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刑事事件の判決 – 刑事事件の判決の種類とその後の流れを弁護士が解説

刑事事件、特に刑事裁判の報道で「有罪判決」や「無罪判決」、「実刑判決」や「執行猶予付き判決」というのを聞いたことがあるかもしれません。前者は何となくお分かりかもしれませんが、後者の違いはご存じでしょうか。「執行猶予」と「起訴猶予」はいかがでしょうか。

ここでは、刑事事件の判決にどのような種類があるのか等を代表弁護士・中村勉が解説いたします。

判決の種類

無罪判決

無罪判決とは、公訴事実、つまり検察官が裁判所に「この被告人は○○という行為で××という罪を犯した」等と訴えた内容が「罪とならないとき」又は「犯罪の証明がないとき」に、言い渡される判決です(刑事訴訟法第336条)。文字通り、罪はないという判断がされますので、刑罰は科されません。

刑事訴訟法第336条
被告事件が罪とならないとき、又は被告事件について犯罪の証明がないときは、判決で無罪の言渡をしなければならない。

有罪判決

有罪判決とは、無罪判決とは逆に、公訴事実につき犯罪の証明があったときに言い渡される判決です。
公訴事実について、犯罪の証明があったときには、判決で刑の言渡しをすることとなっています(刑事訴訟法第333条1項)。

刑事訴訟法第333条1項
被告事件について犯罪の証明があつたときは、第三百三十四条の場合を除いては、判決で刑の言渡をしなければならない。

管轄違い判決

裁判所はそれぞれ管轄(担当エリア)が決まっていますので、検察官が各事件を公訴提起する際には、管轄権のある裁判所に対してされなければなりません。
実際問題、検察官が管轄権のない裁判所に公訴提起してしまうことは滅多にありませんが、万が一、そのようなことがあった場合に、裁判所が言い渡すのが管轄違いの判決です(刑事訴訟法第329条)。

この場合、公訴事実(訴えの中身)については何ら判断がされませんので、公訴事実について判断がされる無罪判決や有罪判決が実体裁判と呼ばれるのに対し、管轄違い判決は形式裁判と呼ばれます。

つまるところ、検察官が書類の提出先を間違えると言い渡される判決であり、間違えられた側の裁判所は書類の中身は読まず、「提出先を間違えており、マニュアルに正しく沿っていない」、と形式面だけ判断するというわけです。

刑事訴訟法第329条
被告事件が裁判所の管轄に属しないときは、判決で管轄違の言渡をしなければならない。但し、第二百六十六条第二号の規定により地方裁判所の審判に付された事件については、管轄違の言渡をすることはできない。

公訴棄却判決

公訴棄却判決とは、裁判をするための形式的な条件である訴訟条件が欠けている場合に、公訴を棄却して、訴訟を打ち切るためにされる判決です(刑事訴訟法第338条)。形式裁判であり、公訴事実については何ら判断がされません。

刑事訴訟法第338条
左の場合には、判決で公訴を棄却しなければならない。
一 被告人に対して裁判権を有しないとき。
二 第三百四十条の規定に違反して公訴が提起されたとき。
三 公訴の提起があつた事件について、更に同一裁判所に公訴が提起されたとき。
四 公訴提起の手続がその規定に違反したため無効であるとき。

免訴判決

免訴判決とは、公訴時効が完成している場合など、検察官の公訴権(公訴を提起して裁判所に裁判を求める権限)が消滅している場合に、訴訟を打ち切るためにされる判決です(刑事訴訟法第337条)。この場合も、公訴事実自体については判断がされませんので、免訴判決も形式裁判となります。

刑事訴訟法第337条
左の場合には、判決で免訴の言渡をしなければならない。
一 確定判決を経たとき。
二 犯罪後の法令により刑が廃止されたとき。
三 大赦があつたとき。
四 時効が完成したとき。

有罪判決の種類

実刑判決

実刑判決とは、有罪判決のうち、刑の言渡しと同時に、その刑の執行猶予が言い渡されない判決のことをいいます。
罰金刑の執行が猶予されることは稀ですので、通常、実刑判決というと、懲役刑や禁錮刑の言渡しに際し、刑の執行猶予が付かない判決をいいます。
以下、本記事においても、懲役刑や禁錮刑の刑の言渡しに際し、刑の執行猶予が付かない判決のことを「実刑判決」といいます。

執行猶予付き判決

執行猶予付き判決とは、有罪判決のうち、刑の言渡しと同時に、その刑の執行猶予が言い渡される判決のことをいいます(刑事訴訟法第333条2項)。
執行猶予は、有罪判決の際言い渡される刑の執行を一定期間猶予し、同期間に罪を犯さないことを条件として刑罰権を消滅させる制度です。執行猶予には刑の全部の執行を猶予する場合と、刑の一部の執行を猶予する場合とがありますが、基本的に「執行猶予付き判決」と言うときには、刑の全部の執行が猶予される場合を指すことが多いです。

