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無銭飲食(食い逃げ)で逮捕されたら – 刑事事件に強い弁護士が解説

「食い逃げ」「無銭飲食」、これらが犯罪であろうことは皆さんの想像されるところかと思います。
では、これらはどういった犯罪にあたるのでしょうか。
また、最近では、マッチングアプリで知り合った女性と高級レストランに行って食事を奢ったものの、その後全く連絡がとれなくなり、「食い逃げされた」と嘆く男性もいるようです。この場合、この女性は罪に問われるのでしょうか。
本コラムは代表弁護士・中村勉が執筆いたしました。

食べた後でお金がないことに気付いたら、無銭飲食で捕まるのか

いつもと違うバッグで外出し、レストランでの食事後お会計の際、財布をいつものバッグに入れたままであることに気が付き、戸惑う、そのような経験をされたことはありませんか。このような場合、友達と一緒にレストランに来ていたのであれば、友達に代わりに支払ってもらえることが多いでしょう。

では、一人で来ていたらどのような対応をとるでしょうか。
通常は「財布を家に忘れたので取ってきます。またすぐ戻ってきますので。」などと店員に伝えて財布を一旦取りに帰るしかほかないでしょう。
もっとも、同じ「財布を家に忘れたので取ってきます。またすぐ戻ってきますので。」であっても、それがウソ、すなわち、「お金を払わず逃げてやろう」という意図を隠しての発言で、かつ実際に料金を支払うために戻って来なければ、それもまた無銭飲食ですし、犯罪になってしまいます。

無銭飲食(食い逃げ)は何罪か

無銭飲食(食い逃げ)につき、窃盗罪(刑法第235条)を想像される方がいらっしゃるかもしれませんが、ほとんどの場合、詐欺罪(刑法第246条)が成立します。まずは、条文を見てみましょう。

刑法第235条(窃盗)
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
刑法第246条(詐欺)
人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

たしかに、食事は「財物」にあたります。
しかし、「窃取」とは、財物の占有者の意思に反して、その占有を自己または第三者に移すことをいいます。無銭飲食(食い逃げ)にもいくつか種類がありますが、通常、お店の店員等に対して注文をし、それに基づいて食事の提供を受けているでしょう。その場合、店員等が注文者の食い逃げの意図を知らないにせよ、食事の提供自体は自己の意思通りにしているはずです。そのため、「窃取」には当てはまらず、窃盗罪は成立しないことになります。

他方、最初から代金を支払うつもりがないのに、そういった無銭飲食の意図を秘して店員等に注文をし、食事の提供を受けたという点は、「人を欺いて財物を交付させた」ということができますので、詐欺罪(1項)が成立します。
また、通常、お店としてはそのような意図を有した客の入店は断るものと思われ、この場合、理論的には建造物の管理権者の意思に対する立入りを罰する建造物侵入罪(刑法第130条)も成立し得ます。もっとも、実務上、無銭飲食のケースで建造物侵入罪についても起訴されるというのはほとんどないようです。
なお、「人を欺いて財物を交付させた」といえるためには、厳密にいうと、以下の3点が必要です。

  • ①欺罔行為
  • ②上記欺罔行為による相手方の錯誤
  • ③上記錯誤に基づく相手方による財物の交付

仮に、店員等が注文者の様子から無銭飲食の意図を察したものの、サービス精神から無償で食事を提供していた場合には、①はありますが、②や③がないものとして、注文者には詐欺未遂罪(刑法第246条1項、第250条)が成立し得るにとどまります。
無銭飲食(食い逃げ)の中には、当初は代金を支払うつもりだったという以下のようなケースもあります。それぞれ、どのような犯罪が成立するのか見ていきましょう。

代金を支払うつもりで注文したものの、その後代金を支払う意思を失い、店員等に嘘をついて店を出たケース

この場合、注文した時点では、代金を支払う意思があり、無銭飲食の意図がありませんので、注文行為自体は欺罔行為には当たりません。食事の提供も欺罔行為によって受けたものとはいえません。

しかしながら、会計時に店員等に「お財布を忘れてしまったので、取りに帰り、すぐ戻ってきて支払う。」などと言って、あとで代金を支払ってもらえるものと店員等を錯誤に陥らせ、その錯誤に基づき、店員等が代金を支払わずに店から出ることを許可した場合には、代金支払い債務を免れるという「財産上不法の利益」を得たといえ、刑法第246条2項に規定されている詐欺罪(以下「2項詐欺」と言います。)が成立し得ます。

