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検察審査会と元法相事件について解説

3年前の参議院選挙をめぐり、元法務大臣が実刑判決を受けた大規模な買収事件で、現金を受け取ったとして告発され不起訴になった100人のうち、東京第6検察審査会は、広島県議ら35人を「起訴相当」、46人を「不起訴不当」とする議決書を公表しました。これを受け、東京地検特捜部は再び捜査を行い、起訴するかどうか改めて判断することになります。

なお、2022年3月、「起訴相当」となった35人の内34人が起訴となりました。

ところで、ここで登場した「検察審査会」とは何でしょうか。今回はこの検察審査会をテーマに、察審査会とは何か、どういった審査を行うのかについて解説した上、今回の事件の今後の見通しについて代表弁護士・中村勉が考察いたします。

検察審査会とは

検察審査会は、選挙権を有する国民の中からくじで選ばれた11人の検察審査員が、検察官の不起訴処分の妥当性を審査しています。検察審査会の任務と審査の手続き等については検察審査会法(以下、「法」といいます。)が定めています。

検察審査員は、検察審査会が置かれた管轄区域の衆議院議員選挙権を有する人の中からくじで選ばれます(法4条)。検察審査員に選ばれた人には、検察審査会から通知が届きます(法12条の2第3項)。

裁判官や検察官、弁護士など法曹関係者や、司法警察職員、自衛官など特定の職に就く人は検察審査員の職務に就くことができません(法6条)。また、検察審査員が当該事件の被疑者や被害者など事件関係者である場合にも、職務の執行から外されます(法7条)。ちなみに、全く同じではありませんが、裁判員の選定も同じような就職禁止事由があります。

以上のように特定の職業の方は、検察審査会の職務にそもそも就くことができないのですが、法は就職禁止事由がない方以外でも、就職を辞退することができる場合を定めています。具体的には、70歳以上の人、学生、重い疾病などやむを得ない事由があって職務を辞することの承認を受けた人などは、検察審査員の職務を辞することができます(法8条)。ちなみに、裁判員法にもやはり同じような辞退事由が定められていますが、中身が少し違うので、裁判員の辞退を検討する場合には裁判員法の辞退事由を見るようにしてください。

なお、検察審査員に選ばれた者がこれを無視し、正当な理由なく召集に応じない場合、10万円以下の過料が科されます(法43条1項)。呼出しを受けた裁判員候補者が正当な理由がなく出頭しないときも決定で10万円以下の過料に処するとされています。

審査の手順

検察による不起訴処分の当否に関する審査は、告訴・告発をした人や、犯罪の被害者(死亡している場合は親族)から申立てがあった場合にしなければならないとされています(法2条2項)。また、検察審査会の過半数による議決があった場合にも審査することができます(法2条3項)。
審査請求を受けた検察審査会は、検察官による不起訴処分が妥当であったか否かについて審査し、以下の処分をします(法39条の5第1項)。

  1. 起訴を相当と認めるとき…起訴を相当とする議決
  2. ①を除き、公訴を提起しない処分を不当と認めるとき…公訴を提起しない処分を不当とする議決
  3. 公訴を提起しない処分を相当と認めるとき…公訴を提起しない処分を相当とする議決

議決は過半数が原則ですが(法27条)、①についてはそれだけでは足りず、8人以上の多数によらなければなりません(法39条の5第2項)。
①②の議決がされた場合、検察官は被疑者を起訴するか不起訴にするかを再度判断しなければなりません(法41条1項、2項)。そして、再度起訴するか不起訴にするかを決定し、その旨を検察審査会に通知しなければなりません(41条3項)。

①の議決が出されたにもかかわらず再度不起訴処分がされた場合、検察審査会は再審査を行い(法41条の2第1項)、8人以上の多数により、起訴相当と認めるときには、起訴議決を行います(41条の6第1項)。これは、検察官による起訴独占主義の例外であり、「強制起訴」と呼ばれます。
起訴議決がされた場合、検察審査会は起訴議決書を作成して裁判所に送ります(法41条の7第3項)。そして裁判所は、起訴議決された事件について検察官の職務を行う者を弁護士の中から指定します(41条の9第1項)。この指定を受けた弁護士は「指定弁護士」と呼ばれ、検察官の代わりに公訴を提起し(法41条の10)、検察官の職務を行います(法41条の9第3項)。

このように、検察審査会制度は、検察官が起訴・不起訴の判断を独占する起訴独占主義の例外であり、また、弁護士が検察官の職務を行うという点で、非常に珍しい手続であるといえます。

今後の見通し

今回の買収事件に話を戻しましょう。現状は、先ほどの「審査の手順」のうち、①②の議決がされた段階にあります。つまり、まだ強制起訴の段階には至っておらず、これから検察官が関係する広島県議らを起訴するか不起訴にするかを再度判断する段階ということになります。
もしここで、起訴相当と議決された県議35人が再び不起訴となったとしても、再審査で起訴相当となれば、そこで強制起訴という流れになります。

本来、今回のような買収事件では、お金を渡した方も受け取った方も公職選挙法違反となります。しかし、お金を渡した元法相だけが起訴され、お金を受け取った100人もの県議を一律に不起訴とする判断は、公職選挙法の原則から考えればやはり不公平であり、妥当な議決かと思われます。強制起訴まで至らず、検察官の再度の判断で起訴される可能性も十分にあり得るでしょう。

まとめ

いかがでしたでしょうか。今回の買収事件で話題となった「検察審査会」についてのポイントを簡単にまとめると、以下のとおりです。

  • 裁判員と同じように一部の例外を除いて誰もが選ばれる可能性があること
  • 検察審査会の起訴相当議決が出されたにもかかわらず検察官が再度不起訴処分にした場合、検察審査会の再審査で起訴相当とされてはじめて強制起訴となるという二段階のステップがあること
  • 起訴独占主義の例外であり、また、弁護士が検察官の職務を行う点で珍しい手続であること 等

今回はまだ一段階目のステップであり、検察官が再度どう判断するのか、そして、不起訴の場合に検察審査会の再審査がどうなるのか、今後の動向に注目です。

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刑事事件は初動の72時間が重要です。そのため、当事務所では24時間受付のご相談窓口を設置しています。逮捕されると、72時間以内に検察官が勾留(逮捕後に更に被疑者の身体拘束を継続すること)を裁判所に請求するか釈放しなければなりません。弁護士へ依頼することで釈放される可能性が高まります。また、緊急接見にも対応しています。迅速な弁護活動が最大の特色です。

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