埼玉県(迷惑行為防止条例) | 6月以下の懲役又は50万円以下の罰金(12条2項1号,2条の2第2項) | 1年以下の懲役又は100万円以下の罰金(12条4項) |
千葉県(公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例) | 6月以下の懲役又は50万円以下の罰金(13条の2第1項2号,3条の2第2号) | 1年以下の懲役又は100万円以下の罰金(13条の2第2項2号) |
強制わいせつ罪(刑法176条)
法定刑は6月以上10年以下の懲役です。
迷惑防止条例違反と異なり,罰金刑が規定されていないため,起訴された場合には正式裁判となり,有罪判決となれば懲役刑が科せられます。
痴漢事件における逮捕の種類
痴漢事件が発生した場合に,事件が発生したこと及び犯人が誰であるかが明白な場合にはその場で現行犯逮捕されることがあります。
また,事件当日は,犯人が逃亡したため誰であるのかが分からなかった場合であっても,その後の捜査の過程で犯人が浮上し,後日逮捕に至ることがあります。
現行犯逮捕
現行犯逮捕とは,痴漢事件が発生した場合に,被害者や第三者が犯人による犯行を現認し,事件発生直後に犯行現場付近で逮捕することを指します。
現行犯逮捕の場合,一般人であっても逮捕することができるため,被害者や目撃者が犯人の手を掴んで取り押さえて警察官に引き渡すことが実務上見られます。
痴漢をしてしまい,駅員室,警察署まで連れていかれひととおり事情聴取を終えた後「また後日呼び出すので,来てください」と帰されることもあります。その場合は逮捕されずに,在宅で捜査が続くことになります。
通常逮捕(後日逮捕)
通常逮捕とは,事件当日は,犯人が犯行直後に逃亡したため犯人が誰であるかが不明であったが,犯行現場付近の防犯カメラ映像,現場付近に残された遺留品などから犯人が浮上して,裁判官が発付した逮捕状に基づいて被疑者を逮捕することを指します。
いずれにせよ,被害者との示談交渉は本人ではできないので,示談を希望する場合には弁護士に相談する必要性が高くなります。
痴漢で逮捕された場合に弁護士をつける意味
痴漢で逮捕されると弁護士をつけたほうが良いと言われますが,弁護士をつける意味や,弁護士ができることをご紹介いたします。
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身柄解放活動ができる
逮捕後,検察官は被疑者を勾留して捜査をしなければ,被疑者が罪証隠滅又は逃亡に及ぶおそれがあると判断した場合は,裁判所に対して勾留を認めるように請求します。
裁判所は,被疑者を勾留して捜査をしなければ,被疑者が罪証隠滅及び又は逃亡に及ぶおそれがあると判断した場合は,勾留決定をします。
被疑者に身柄引受人が存在すること,定職に就いていること,生活環境が安定していることなどは罪証隠滅及び逃亡に及ぶおそれを否定する事情に働きますが,身柄拘束下にあっては身柄引受人の調整,勤務先の調整は困難となります。
そこで,弁護人がこれらの関係者の協力を求めて生活環境の調整を行うことで,検察官,裁判官に対して勾留の必要性がないことを主張し,早期の身柄解放活動に取り組むことができます。
示談交渉ができる
痴漢は強制わいせつ又は都道府県迷惑防止条例に違反する犯罪行為です。
被害者との間で示談が成立しなかった場合,初犯であっても,罰金刑が科せられる可能性が高く,その場合は罰金前科として残ってしまいます。
そこで,弁護人を選任したうえで,被害者に対して誠意を尽くす必要があります。
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会社を解雇されるリスクが軽減される
勾留決定がなされると,最大で20日間身柄が拘束され,その間欠勤せざるを得ないこととなります。
多くの会社では就業規則上に解雇事由として欠勤が継続していることが規定されています。
そのため,早期の身柄解放が実現されなければ会社から解雇を言い渡される可能性があります。
実名報道
痴漢行為により逮捕された場合,事件の内容,被疑者の身分によってはインターネット,テレビジョンによって実名で報道されることがあります。
実名報道がなされるケースとしては,被疑者が公務員,鉄道関係従事者,教育関係従事者などの公益性が高い場合のほか,上場企業勤務の会社員,医師,弁護士,司法書士などの専門職については実名報道の可能性が高いといえます。
万が一報道されてしまった場合,ネットニュース記事の削除依頼を弁護士が承るのでご相談ください。
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痴漢事件で逮捕された場合の流れ
次に,逮捕された場合の刑事手続の流れをご紹介いたします。
警察署での取調べ
痴漢で逮捕されると,まず警察署で犯罪事実の要旨,弁護人を選任することができる旨を告げた上で,弁解の機会が与えられます。
