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強制わいせつとは|キスやハグ,同性相手でも強制わいせつとなるか?詳細を徹底解説します
お酒を飲んだ勢いで女子高生にキスをしたことにより,「強制わいせつ罪」として書類送検された有名人がいました。ニュース番組等でも目にする強制わいせつという罪ですが,どのような行為がその処罰対象となるのでしょうか。キス(接吻)という行為だけでも強制わいせつ罪は成立するのでしょうか。その刑罰はどれくらい重く,逮捕もあり得るのでしょうか。
また,海外では,キス(接吻)やハグ(抱き付き行為)が,別に恋人同士でなくとも,挨拶や愛情の表現として違和感なく公然と行われる文化・習慣を持つ国もあります。このような行為でも,日本においては強制わいせつ罪に当たるのでしょうか。
一方,ある女性タレントが知人女性に対する強制わいせつの疑いで書類送検されたとのこと報道もありますが,一般論として,こうした同性による行為に強制わいせつの罪は成立するのでしょうか。
以下,弁護士・岩崎哲也が解説いたします。
強制わいせつとは?その成立要件について
強制わいせつ罪とは,暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした際に成立する罪です。また,相手方が13歳未満の者の場合,暴行や脅迫を用いなくとも,また,相手方の承諾があった場合でも,この罪が成立します。この罪は,6月以上10年以下の有期懲役という重大犯罪です。
それでは,強制わいせつ罪が成立するための要件は何でしょうか。
(1) まず,「わいせつ」な行為がなされる必要があります。「わいせつ」な行為とは,「徒らに性欲を興奮又は刺戟せしめ、且つ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反する」(最大判昭和32年3月13日《いわゆる「チャタレー夫人の恋人」事件判決》最判昭和26年5月10日)行為をいうとされてきました。典型的には陰部を弄ぶなどの行為を指します。キスやハグがこれにあたるのか否かは,後ほど解説します。
なお,後記のとおり,必ずしもその行為が犯人の性欲を刺激興奮させ又は満足させるという性的意図のもとに行われることを要するものではない旨の判例変更がなされています(最大判平成29年11月29日)。
(2) 次に,この罪の性質上,被害者の承諾がないことが必要です。被害者の承諾の下に行ったとしても,上記のとおり被害者が13歳未満の者なら本罪の成立を免れず,また,18歳未満の者なら監護者わいせつ罪(刑法第179条1項),児童福祉法違反(同法第34条1項6号),いわゆる青少年保護育成条例違反等が成立し得,さらに,街中などで公然と行えば公然わいせつ罪(刑法第174条)となり得ます。
(3) また,強制わいせつの手段である「暴行」とは,「正当の理由なく他人の意思に反してその身体に力を加えることをいい、その力の大小強弱を問わない。」などとされ(大判大正13年10月22日),「脅迫」も同様,要するに被害者の意思に反して当該行為を行うに足りる程度でよく,強制性交等罪のように,反抗を著しく困難にする程度に達する必要はないと考えられます。
また,わいせつ行為自体が暴行行為であった場合にも,本罪が成立します。つまり,特に殴るなどの暴行を加えなくても,陰部を触るなどの行為そのものが強制わいせつ罪の手段たる「暴行」であると同時に「わいせつな行為」でもあるとされることがあります。
(4) わいせつ行為が「犯人の性欲を刺激興奮させ又は満足させる」という「性的意図」のもとに行われることは必要とされるでしょうか。
従来,このような行為者の「性的意図」も強制わいせつ罪の成立要件とされてきました。すなわち,例えば,専ら被害者に復讐する目的で,被害者の裸の写真を撮ったような場合には,性的意図がないとして,強制わいせつ罪は成立しないとした最高裁判例(最判昭和45年1月29日)があり,その後は,この判例に従った運用がなされていました。
しかし,その後,前記のとおり,最高裁は,犯人側の主観的事情ではなく,「今日では,強制わいせつ罪の成立要件の解釈をするに当たっては,被害者の受けた性的な被害の有無やその内容,程度にこそ目を向けるべきであ」るとして,行為者の性的意図を同罪の成立要件とする上記昭和45年判例の正当性に疑問を呈してその解釈を変更し,「行為者の性的意図を一律に強制わいせつ罪の成立要件とすることは相当でない」旨判断しました(但し,同判例は,その「行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度を十分に踏まえた上で」,わいせつ行為に当たるか否かを判断する「個別具体的な事情の一つとして,行為者の目的等の主観的事情を判断要素として考慮すべき場合があり得る」ともしており,犯人の性的意図をわいせつ行為に該当するかの判断要素とする場合があり得ることを否定してはいないと考えられます)。
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被害者の同意の有無はどのようにして判断される?
