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併合罪とは – 併合罪の場合の量刑や判断方法について弁護士が解説

「併合罪」とは、犯罪の名前ではありません。複数の犯罪について刑罰を科す際に使われる刑法上の概念です。以下、解説します。
本コラムは代表弁護士・中村勉が執筆いたしました。

併合罪とは

刑法には第9章に「併合罪」という見出しがあり、その第9章の冒頭の第45条に、何を併合罪とするかについて定められています。

刑法第45条
確定裁判を経ていない二個以上の罪を併合罪とする。ある罪について禁錮以上の刑に処する確定裁判があったときは、その罪とその裁判が確定する前に犯した罪とに限り、併合罪とする。

まず、この規定の前段を噛み砕いて説明しますと、「同一人物が犯した、まだ確定裁判を経ていない複数の行為による複数の罪」が併合罪とされています。

「複数の罪」というのは、罪名が異なることを意味するわけではなく、罪名が同じであっても別の機会における行為によるものであれば、いずれも確定裁判を経ていない限り、併合罪となります。
例えば、Aさんが、Bさんに対する強制わいせつ行為Cさんに対する強制わいせつ行為をそれぞれ別日に行った場合で、いずれの行為もまだ確定裁判を経ていないときには、Bさんに対する強制わいせつ罪とCさんに対する強制わいせつ罪は併合罪となります。

次に、この規定の後段について説明しますと、「同一人物が犯した、禁錮以上の刑に処する確定裁判を経た罪と、当該裁判が確定する前に犯した確定裁判を経ていない罪」も併合罪となります。
例えば、上記の強制わいせつの事例で、同じ年の6月にBさんに対する強制わいせつCさんに対する強制わいせつが行われたものの、当初はBさんに対する強制わいせつしか立件されず、同じ年の10月に、Bさんに対する強制わいせつにつき、懲役1年6月、執行猶予3年に処する判決がAさんに対して言い渡され、この判決が同じ年の11月に確定したとします。その後、Cさんに対する強制わいせつが立件され、翌年1月に起訴されたとすると、Cさんに対する強制わいせつは、Bさんに対する強制わいせつの裁判が確定する前に犯した罪で、確定裁判を経ていないものになりますので、このCさんに対する強制わいせつとBさんに対する強制わいせつは併合罪となります。

併合罪の場合の併科の制限や量刑の計算について

併合罪とされた罪のうち、1個の罪について死刑に処する犯罪があるときは、没収を除く他の刑は科されません(刑法第46条1項)。
例えば、Dさんに対する殺人罪とEさんに対する傷害罪が一緒に起訴された場合に、Dさんに対する殺人罪について死刑に処するときには、没収を除く他の刑は科されません。この場合、被告人が死刑に処される以上、他の刑を科すことができないからです。

また、併合罪とされた罪のうち、1個の罪について無期懲役又は禁錮に処する犯罪があるときは、罰金、科料、没収以外の刑は科されません(刑法第46条2項)。この場合、他の有期懲役や有期禁錮等の刑を科す必要はないからです。

刑法第46条
併合罪のうちの一個の罪について死刑に処するときは、他の刑を科さない。ただし、没収は、この限りでない。
2 併合罪のうちの一個の罪について無期の懲役又は禁錮に処するときも、他の刑を科さない。ただし、罰金、科料及び没収は、この限りでない。

併合罪のうちの2個以上の罪について、有期の懲役または禁錮に処するときは、その最も重い罪について定めた刑の長期にその2分の1を加えたものが長期とされます(刑法第47条本文)。

例えば、傷害罪1個と窃盗罪1個が併合罪となっていて、これらのいずれも懲役刑に処する場合を見てみましょう。
傷害罪の法定刑は、「15年以下の懲役又は50万円以下の罰金」で(刑法第204条)、窃盗罪の法定刑は、「10年以下の懲役又は50万円以下の罰金」ですので(刑法第235条)、傷害罪の方がより重い罪が定められていることになります。したがって、傷害罪について定められた懲役刑の長期である15年にその2分の1である7年6月を加えた、22年6月がこの2個の罪について科すことのできる処断刑の長期になります。