その後,48時間以内に,被疑者の成育歴,犯罪歴などの取調べ及び逮捕された痴漢事件に関する取調べが行われます。
検察庁での手続
一般的には,逮捕後48時間以内に警察署から検察庁に身柄及び捜査書類が検察庁に送致され,痴漢容疑について検察官から弁解の機会が与えられます。
検察官は,被疑者を勾留して捜査をしなければ,被疑者が罪証隠滅又は逃亡に及ぶおそれがあると判断した場合は,送致を受けてから24時間以内に裁判所に対し,勾留を認めるように請求します。
裁判官の勾留質問
検察官が痴漢容疑で勾留請求した場合,検察庁での取調べ当日,又は翌日には裁判官の勾留質問を受けることになります。
裁判官が勾留決定すると,逮捕に引き続き,勾留請求をした日から10日間身柄が拘束され,不服申立て(準抗告や特別抗告)で勾留決定が取り消されない限り,10日間は身柄が拘束されます(途中で短縮されることはまずありません)。
勾留延長
勾留が決定し,10日間痴漢容疑について捜査した後に,検察官は,痴漢の事実で起訴するか不起訴とするかを判断します。
しかし,さらに捜査を継続しなければ痴漢の犯人であるのか冤罪であるのか真相が解明できない場合のほか痴漢の犯人であるとしても,起訴猶予にすべきか,略式請求にすべきか,公判請求にすべきかの適正な処理が出来ない場合など「やむを得ない事由」がある場合には,検察官は勾留の延長を請求することができます。延長期間は基本的には10日間です。
こうして,痴漢で逮捕された場合,逮捕されてから最大で23日間身柄を拘束されてしまう可能性があるのです。これでは,会社に出勤も出来ず,病気等の言い訳も出来ず,退職せざるを得ないような状況に追い込まれます。身柄の早期解放,これが痴漢事件にあって,最も重要なことになります。そして,そのためには,逮捕された直後に,痴漢に強い刑事弁護士の助力が必要不可欠なのです。
痴漢における身柄解放活動
中村国際刑事法律事務所では,痴漢事件の依頼を受けた場合,その当日に接見先行として弁護士が,ご本人が逮捕・留置されている警察署に急行し,上記のような接見をします。
そこで,代表弁護士と協議の上,痴漢事件についての弁護方針を打ち立て,即座に痴漢で逮捕された方の身柄解放活動に入ります。
具体的には,痴漢で逮捕された方の家族の方に身柄引受書を御作成いただき,痴漢の容疑を掛けられているご本人に対して痴漢被害に遭われた方と決して接触しないよう指導をし,検察官への意見書を作成し,これを提出し,検察官を説得して,痴漢で逮捕された方の身柄解放を試みます。この時点で,痴漢に強い刑事弁護士がついているかいないかで,かなり結論が分かれてきます。痴漢に強い刑事弁護士が就いていれば,検事とも面会や電話交渉等で痴漢を行った背景事情や家庭環境等に関する意見交換ができる上,身柄引受人の確保など,釈放に必須の環境整備ができるのです。
検察官が勾留請求した場合
それにもかかわらず,検察官が痴漢事件について勾留請求した場合には,痴漢に強い刑事弁護士は,今度は,裁判官を説得します。裁判官は中立公正な立場から判断するので,検察官の勾留請求を却下してご本人を釈放してくれることがあります。昔は,検事が勾留請求すればそのほとんどについて勾留決定がなされましたが,最近は勾留を却下するケースも増えています。痴漢に強い刑事弁護士が就いていれば,検事とは違った事件や被疑者の人柄の見方を裁判官に伝えることができますし,罪証湮滅の恐れや逃亡のおそれについて,検事とは違った評価・解釈により,裁判官により説得的に伝えることもできます。そこで,勾留却下となる可能性が出てくるわけです。
それでも,裁判官によって勾留が決定された場合には,ケースによっては準抗告や特別抗告といった不服申立てを行って,最後まで諦めずに身柄解放活動に従事します。それが身柄解放係弁護士の使命なのです。弁護士への依頼が捜査段階の早い時期であればあるほど,弁護活動できる選択肢が多く,事案に即した効果的な弁護活動が可能となります。
痴漢事件において家族ができること
痴漢で逮捕された直後はご家族などの面会は事実上制限されることが多く,逮捕されて2・3日経ってようやく面会できるようになります。
その間,ご家族は痴漢事件の詳細もわからず,本当に痴漢をしたのか,それとも冤罪なのかなど不安なまま何もできないで時間が過ぎていくだけです。
しかし,弁護士であれば,警察官などの立会人なしで即座に痴漢で逮捕された方と接見することができます。時間の制約は原則ありません。ですから直接本人から痴漢の容疑を受けている事件の経緯や逮捕された経緯などを聞くことができます。
また,警察や検察官と面会するなどして痴漢容疑に関するできる限りの情報を収集でき,的確かつ迅速に状況を把握することができます。
ご家族が逮捕され,前科がつくことや職場へばれたくないという希望がある場合には,早急に弁護士に相談する必要があります。
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