ところで,相手方の承諾の有無は,裁判でよく争点になります。被害者が承諾などしていないと言い,加害者は被害者は嫌がっていなかったなどと主張し,裁判で争われます。強制わいせつ罪における最も重要で直接的な証拠は,被害者の証言そのものですから,被害者証言の信用性が裁判の結論を左右します。
よく,被害者の承諾がなかったという証拠がどこにあるんだ,証拠がないのにそのような訴えをするな,などという主張を耳にしますが,被害者の証言そのものが直接的な証拠であり,その証言を根拠に起訴され,有罪となったケースは山ほどあります。「それでは,承諾がないと言われたら,それだけで有罪ではないですか」という声が聞こえてきそうですが,もちろん被害者証言の信用性は,行為者を有罪にできるほど高度なものである必要があり,それは,以下のような諸事情を勘案して総合的に判断されます。
例えば,犯行の日時・場所・態様,加害者と被害者との関係,知り合ってからの期間,交際の有無・状況,当該行為に至る経緯・状況,行為後の状況その他の様々な事情により,その信用性が吟味されます。一般的に言うならば,例えば,深夜に人気のない路上で見ず知らずの女性に突然抱き付いて胸を揉むなどの行為に及べば,承諾などなかったという被害者の証言の信用性が否定されることはなかなかないでしょうし,逆に,正常な意識がありそこがラブホテルと知りながら部屋まで二人で仲良く一緒に入るなどした末の行為であれば,承諾などなかったという被害者の証言に疑問符がつく場合もあります。
はたしてキスは強制わいせつとなるか
強制わいせつ罪のいう「わいせつ」な行為とは,前記のとおり,「徒らに性欲を興奮又は刺戟せしめ、且つ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反する」行為をいうとされています。簡単に言うと,一般に,被害者が性的な意味で恥ずかしい,不快だと感じさせられる行為がこれに当たるでしょう。典型的には,胸や陰部を弄ぶなどの行為です。逆に,例えば握手をすることは,通常は性的な意味を含まないと考えられますから,無理矢理握手されて嫌悪感を覚えたとしても,特段の事情がなければ強制わいせつ罪は成立せず,せいぜい暴行罪,強要罪等の成否が考えられるにとどまります。
では,キスやハグをすることは「わいせつ行為」にあたるのでしょうか。冒頭に述べたように,キスやハグが挨拶,尊敬,友情等を表現するものとして日常的に行われている国があり,それは,テレビでも,各国首脳の挨拶等として目にするところでもあります。一方で,キスやハグは,単なる挨拶等にとどまらない性愛の表現として行われることもありますので,性的意味をふくむものとして「わいせつ行為」に当たる可能性があります。
こうしたキスやハグの意味を踏まえた上で,その行為の日時・場所・態様,当事者間の関係,行為に至る経緯・状況その他の諸事情を総合的に考慮して「わいせつ行為」に該当するか否かが判断されると考えられます。
ちなみに,高松高判昭和33年2月24日は,キスのわいせつ性につき,「男女間における接吻は性欲と関連する場合が多く,時と場合即ちその時の当事者の意思感情や行動状況環境等により一般の風俗性的道徳感情に反し猥褻な行為と認められることがあり得る。人通りの少ない所や夜間暗所で通行中の若い婦女子にその承諾を得られる事情もないのに強いて接吻を為すが如きは,親子兄妹或いは子供どうし等が肉親的愛情の発露や友情として為すような場合と異なり,性的満足を得る目的をもって為したるものと解せざるを得ず,かかる状況下になされる接吻は猥褻性を具有するに至るものといわなければならない。」として,キスにつき強制わいせつ罪を認めています。
また,大阪高判昭和29年11月30日は,顔見知りの女性をからかい,逃げる女性のあとを追って抱き付いたら同女があおむけに倒れたので,馬乗りになったという事例につき,「馬乗りになるという行為自体は,普通の性的行為を実行する体勢ではなく,また直ちに性的行為を連想せしめる行為でもない。」として強制わいせつ罪の成立を否定し,暴行罪の成立のみを認めました。いずれも古い判例ではありますが,ご参考までに。
強制わいせつ罪の刑罰の重さについて