以下、本記事においても刑の全部の執行が猶予される場合の判決を「執行猶予付き判決」いいます。

刑事訴訟法第333条第2項
刑の執行猶予は、刑の言渡しと同時に、判決でその言渡しをしなければならない。猶予の期間中保護観察に付する場合も、同様とする。

執行猶予が言い渡されるのは、ほとんど懲役刑や禁錮刑の自由刑で、罰金刑で執行猶予が言い渡されることはほとんどありません。
刑の執行猶予は後述する刑の免除とは異なりますので、執行猶予付き判決が言い渡される場合には、どの程度の期間、執行を猶予するのかも共に言い渡されます。
(例)「被告人を懲役1年6月に処する。この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。」

「執行猶予」と「起訴猶予」の違い

なお、刑事事件においては、「執行猶予」と似て非なるものに「起訴猶予」というものがあります。起訴猶予は判決ではなく、起訴を猶予するという検察官の判断のことをいいます。不起訴処分の理由の一つです。つまり、刑事裁判の前段階の話になります。
検察官は、起訴した場合に有罪判決の言渡しを受けるのに十分な証拠がないと判断した場合には「嫌疑不十分」という理由で(嫌疑が全くないと判断する場合には「嫌疑なし」という理由で)、被疑者を不起訴処分にします。

また、検察官は、仮に有罪判決を受けるのに十分な証拠がある、すなわち、嫌疑が十分であると判断した場合であっても、刑事訴訟法第248条により、なお被疑者を不起訴処分にすることができます。この場合、「起訴猶予」という理由で被疑者を不起訴処分にしていることとなります。

刑事訴訟法第248条
犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。

公訴の提起について、そのような裁量を検察官に与える制度を起訴便宜主義といいます。日本では、この起訴便宜主義がよく機能しており、不起訴処分の理由の多くが、起訴猶予となっています。検察官による起訴猶予が獲得できれば、そもそも裁判にならず、前科はつかないことになります。
ですので、刑事事件の被疑者として取調べを受け、かつ、被疑事実を認めていて証拠関係からも争いようがない場合には、まずは、起訴猶予を目指すべきことになります。

刑の免除判決

刑の免除判決とは、有罪判決のうち、刑の免除を言い渡す判決のことをいいます(刑事訴訟法第334条)。
刑を免除するだけであって、犯罪事実自体は認定されて有罪と判断されていることが大前提にありますので、刑の免除判決はあくまでも有罪判決になります。

刑事訴訟法第334条
被告事件について刑を免除するときは、判決でその旨の言渡をしなければならない。

実刑判決と執行猶予付き判決の判決後の流れ

各判決後の流れは、判決時に被告人の身柄が拘束されているかによっても変わってきます。

実刑判決の場合

判決時に身柄が拘束されている場合(勾留中の場合)

判決後もそのまま身柄拘束が続きます。
そして、判決の翌日から起算して2週間以内に控訴の申立てをせず判決が確定したら、順次、刑務所に収容されます。

判決時に身柄が拘束されていない場合

(1)保釈中により身柄が拘束されていない場合
禁錮以上の刑に処する判決の宣告があったときには、保釈はその効力を失います(刑事訴訟法第343条)。その結果、保釈前の元の勾留状態に戻ることになりますので、判決後すぐに身柄拘束されることになります。
法廷の傍聴席で待機していた検察事務官に連れられて法廷の裏口から出ていき、まずは拘置所に移送され、その後、判決が確定したら、順次刑務所に収容されます。
なお、判決後、すぐに再保釈の請求をし、それが許可された場合には、許可の時間や追加の保釈金の納付のタイミングにもよりますが、当日やその翌日等に身柄が解放されます。

(2)在宅起訴されたことにより身柄が拘束されていない場合
元々勾留状が発付されていませんので、すぐには刑事施設に収容されません。判決確定後、検察庁の執行係から、受刑のための出頭日を知らせる通知が来ますので、その日に出頭することにより、刑事施設に収容されることになります。

執行猶予付き判決の場合

判決時に身柄が拘束されている場合(勾留中の場合)

執行猶予付き判決が出た場合には、勾留状はその効力を失います(刑事訴訟法第345条)。したがって、判決後、その場で身柄が解放されることになります。

判決時に身柄が拘束されていない場合

禁錮以上の刑に処する判決の宣告あったときには、保釈の効力は失われますが(刑事訴訟法第343条)、同時に執行猶予の言渡しがされることにより、勾留状の効力も失われます(刑事訴訟法第345条)。したがって、在宅起訴されていてもともと身柄が拘束されていなかった方はもちろんのこと、保釈により身柄拘束されていなかった方も、判決後身柄拘束されることはありません。

執行猶予付き判決を得るためにはどうすればよいか

刑の全部の執行を猶予することができる場合は刑法第25条に定められています。執行を猶予することができる期間は、最短1年、最長5年です。

刑法第25条(刑の全部の執行猶予)
次に掲げる者が三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から一年以上五年以下の期間、その刑の全部の執行を猶予することができる。
一 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
二 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
2 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその刑の全部の執行を猶予された者が一年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときも、前項と同様とする。ただし、次条第一項の規定により保護観察に付せられ、その期間内に更に罪を犯した者については、この限りでない。

