前科とは|前科がついたときの就職や海外旅行の影響を弁護士が解説
前科とは,確定判決で刑の言渡しを受けたことをいいます。法令の定めによるものではありませんが,市町村役場で運用されている犯罪人名簿に登録されます。
一定の場合は,法律上執行猶予の欠格事由[刑25],累犯加重の事由[刑56]となり,その他各種の法律[国公38②,裁46①,検察20①,弁護7①,公選252等]によって資格制限の事由になります。
前科は消えないのか
上記の通り,「前科」は各種の法律により資格制限を受け一定の職業に就けないなど,更生の障害となる場合があります。
そこで,昭和22年の改正(法124)により刑の消滅の規定[刑34の2]が設けられ,執行終了又は免除後一定期間(禁錮以上は10年,罰金以下は5年,刑の免除は5年,刑の免除は2年)を罰金以上の刑に処せられることなく経過したとき,その抹消が認められ,刑が消滅するとされました。
刑法第34条の2
1. 禁錮以上の刑の執行を終わり又はその執行の免除を得た者が罰金以上の刑に処せられないで十年を経過したときは,刑の言渡しは,効力を失う。罰金以下の刑の執行を終わり又はその執行の免除を得た者が罰金以上の刑に処せられないで五年を経過したときも,同様とする。
2. 刑の免除の言渡しを受けた者が,その言渡しが確定した後,罰金以上の刑に処せられないで二年を経過したときは,刑の免除の言渡しは,効力を失う。
この期間を経過すると,犯罪人名簿からも抹消され,警察も無犯罪証明書を出してくれるようになります。また,履歴書の賞罰記入欄にも「なし」と書いてもよくなります。
ただし,刑が消滅したとしても警察と検察庁に犯歴記録は残るので,新たに犯罪を犯した場合は当然不利になってしまいます。
前科が就職や就業に与える影響とは
企業に前科・前歴を知られることはあるのか
一般の企業では,本人からの申請がなければ,前科・前歴の有無を確認する方法はありません。ただし,一部の企業によっては,前科,前歴を本人に確認する企業もあります。その際に,前科・前歴があるにもかかわらずないと言ってしまうと,経歴詐称となり,経歴詐欺は解雇理由となりえます。
前科を申告する必要があるのか
一般的に,履歴書には学歴,職歴,そして賞罰を書くことになっているため,もし前科があるのであれば,賞罰の欄に記入しないといけません。
しかし,賞罰の記入欄のない履歴書にわざわざ書く必要はありません。ただ,賞罰の記入を会社が事前に要求していたり,記入欄があるのに賞罰なしと書いたりしてしまった場合は,先ほどと同じ経歴詐称になってしまいます。
また,賞罰欄に書かなければならない前科とは刑事罰であり,少年犯罪(これは「前歴」と言います)や行政罰は書く必要はありません。例えば交通違反や交通事故は行政罰なので記載する必要がありません。
前科があると就けない職業とは
上記の通り,前科は資格制限の事由になるため,不利になってしまう職業はあります。
弁護士・弁理士・教員の場合,禁錮以上の前科者は国家資格を剥奪され,一定期間又は再度受ける権利を失うことになります。
その他国家資格を必要とする職業も,国家資格によっては,禁錮以上の前科者に欠格事由に当てはまり,一定期間就業できないということになります。
また金融に関する仕事の身元調査は厳密に行われること多く,前科があると,不利になってしまう可能性があります。
例:弁護士法第7条
次に掲げる者は,第四条,第五条及び前条の規定にかかわらず,弁護士となる資格を有しない。
一 禁錮以上の刑に処せられた者
前科が海外旅行や出国におよぼす影響
出国について
海外旅行をするためにはパスポートが必要ですが,日本では,一定の犯罪歴があることにより,パスポートの発給が制限されることがあります。
旅券法第十三条
外務大臣又は領事官は,一般旅券の発給又は渡航先の追加を受けようとする者が次の各号のいずれかに該当する場合には,一般旅券の発給又は渡航先の追加をしないことができる。
一 渡航先に施行されている法規によりその国に入ることを認められない者
二 死刑,無期若しくは長期二年以上の刑に当たる罪につき訴追されている者又はこれらの罪を犯した疑いにより逮捕状,勾引状,勾留状若しくは鑑定留置状が発せられている旨が関係機関から外務大臣に通報されている者
三 禁錮以上の刑に処せられ,その執行を終わるまで又は執行を受けることがなくなるまでの者
入国について
入国許可に関する基準は,諸外国の法律の定めによって異なります。諸外国の中には,犯罪歴によって入国を制限している場合もあります。一般的に,アメリカは審査が厳しいようです。