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教唆とは – 教唆の成立要件や事例を弁護士が解説

テレビの刑事ドラマなどでよく出てくる「共犯」とは、犯罪行為を共に行う人を指す言葉ですが、実は、共犯と一口に言っても、いろいろな種類があります。

例えば、二人で銀行強盗をするのも共犯、銀行には行かないけれども、車で送迎をする人も共犯、事前に「あそこの銀行はセキュリティが緩いからやりやすいぞ。行って来い!」などと言って指示をするのも共犯です。

刑法では、このような様々な種類の共犯が規定されています。この記事では、その中でも特に教唆について、他の共犯の類型と比較しながら解説していきます。

共犯の分類

共犯には大きく分けて3つの分類があります。①共同正犯、②教唆犯、③幇助犯です。これらは、複数の人が犯罪行為を行うときに、各自がどのような態様で関わるのかによって整理したものです。この3つを合わせて広義の共犯と呼びます。一方で、②教唆犯と③幇助犯を合わせて狭義の共犯と呼びます。

つまり、①共同正犯は、狭い意味においては「共犯」とは呼ばないのです。なぜかと言えば、共同正犯は、共犯とは対の概念である、「正犯」だからです。正犯を共に行うから、共犯と呼ばれているのです。一般的な「共犯」のイメージはこれだと思いますが、刑法学上の分類では、「狭義の共犯」には含まれませんが、「広義の共犯」には含まれるという扱い方になっています。

では、「正犯」「共犯」とは何か、という点について考えてみましょう。
ここでは簡単に、「○○罪」に該当する行為(専門用語では、基本的構成要件に該当する行為、と言います)を実際に行う人、と理解してください。例えば、殺人罪であれば、包丁で被害者の胸を刺した人が正犯です。窃盗罪であれば、他の人の物をポケットの中に入れた人が正犯ですね。それに対して、 基本的構成要件ではなく、「修正された構成要件」に該当する行為(教唆・幇助行為)を行う人を共犯と定義します。

したがって、例えば、2人組の銀行強盗はどちらも基本的構成要件に該当する行為を行っていますから、狭義の共犯には該当せず、2人とも正犯(①共同正犯)となります。まとめると、犯罪には正犯と共犯があり、①共同正犯は正犯、②教唆犯と③幇助犯は(狭義の)共犯に分類されるが、①共同正犯も含めた3つを広義の共犯と呼ぶということになります。

教唆とは

さて、共犯の分類について書いてきましたが、その中でも特に②教唆犯について、この記事では説明いたします。早速、教唆犯に関する条文を見てみましょう。

刑法61条1項(教唆)
人を教唆して犯罪を実行させた者には、正犯の刑を科する。

まず、教唆とは、人(正犯)に犯罪遂行の意思(故意)を生じさせて、犯罪を実行させることです。手段や方法の制限はありませんし、明示・黙示のどちらでも構いませんが、「何か犯罪をやってこい」というような曖昧なものではいけません。「○○を殺して来い」「△△銀行に強盗に入れ」といった具体的な指示でなければなりません。

教唆の成立要件

教唆犯の成立要件は、①教唆行為(教唆すること)、②その教唆行為によって正犯に犯罪遂行意思が生じること、③その意思に基づいて犯罪が実行され、結果が発生することの3つです。
②について、教唆行為よりも前から正犯に犯罪遂行意思がある場合は、教唆犯ではなく、犯意を強めたという意味で、幇助犯が成立します。幇助犯については、後程詳しく述べます。

また、正犯による行為と結果の間には、因果関係が必要です。次のようなケースを考えてみましょう。被害者には重い心臓病があり、教唆犯はこのことを知っていたとします。そのうえで、正犯に対して傷害を教唆します。正犯には傷害の故意が生じ、被害者の顔面を数発殴打しました(死亡に至るほどの強力なものではありませんでした)。被害者は出血多量などの直接的に殴打が原因となってではなく、心臓病に伴うショックによって死亡したとしましょう。正犯は被害者が心臓病を患っているとは知らず、また、ショックで死亡することは一般人には予見不可能であった場合、判例および通説の見解に従えば、正犯には傷害致死罪(刑法205条)ではなく、傷害罪(刑法204条)が成立します。