上記条文を見ていただきますと、まず、大前提の要件として、前に禁錮以上の刑に処せられたことがないこと、または、前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から禁錮以上の刑に処せられずに5年が経過していることが必要であることが分かると思います(刑法第25条1項1号、2号)。

そして、今回言い渡される刑が、3年以下の懲役若しくは禁錮である必要があります(刑法第25条1項柱書)。
犯罪によっては、3年を超える下限の懲役や禁錮が法定されていますので(例:殺人罪)、その場合には刑の減軽事由がない限り、執行猶予は望めないということになります。

「刑に処せられた」とは、刑の執行を受けたことを意味するものではなく、刑の言渡しがされたことを意味するから、刑の言渡しと同時に刑の執行が猶予された場合も「刑に処せられた」に当たります(最高裁昭和24年3月31日判決)。
ただし、刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消されることなくその猶予の期間が経過した場合には、刑の言渡しは効力を失いますので(刑法第27条)、執行猶予期間の経過により、禁錮以上の刑に処せられたことがないことになります。
また、「執行を終わった日」とは、全部の刑の執行を受け終わった日または仮釈放を取り消されることなくその期間が満了した日をいいます。

まとめますと、前科が全くなければ上記大前提の要件を満たしますが、①前に執行猶予付き判決を受けたことがある場合には、その執行猶予が取り消されずに執行猶予期間を満了していること、②前に実刑判決を受けたことがある場合には、服役を終えた日(仮釈放された場合には、その期間が満了した日)から別の禁錮以上の有罪判決を受けずに5年が経過していることが必要といえます。

なお、例外的に、前に執行猶予付き判決を受けていて、その執行猶予期間が満了していない場合、すなわち執行猶予中であっても、情状に特に酌量すべきものがある場合には、言い渡す刑が1年以下の懲役又は禁錮である場合に限り、再度、刑の全部の執行猶予を受けることができるとされています(刑法第25条2項)。

実務上は、前に執行猶予付き判決を受けていて、かつ、その執行猶予期間が満了している場合であっても、その期間経過後、数ヶ月以内、数年以内に犯した犯罪ですと、執行猶予は付かず、実刑判決となる傾向にあります。ですので、刑法第25条2項に規定されている例外規定が適用される事案というのはかなりのレアケースと考えられます。また、初犯であっても、前述した法定刑による制限がありますし、事案の悪質性や被害の重大性等によっては、執行猶予付き判決を得るのはとても難しくなってきます。

一般的に、執行猶予付き判決とするか否かの判断にあたり考慮されているものと思われるのは、以下のような事情です。

  • 被害が比較的軽微であること
  • 犯行態様がそこまで悪質でないこと
  • 犯行態様が悪質であっても、被害者との間で示談が成立していること
  • 財産犯であれば、被害弁償がされていること
  • 犯行動機に酌量の余地があること
  • 反省の態度が認められること
  • 実名報道や懲戒解雇等によりすでに社会的制裁を受けていること
  • 犯罪傾向が進んでいないこと(前科の有無や数、最新の前科にかかる判決確定日から経過している期間等)
  • 監督者がいる、再犯防止策をとっている等により再犯可能性が低いと認められること 等々

被害者がいる犯罪においては、やはり被害者の受けた被害に対する手当てがなされているかが重視されます。
薬物の単純使用・所持等の被害者がいない犯罪においては、同種前科の有無や反省の態度、再犯防止策等が重視される傾向にあります。
これらの事情を裁判官に対してしっかりアピールするためには、刑事事件を多く扱っている弁護士に弁護を依頼するのがよいでしょう。

まとめ

刑事裁判の判決の違いをお分かりいただけましたでしょうか。
特に、実刑判決と執行猶予付き判決では、判決後の流れが大きく変わっていきますので、判決日を控えている方は、当日困惑しないよう、流れを正確に理解しておきましょう。

また、似たような響きでも「執行猶予」と「起訴猶予」とでは意味が全く異なります。もし、まだ起訴される前の段階なのであれば、まずは「起訴猶予」を目指せないか、弁護士に相談するといいでしょう。
起訴された後であっても、執行猶予付き判決を受けたいのであれば、刑事事件に詳しい弁護士に見通し等について相談し、場合によっては依頼を検討するのがよいでしょう。

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経験豊富な弁護士がスピード対応

刑事事件は初動の72時間が重要です。そのため、当事務所では24時間受付のご相談窓口を設置しています。逮捕されると、72時間以内に検察官が勾留(逮捕後に更に被疑者の身体拘束を継続すること)を裁判所に請求するか釈放しなければなりません。弁護士へ依頼することで釈放される可能性が高まります。また、緊急接見にも対応しています。迅速な弁護活動が最大の特色です。

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