前記のとおり,強制わいせつ罪の刑罰は,6月以上10年以下の懲役であり,罰金刑などのない重罪です。キスやハグも,強制わいせつ罪が成立する場合,法定刑としては同一であり,この刑が量刑の前提となります。ただ,事案にもよりますが,キスやハグが,陰部を弄ぶといった典型的なわいせつ行為より悪質性において比較的軽微だとされて,裁判における量刑が軽減されることはあり得ます。
当該行為をしたことが間違いない場合,キスやハグについても,典型的なわいせつ行為と同様,被害者との示談の成立等が処分や判決に対する相当に有利な事情となり得ます。
ちなみに,最近の法改正で強制わいせつ罪は親告罪ではなくなりましたので,検察官は,法律上,告訴の有無にかかわらず起訴することができますので,甘く考えてはいけません。
同性を相手としたわいせつ行為でも強制わいせつ罪は成立するか
強制わいせつ罪の主体(犯人)・客体(被害者)にはいずれも性別の制限はありません。本罪の保護法益は,個人の性的自由であり,性別に関係なく保護されるべきだからです。
したがって,本罪は,男女間だけでなく,同性を相手としてわいせつ行為でも,特段の問題なく成立します。
近年における同性間での強制わいせつ事件
以下のような報道がなされています。
- ある女性タレントが知人女性に対してわいせつな行為に及んだとして,令和2年3月に強制わいせつ罪の疑いで書類送検された(後に不起訴)。
- 令和3年1月,福岡県内のディスカウントストアの男子トイレ内で8歳男児に対しわいせつな行為に及んだとして,33歳の男性が強制わいせつの疑いで逮捕された。
(参考)女性の男性に対する性犯罪(神奈川県青少年保護育成条例違反)の例
- 令和2年6月,当時14歳の男子中学生に対して淫らな行為に及んだとして,横浜市内の40代女性が逮捕されたとの報道があった。
強制わいせつで逮捕された場合の対処法について
強制わいせつ罪で逮捕された場合,どのように行動すればよいでしょうか。いち早く弁護士に相談し,選任することが重要です。
とりわけ事実に争いがある場合には,取調べに対する的確なアドバイスが必要になってきますし,事実関係に争いがない場合でも,迅速に示談交渉に着手して身柄拘束期間を短くするよう試みる必要があるからです。
逮捕・勾留という身体拘束は,様々な社会的な不利益を本人にもたらします。勤務先を解雇になるかもしれません。家族も心配で毎日眠れません。今後の見通しや裁判になるのかどうかも分からない中で不安ばかりが日々増していきます。本人に事情を聞きたいけれど,弁護士でない方だと,面会時間が限られる上,事件に関する会話は禁止されます。
この点,弁護士であればいつでも接見できます(時間の制約も基本的にありません)し,専門性と経験を有する弁護士なら,警察官・検事との面会その他を通じて情報を収集し,事件の見通しもつけることができます。そして,何よりもいち早く示談交渉に着手することができます。もし,示談交渉に成功すれば不起訴処分になる可能性が高まりますし,身柄拘束期間を短縮することに繋がるかもしれません。そのため,早期から刑事事件に詳しい専門的かつ経験豊富な刑事弁護士が必要となります。
なお,当事務所では,検事時代に被疑者側にも被害者側にも長年多数回にわたり接してきた元検事の弁護士3名が率いる弁護士チームが対応しますので,被害者との交渉内容,方法,タイミング等について,最善のアドバイス,弁護活動を提供できます。
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まとめ
いかがでしたでしょうか。キスも強制わいせつ罪になり得ることを何となく理解していても,具体的にどうしてわいせつ行為と言えるのか,その判断要素は何なのかなど,今ひとつはっきりしなかった方もいらっしゃると思います。また,強制わいせつ罪は,男性でも女性でも加害者にも被害者にもなり得,同性同士でもこの罪が成立し得るということを,今まで明確に意識していなかった方もいるかもしれません。今回の説明でそのような点に関する理解が深まったとしたら幸いです。
強制わいせつ罪による逮捕を回避するため,あるいは,逮捕されたとしても起訴や実刑を避けるためには,何と言っても弁護士の助力が必要です。疑いをかけられたらいち早く専門的かつ経験豊富な弁護士にご相談ください。
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