なお、刑法第47条ただし書において、それぞれの罪について定めた刑の長期の合計を超えることはできないとされているので、もし上記の方法で出した処断刑の長期が、各罪について定めた刑の長期の合計を超える場合には、各罪について定めた刑の長期の合計が処断刑の長期となります。

例えば、窃盗罪1個と暴行罪1個が併合罪となっていて、これらのいずれも懲役刑に処する場合を見てみましょう。
暴行罪の法定刑は「2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」ですので(刑法第208条)、窃盗罪の方がより重い罪が定められています。刑法第47条本文に従えば、窃盗罪について定められた懲役刑の長期である10年に、その2分の1である5年を加えた15年が、この2個の罪について科すことのできる処断刑の長期になります。
しかし、窃盗罪について定められた刑の長期である10年と、暴行罪について定められた刑の長期である2年の合計は12年ですので、15年はこれを超えています。
したがって、この場合の処断刑の長期は15年ではなく、12年ということになります。

刑法第47条
併合罪のうちの二個以上の罪について有期の懲役又は禁錮に処するときは、その最も重い罪について定めた刑の長期にその二分の一を加えたものを長期とする。ただし、それぞれの罪について定めた刑の長期の合計を超えることはできない。

観念的競合、牽連犯との違い

併合罪も観念的競合も複数の罪にあたるという点では似ていますが、観念的競合は1個の行為が複数の罪名に触れることを指すのに対し(刑法第54条)、併合罪は複数の行為による複数の罪で、確定裁判を経ていないものを指します(刑法第45条)。
また、牽連犯については、複数の行為による複数の罪を前提にしている点で併合罪と似ていますが、牽連犯は、複数の罪の前提となる複数の行為が、手段と結果の関係にある場合のこと言い、併合罪とは違って複数の罪の間に密接関係があります。
例えば、物を盗むために他人の住居に侵入して(住居侵入罪)、物を盗んだ(窃盗罪)場合には、これらの罪は牽連犯として処理され、併合罪としては処理されません。

刑法第54条
一個の行為が二個以上の罪名に触れ、又は犯罪の手段若しくは結果である行為が他の罪名に触れるときは、その最も重い刑により処断する。

典型的な併合罪事案

同一人物による確定裁判を経ていない複数の行為による複数の犯罪が一緒に起訴されれば、これらの犯罪について裁判所が有罪判決及び刑を言い渡すにあたっては、これらは基本的に併合罪として扱われますので、併合罪のケースは沢山存在します。

実務上典型的に併合罪事案となりうるものとしては下記のような事案が挙げられます。

  • 振り込め詐欺の事案
  • 性犯罪で逮捕され、同種犯罪での余罪が発覚した事案
  • 異なる機会に複数回行われた万引き事案

いずれも、被害者が複数となった場合には、示談交渉の進め方に工夫が必要になります。
特に、振り込め詐欺の事案では、通常被害者が多数であり、再逮捕が何度も繰り返されます。その上、被害額が高額である場合が多いので、再逮捕が繰り返されている間に急いで特定の被害者と示談を進めてしまうと、後に示談のための資金が足りなくなり、示談ができない被害者が出てきてしまうことが考えられます。被害者が多数人いるケースでは、たとえ1人に対して高額の示談金を支払って示談が成立していても、残りの被害者と示談ができていなければ、量刑ではほとんど有利に働きません。量刑との関係では、できる限り多くの被害者との間で示談を成立させることが重要になります。

まとめ

いかがでしたでしょうか。併合罪として扱われるケースは実務上沢山ありますが、特に上述した被害者が複数いる併合罪事案ですと、示談交渉の進め方に工夫が必要になってきますので、刑事事件を多く扱っている弁護士に相談・依頼することをお勧めします。

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