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供述調書とは – 刑事捜査の取調べで作られる供述調書を弁護士が解説

仮にあなたが、冤罪によって逮捕されてしまったとします。あなたは日常生活から隔離され、最悪の場合には何日もの間、取り調べを受けることになります。

その中で、取調官はあなたの話を聞き、それをもとに書類を作成することになります。書面が完成すると、取り調べを行っていた者は、あなたに署名押印することを求めるでしょう。あなたが署名押印すると、この書面は裁判において使用される可能性を有することになります。

これが、いわゆる供述調書と呼ばれる書面です。あなたがその後起訴され、刑事裁判となった場合、この供述調書はあなたにとって非常に不利な影響を及ぼしかねないものといえます。憲法や刑事訴訟法には、供述調書が作成されるにあたってあなたが知っておくべき数々の権利が定められています。

一方で、このような権利規定は皆が皆知っているというわけではなく、まだまだ浸透していないのが現状です。万が一逮捕されてしまった場合には、供述調書に関して知っておかなければいけない数々の法的事項や注意点が存在します。今回は、この供述調書について、その内容や作成される際の流れ、署名押印時における注意点、困ったときにおける対処法等を中心に、詳しく解説していきます。

供述調書とは

供述調書とは、被疑者や被告人、その他の参考人といった者の供述を第三者が聞き取ったうえで作成する書面を指します。
供述録取書と呼ばれることもあります。内容としては、まず供述を行った者の個人情報が記載されます。具体的には、住所、氏名、生年月日、職業、電話番号などです。その次に、事件の具体的内容が記載されます。これはおおまかに3つの類型に分類できます。

(1) 事件につき全面的に認めた場合

取り調べを受けた者が語った事件のあらましが一人称で記述されます。書面を実際に作成しているのは取調官であるにもかかわらず、外見はあたかもあなた自身が作成したかのような印象を受ける点には注意が必要です。具体的には、以下のようになります。

私は令和元年○月✕日午後△時頃、大阪府大阪市北区□丁目にあるカラオケ店で、従業員とトラブルになり、とっさに空手技である後ろ回し蹴りをした結果、従業員に全治3か月のけがを負わせました。
当時の状況についてお話しします。
私は、令和元年○月✕日午後△時ごろ、大阪府大阪市北区□丁目にあるカラオケ店Αへを彼女と訪れました。その日は居酒屋を2件はしごした後カラオケ店に立ち寄ったので、かなり酔っていたと思います。
そのカラオケ店ではルーム料金さえはらえばアルコールも数種類無料で注文できたため、私は彼女と何杯かチューハイやサングリア、ビールに焼酎の水割りを飲みました。
退店する際、私は割引券を持っていたためこれを提示しましたが、従業員はなぜかこれの使用を認めませんでした。口論になり、かっとなった私は、とっさに従業員の側頭部めがけて空手技である後ろ回し蹴りを放ちました。
私の足は従業員の頭に当たり、衝撃で従業員は倒れて床に体を打ちました。

(2) 事件を否認している場合

あなたが事件について、捜査官が指摘したことと異なる事実を述べている場合、一人称形式ではなく、問答形式で調書が作成されます。具体的には、以下のようになります。

    捜査官
    「あなたは、令和元年○月✕日午後△時頃、大阪府大阪市北区□丁目にあるカラオケ店を訪れましたか」
    あなた
    「いいえ」
    捜査官
    「あなたは、令和元年○月✕日午後△時頃、当時交際していた○○○さんと一緒にいましたか」
    あなた
    「いいえ」
    捜査官
    「○○○さんは、令和元年○月✕日午後△時頃、あなたと一緒に大阪府大阪市北区□丁目にあるカラオケ店Αにいたといっていましたよ」
    あなた
    「そのような事実はありません。○○○はうそをついているに違いありません」

(3) 全面的に黙秘している場合

仮にあなたが事件につき全面的に沈黙を貫いている場合、上記のような調書は作成することが不可能です。そのため、全面的に黙秘を貫いた場合は、供述調書があなたに不利な証拠として以後裁判で使用されることはありません。

このように、事件を全面的に認めてしまった場合、あたかもあなたが作成したかのような書面が、のちに裁判で証拠として使用されてしまうことになります。一方で、(2)や(3)のように否認や黙秘をすることは、すべての者の権利として認められています。

それでは、この供述調書は、いったいいかなる流れで作成されるのでしょうか。また、供述調書作成時、あなたは具体的にいかなる根拠に基づいて、自己の権利を守ることができるのでしょうか。

供述調書が作られる際の流れ

あなたが逮捕されると、検察官や検察事務官、司法警察職員といった者から取り調べを受けることになります。まず取り調べを行う者は、取調中あなたに事件について数多くの質問をします。法的な根拠としては、刑事訴訟法198条1項本文が挙げられます。具体的には、事件当日どこにいたか、何をしていたか、犯行を行ったのか、といった事項について尋ねることになります。

このような取り調べでは、捜査官はあなたに対し、自己の意志に反して供述をする必要がないことを告げる義務があります。条文では刑事訴訟法198条2項に定められています。取り調べが終了すると、取調官は質問及び回答をもとに書面を作成します。これが供述調書であり、刑事訴訟法198条3項に規定があります。

その際、あなたは、捜査官が書きあげた供述調書を見せるよう請求すること、または読み聞かせてもらうことを請求することができます。刑事訴訟法198条4項による請求です。供述調書を確認して、事実通りの正しいものである、とあなたが捜査官に言った場合、取調官はあなたに署名押印を求めます。(刑事訴訟法198条5項本文)その理由は、供述調書(供述録取書)は供述をした人の署名押印がないと、裁判においては証拠として使用できないからです。これは、刑事訴訟法322条1項本文に定められています。