では、教唆犯はどうでしょうか。教唆犯は被害者の心臓病について知っており、ショック死の可能性を事前に予見できていたのであれば、この教唆犯との関係では因果関係があると言えます。ただし、後述する通り、教唆犯には「正犯の刑」が科されることから、傷害罪の限度で教唆犯が成立することになります。逆に、教唆犯も心臓病について知らなかったのであれば、正犯と同様の因果関係が成立し、傷害罪の教唆犯が成立するということになります。

教唆犯が成立すると、「正犯の刑」が科されます。つまり、正犯と同じ刑罰です。また、教唆犯には特別の処罰制限がかけられており、拘留(1日以上30日未満の刑事施設での拘置)又は科料(1000円以上1万円未満の金銭の没収)のみに処すべき罪については、特別の規定がなければ処罰されません(刑法64条)。なお、このような犯罪は、刑法上は侮辱罪(231条)しかありません。

一方で、軽犯罪法1条各号に規定されている犯罪(立ち小便などの軽微な犯罪です)には、刑罰として拘留又は科料のみが定められていますが、同法3条に「第1条の罪を教唆し、又は幇助した物は、正犯に準ずる」という規定が置かれています。したがって、軽犯罪法1条各号に該当する行為の教唆犯となると、正犯と同じように拘留または科料が科されるということになります。

教唆と未遂について

教唆犯に関連して、「教唆の未遂」「未遂の教唆」という2つの論点があります。「教唆の未遂」と「未遂の教唆」は名前の似た論点ですが、中身は全く違うので、区別が必要です。

教唆の未遂

「教唆の未遂」とは、正犯を教唆しても、正犯者が犯罪行為に着手しなかった場合に教唆犯が成立するのかという問題です。学説上の争いはあるものの、教唆犯が成立するためには正犯が実行行為を行うことを必要とし、着手しない場合には教唆犯は成立しないというのが通説の立場です。この考え方は共犯従属性説と呼ばれ、教唆犯について定めた刑法61条は正犯の存在を前提としていることなどをその根拠としています。

ただし、実行の着手に至っていなくとも、予備(準備行為)段階から処罰される犯罪の場合に、予備罪の教唆犯が認められるかどうかは未解決の問題です。

未遂の教唆

「未遂の教唆」とは、はじめから未遂で終わらせるつもりで教唆することを言いますが、この場合に教唆犯が成立するかどうかは、争いがあります。わざわざ未遂で終わらせるように教唆する人がいるのだろうかと思われるかもしれませんが、いわゆる「おとり捜査」のような場面で問題になるのです。

例えば、詐欺を現行犯逮捕するために、わざと犯人を被害者宅に呼び寄せ(このような、おとりになる人物を、フランス語で「アジャン・プロヴォカトゥール」といいます)、現場で警察官が待ち構えているというようなケースです。このとき、警察官に教唆犯が成立するのでしょうか。この点につき、教唆犯の成立を肯定する見解も学説上、有力ではありますが、共犯も正犯と同じく結果および危険について罪責を負い、そのことによって処罰されるだと考えれば、教唆犯にも結果についての認識(故意)が必要であり、「未遂の教唆」は不可罰であるという結論になります。

教唆犯と幇助犯の判別

狭義の共犯には、教唆犯と幇助犯があるということは、すでに述べました。幇助犯は、従犯ともいい、正犯の行為を容易にするという犯罪です。

刑法62条1項(幇助)
正犯を幇助した者は、従犯とする。

幇助犯の成立要件は、①幇助行為(幇助すること)、②正犯に故意があること、③犯罪が実行され、結果が発生することです。もちろん、実行行為と結果との間の因果関係は必要です。これらの要件は教唆犯の場合と非常によく似ていますが、②が異なります。すでに説明したように、幇助行為によってはじめて故意(犯罪遂行意思)が発生した場合には、教唆犯が成立します。

例としては、銀行強盗を教唆すると同時に拳銃を渡す場合が挙げられます。確かに、拳銃を渡すという行為は強盗行為を容易にするという点で幇助行為といえますが、正犯にもともと犯罪遂行意思がなければ、教唆犯が成立します。幇助犯が成立したときの法定刑は、正犯の刑を減軽することによって決まります。

刑法63条(従犯減軽)
従犯の刑は、正犯の刑を減軽する。

減軽の方法は刑法68条各号に定められており、一例を挙げるならば、有期の懲役および禁錮の刑はその長期および短期の2分の1を減軽するとされ(同条3号)、6月以上10年以下の懲役が定められた強制わいせつ罪(刑法176条)は、3月以上5年以下の懲役となります。