代金を支払うつもりで注文したものの、その後代金を支払う意思を失い、そのまま会計せずに逃げたケース

この場合も、代金支払債務を免れるという財産上の利益を得ているので、2項詐欺が成立するかが問題になりますが、店員等の目を盗んで店を出た場合、特に店員等に対して欺罔行為を行っていないので、2項詐欺罪も成立しません。

また、利益を相手方の意思に反して得るという利益窃盗なるものを罰する規定も現行法上ないため、この場合、いかなる犯罪も成立しません。
仮に、すぐ店員等に気付かれたとしても何も暴行・脅迫等せず走り去る等して逃げ切れば、この場合も、犯罪は成立しません。
なお、店員等に気付かれた後、店員等に暴行又は脅迫をすることで代金の支払いを免れた場合には、刑法第236条2項に規定されている強盗罪(以下「2項強盗」と言います。)が成立し得ます。

刑法第236条(強盗)
暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

食い逃げしても無罪

先述したとおり、食い逃げは意思が生じたタイミングによって、成立し得る詐欺罪の種類が変わり、上記B記載のケースのように、場合によっては何らの犯罪も成立しないことがあります。もっとも、会計を済ませずに逃げている以上は、注文時から代金を支払う意思がなかったことが推認され、注文後に食い逃げの意思が生じた旨弁解しても、検察官から起訴され、裁判官からも有罪と判断される可能性があります。特に、当時現金を持っていなかったり、近接した日時で同様の行為を繰り返したりしている場合には、そのように判断されやすいでしょう。ですので、上記B記載のケースの場合であっても、現実的には簡単に無罪放免ということにはならないでしょう。

詐欺罪の罰則

詐欺罪の刑罰は10年以下の懲役です(刑法第246条)。罰金刑が定められていませんので、略式手続による終結の道はなく、初犯でも公判請求されてしまう可能性が十分にあります。したがって、無銭飲食とはいえ、安易に考えることはできません。
詐欺罪は財産犯ですので、起訴猶予による不起訴処分を獲得するためには被害弁償が重要になるでしょう。

マッチングアプリで知り合った女性とレストランに行き、食い逃げされたら

詐欺罪にいう欺罔行為にあたるためには、財物の交付や財産上の利益の移転の判断の基礎となる重要な事実を偽っていることが必要です。
相手の女性に、今後の交際を見据えたデートの目的が一切なく、専ら食事を奢ってもらう目的しかなかった場合に、男性としては、「そのことが分かっていれば、食事は奢らなかった。」と思うでしょう。したがって、女性に今後の交際を見据えたデートの目的があるかどうかは男性にとって、食事を奢るか否かという判断の基礎となる重要な事実といえ、女性がこれを偽る行為は、欺罔行為に当たるとも言い得ます。

しかしながら、現実的には、女性に専ら食い逃げの意図しかなかったことを立証するのは困難です。仮に、女性が男性から食事を奢ってもらった後に連絡しなくなっただけで食い逃げしたものと認定し、女性を詐欺罪に問うようなことがあれば、社会的にも大きく問題となるでしょう。誰と連絡するか、デートするか、交際するかは本来自由ですし、一度食事を奢ってもらってしまったら、その後嫌でも連絡をとらないといけないという慣習ができれば、人々の社会生活は極めて制限されたものになるでしょう。したがって、このような場合に、相手の女性を罪に問うのは非常に困難といえます。

無銭飲食で逮捕されたら

無銭飲食のような軽微に思える犯罪でも、逮捕される可能性は十分にあります。
逮捕された場合、最大で23日間身柄を拘束されるおそれがあり、今後の社会生活に大きな影響を及ぼす可能性があります。
被害者との間で示談が成立すれば、不起訴が狙えるのみならず、早期の身柄解放にもつながり得ます。早期の身柄解放のためにも、不起訴のためにも、早めに弁護士に依頼し、被害者との示談交渉に着手してもらうのがよいでしょう。

まとめ

いかがでしたでしょうか。一口に無銭飲食といっても色々なケースが考えられますが、基本的には詐欺罪に問われうるということをお分かりいただけたと思います。
前述したとおり、詐欺罪には罰金刑が定められておらず、初犯でも公判請求されてしまう可能性があります。公判請求を回避したいのであれば、一度弁護士に相談しましょう。

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刑事事件は初動の72時間が重要です。そのため、当事務所では24時間受付のご相談窓口を設置しています。逮捕されると、72時間以内に検察官が勾留(逮捕後に更に被疑者の身体拘束を継続すること)を裁判所に請求するか釈放しなければなりません。弁護士へ依頼することで釈放される可能性が高まります。また、緊急接見にも対応しています。迅速な弁護活動が最大の特色です。

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