もっとも、署名押印をすることは義務ではありません。調書に誤っているところがないと判断した場合でも、署名押印は拒むことができます。(刑事訴訟法198条5項但し書き)

刑事訴訟法第198条
1. 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者の出頭を求め、これを取り調べることができる。但し、被疑者は、逮捕又は勾留されている場合を除いては、出頭を拒み、又は出頭後、何時でも退去することができる。
2. 前項の取調に際しては、被疑者に対し、あらかじめ、自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げなければならない。
3. 被疑者の供述は、これを調書に録取することができる。
4. 前項の調書は、これを被疑者に閲覧させ、又は読み聞かせて、誤がないかどうかを問い、被疑者が増減変更の申立をしたときは、その供述を調書に記載しなければならない。
5. 被疑者が、調書に誤のないことを申し立てたときは、これに署名押印することを求めることができる。但し、これを拒絶した場合は、この限りでない。

刑事訴訟法第322条
1. 被告人が作成した供述書又は被告人の供述を録取した書面で被告人の署名若しくは押印のあるものは、その供述が被告人に不利益な事実の承認を内容とするものであるとき、又は特に信用すべき情況の下にされたものであるときに限り、これを証拠とすることができる。但し、被告人に不利益な事実の承認を内容とする書面は、その承認が自白でない場合においても、第319条の規定に準じ、任意にされたものでない疑があると認めるときは、これを証拠とすることができない。

供述調書の署名・押印時における確認点

1. 黙秘権との関係

まず、あなたには自己に不利益な供述を強要されない権利があります。これは憲法38条1項に定められており、これを受けた規定が先ほどの刑事訴訟法198条2項です。捜査官はあなたに対し、自己の意志に反して供述をする必要がないことを告げる義務を負います。

このため、捜査官の脅迫や威嚇的態度によって事実と異なる供述を強要された場合には、署名押印を拒否しておくべきです。あなたには、自己の供述と食い違う調書に署名押印する義務はありません。さもないと、のちの裁判で、供述調書が証拠として利用されてしまいかねません。

2. 訂正の請求

つぎに、あなたは供述調書を閲覧させてもらった、または読み聞かせてもらった後で、気になる点があれば訂正を請求することができます。この訂正は原則として署名押印を行った後は請求できません。そのため、署名押印をする前に、じっくりと供述調書の内容を閲覧もしくは傾聴し、事実の誤りや表現の違いがない確認する必要があります。

おかしな部分があればその場で速やかに指摘し、訂正してもらったことを確かめた後で、署名押印を行うようにしましょう。

3. 署名押印の義務

先ほど見た条文である刑事訴訟法198条5項は、あなたが供述調書に署名押印する義務はないことを示しています。この条文は、あなたが供述調書に誤りがないと言った時に初めて、捜査官は署名押印するよう求めることができるとしているにすぎません。そのため、捜査官から署名押印を強く求められた場合でも、供述調書に意に沿わない点があれば、毅然とした態度で署名押印に応じる義務はないことを主張すべきです。

憲法第38条1項
何人も、自己に不利益な供述を強要されない。

供述調書作成時に困ったら

これまで逮捕されたことがない方は、供述調書作成に際してどのように対処すればよいか判断に迷ってしまうことがあるかと思われます。また、長時間の取り調べや日常生活から隔離されてしまったことで、正常な判断ができない状態に陥ってしまうこともあると思います。そのような場合は、速やかに刑事弁護を専門とする弁護士に依頼することをお勧めします。

憲法34条前段、憲法37条3項は、弁護人選任権を定めており、あなたには弁護人を選任する権利があります。そのため、自分だけでどうすればよいか判断がつかないときは、黙秘権を行使するとともに、弁護人選任権を行使して、法の専門家である弁護士にアドバイスを求めることが考えられます。

刑事訴訟法39条1項は、身体を拘束された被疑者被告人に対し、弁護人と接見交通する権利、つまり実際に弁護士と顔を合わせて具体的な助言を得る権利を保障しています。これには捜査官は立ち会えないので、安心して供述調書等に関し質問することができます。

供述調書作成にあたり、自分だけの判断で軽率に供述し、署名押印してしまうと、裁判においては自己に非常に不利な影響を及ぼす恐れがあります。そのため、すこしでも疑問点や不安な点があれば、すみやかに刑事事件専門の弁護士に相談し、適切な助言を受けるべきであるといえます。

憲法34条前段
何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。

憲法37条3項
刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを附する。

刑事訴訟法第39条1項
身体の拘束を受けている被告人又は被疑者は、弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者(弁護士でない者にあっては、第31条第2項の許可があった後に限る。)と立会人なくして接見し、又は書類若しくは物の授受をすることができる。

まとめ

いかがでしたでしょうか。今回は、供述調書について、その内容や作成時の流れ、署名押印時の留意点や作成時に困った場合の対処法といった観点から解説させていただきました。逮捕され、日常生活と切り離された環境では、供述調書に関する情報や対処法についてもアクセスするのが困難かと思われます。そのようなときは、迷わず刑事事件を専門に扱う弁護士に相談することをお勧めします。

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経験豊富な弁護士がスピード対応

刑事事件は初動の72時間が重要です。そのため、当事務所では24時間受付のご相談窓口を設置しています。逮捕されると、72時間以内に検察官が勾留(逮捕後に更に被疑者の身体拘束を継続すること)を裁判所に請求するか釈放しなければなりません。弁護士へ依頼することで釈放される可能性が高まります。また、緊急接見にも対応しています。迅速な弁護活動が最大の特色です。

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