教唆に関連する種々の論点

ここからは、教唆に関するいくつかの問題点を取り上げます。なお、以下の論点は教唆に関するものですが、幇助についても同様の議論があり、結論はいずれも教唆と同じです。

過失による教唆

過失による教唆とは、不注意によって他人に犯罪の実行を決意させることです。例えば、手癖の悪いAさんに対して、Bさんが(窃盗を教唆するつもりなどなかったのに)「あの人のカバンのチャックが開いているね」などと言い、それを聞いたAさんに窃盗の意思が発生し、Aさんが窃盗を行ったとき、Bさんには窃盗の教唆犯が成立するのでしょうか。

刑法には、故意犯処罰の原則があります(刑法38条1項)。これは、過失犯を処罰する規定のある犯罪(過失致死罪など)を除いて、故意がない行為は罰しないというものです。教唆犯については、過失犯処罰規定はないため不可罰です。

結果的加重犯の教唆

結果的加重犯とは、基本となる犯罪が実現された後に、さらに一定の結果が発生した場合に、加重処罰するというものです。代表例は傷害致死罪(刑法205条)で、傷害の意思で傷害行為を行ったところ、被害者が死亡してしまったときに成立する犯罪です。もともと殺人の故意(殺意)があれば殺人罪(刑法199条)が成立することに注意してください。

さて、教唆者が正犯に対して傷害を教唆したところ、正犯が傷害致死を実現した場合、教唆者には傷害致死の教唆犯が成立するのでしょうか。この点につき、判例および通説の立場によれば、教唆した人の過失の有無にかかわらず、正犯の行為と結果に因果関係があれば、結果的加重犯の教唆は肯定されます。すなわち、上記の例でいえば、被害者が死亡することまで意図して指示したわけでなくとも(「傷害致死をやって来い」というような教唆はあり得ません。それははじめから被害者の死亡を意図したものであり、結果的加重犯である傷害致死罪ではなく殺人罪の教唆犯となります)、傷害致死罪の教唆犯となるのです。

教唆犯の法定刑は正犯と同じなので、結果的加重犯の教唆が認められるかどうかは教唆者にとって重要な問題です。再び上記の例を使うと、傷害罪の法定刑は15年以下の懲役または50万円以下の罰金であるのに対し、傷害致死罪には罰金刑はなく、3年以上(20年以下)の懲役となるからです。

片面的教唆

教唆者が犯罪行為をそそのかしたものの、被教唆者はそのことに気づかずに、犯罪の遂行を決意して犯罪行為に及んだ場合、教唆犯は成立するのでしょうか。

例えば、暴力団の組長が手下の組員に対して、「ライバルの組の○○には死んでもらわないとな」と発言し、組長の意図としては組員に対する殺人の指示であったにも関わらず、鈍感な組員がそうは受け取らず、しかしながら組員自身も組長の話を聞いてライバルの組の滅亡のためにその組員の殺人を決意したというようなケースです。判例は、被教唆者が犯罪を決意していれば足り、教唆行為に気づいていなくとも教唆犯が成立するとしています。

まとめ

いかがでしたでしょうか。この記事では、共犯とは何かということから始まり、教唆犯の成立要件、教唆と未遂に関連する論点、教唆犯と幇助犯の区別、教唆犯に関連する様々な問題点などについて解説をしてきました。難しい内容も含まれていましたが、最も簡単にまとめると、実際に殺人や窃盗を行わなくとも、他人にそれをそそのかすだけで犯罪となり、法定刑は正犯と同じということなのです。

なお、教唆容疑で逮捕されている方、逮捕される可能性のある方は、当事務所にご相談ください。教唆の事案では、正犯との関係性や正犯事件の捜査状況等を踏まえて取調べに対応していく必要があります。

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刑事事件は初動の72時間が重要です。そのため、当事務所では24時間受付のご相談窓口を設置しています。逮捕されると、72時間以内に検察官が勾留(逮捕後に更に被疑者の身体拘束を継続すること)を裁判所に請求するか釈放しなければなりません。弁護士へ依頼することで釈放される可能性が高まります。また、緊急接見にも対応しています。迅速な弁護活動が最大の特色です。

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