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控訴審の構造について弁護士が解説

以下、控訴事由・控訴審の手続・日本における控訴審の構造など弁護士・中村勉が解説します。

刑事控訴審の構造と刑訴382条の2について弁護士が解説

刑事裁判において、被告人が第一審の判決に不服がある場合に、控訴を強く希望するというニュースやドラマ・映画のシーンを観たことがあると思います。しかし、刑事控訴審といってもその構造を正確に把握している人は少ないのではないでしょうか。

控訴とは、第一審の判決に不服がある訴訟の当事者が、上級裁判所に対し判決に誤りがあることを主張してその取消しや変更を求める手続をいいます。日本の刑事控訴審は、第一審の裁判とは全く異なった手続となっています。

そして、日本の刑事控訴審は事後審化が進んでおり、控訴できる理由などについても限定されているため、控訴するとしても慎重に検討する必要があります。事後審とは、後に述べるとおり、判決の当否を原審(第一審)の訴訟記録により上級審(控訴審)で審査することです。

一審判決に不服がある場合、どのような事由で控訴できるか

控訴は、上記のように、第一審の判決に誤りがあることを主張してその取消しや変更を求める手続です。そのため、控訴を行うためには、原判決に誤りがあること、すなわち控訴理由を主張する必要があります。日本の控訴の申立ては、控訴理由があるときに限ってすることができます(刑事訴訟法第384条)。どのような事由が控訴理由になるかについては、刑事訴訟法が以下のように規定しています。

絶対的控訴理由(刑事訴訟法第377条、378条)

下記の法令違反がある場合には、法令違反が一審判決の結果に影響したかどうかを問わず、法令違反があることのみを理由として控訴理由となります(「絶対的控訴理由」と呼ばれます)。

  • 法律に従って判決裁判所を構成しなかったこと
  • 法令により判決に関与することができない裁判官が判決に関与したこと
  • 審判の公開に関する規定に違反したこと
  • 不法に管轄または管轄違を認めたこと
  • 不法に、公訴を受理し、またはこれを棄却したこと
  • 審判の請求を受けた事件について判決をせず、または審判の請求を受けない事件について判決をしたこと
  • 判決に理由を附せず、または理由にくいちがいがあること

相対的控訴理由(刑事訴訟法第379条)

法令違反があり、その法令違反が第一審の判決に影響を及ぼすことが明らかである場合、控訴理由となります(相対的控訴理由)。絶対的控訴理由と異なり、法令違反が第一審の判決に影響を及ぼすことが明らかである場合に限って、控訴理由となります。なお、「判決に影響を及ぼすことが明らか」とは、その法令違反がなければ異なる判決がなされたであろうという蓋然性がある場合を意味します(最大判昭和30年6月22日)。

法令適用の誤り(刑事訴訟法第380条)

第一審の判決に実体法の適用の誤りがあり、その誤りが判決に影響を及ぼすことが明らかである場合には、控訴理由となります。実体法の適用の誤りとは、認定された事実に対して適用すべき法令が適用されていないことをいいます。

量刑不当(刑事訴訟法第381条)

第一審の判決の量刑が不当である場合には、控訴理由となります。量刑が不当とは、第一審判決で言い渡された刑が合理的な裁量の範囲外にあることをいいます。実務上、控訴理由の多くは量刑不当と言えます。

事実誤認(刑事訴訟法第382条)

第一審の判決に事実の誤認があって、その誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかである場合には、控訴理由となります。事実誤認とは、第一審判決が認定した事実が、訴訟記録中の証拠を考慮して認定されるべきであった事実と合致しないことをいいます。「事実」とは、刑罰権の存否やその範囲を基礎付ける事実をいいますが、簡単にいえば、犯罪が成立するために必要な事実のことです。

また、「誤認」があったかについては、第一審の事実認定が論理則・経験則に照らして不合理であるかで判断されます。これは、簡単にいえば、証拠の存在と認定された事実が論理的に整合するか、経験上不自然ではないかを意味します。

再審事由(刑事訴訟法第383条)

確定した判決に対して再審請求ができる事由がある場合、判決があった後に刑の廃止若しくは変更又は大赦があった場合には、控訴理由となります。

控訴審の手続はどのようなものか

控訴申立ての手続に問題がなかった場合には、刑事事件の場合、高等裁判所で控訴審が開かれることになります。もっとも、刑事控訴審は、原則として新たな裁判資料の提出を認めていないため、第一審とは手続が異なります。刑事控訴審では、第一審で取り調べた証拠に基づいて、第一審判決に上記の控訴理由が存在するか否かを事後的に審査します。

刑事控訴審の流れ

刑事控訴審は、第一回公判期日前に、控訴趣意書・答弁書・訴訟記録について検討し、第一回公判期日では、控訴趣意書に基づく弁論や答弁書の陳述が主に行われることになります。また、場合によっては、公判期日において事実の取調べが行われることがありますが、第一審のように証人や証拠の取調べは行われない事件が大半です。

刑事控訴審は、上記の手続を経て、控訴棄却判決(法第395条、第396条)・原判決破棄判決(破棄差戻し・破棄移送・破棄自判。法第397条ないし第400条)・公訴棄却(法第403条)を行うことになります。なお、明らかな控訴申立の方式違反・控訴権消滅後の控訴申立の場合(法第385条)、控訴趣意書の提出期間内不提出、控訴趣意書の方式違反、控訴申立理由の明らかな不該当の場合(法第386条)には、上記の手続を経ずとも控訴棄却決定がなされてしまいます。

控訴審の審理構造としての続審・覆審・事後審

続審

続審とは、下級審の審理を基礎としながら、上級審においても新たな訴訟資料の提出を認めて事件の審理を続行することをいいます。簡単にいえば、控訴審は第一審の審理を土台にするものの、第一審の延長として引続き審理を継続するというものです。日本における民事訴訟は、控訴審においても新たな証拠や主張を提出することができるため、「続審」制であると考えられています。

覆審

覆審とは、下級審の審理とは無関係に、上級審が訴訟資料を集め、その訴訟資料に基づいて新たに事件の審理をやり直すことをいいます。簡単にいえば、控訴審が、第一審と無関係に、第一審と同様の手続を改めて行うことをいいます。日本における旧刑事訴訟法の控訴審は、第一審と同様の手続を繰り返していたため、「覆審」制であったと言われています。

事後審

事後審とは、上級審が自ら審理を継続して新たな心証を形成するのではなく、下級審の訴訟資料に基づいて原判決の当否を審査することをいいます。簡単にいえば、控訴審が、第一審の訴訟記録に基づいて、第一審判決の当否を事後的に判断することをいいます。日本における現行刑事訴訟法の控訴審は、原則として新たな裁判資料の提出を認めていないことから、「事後審」制であると言われています。

わが国刑訴法における控訴審の構造とは

上記のように、日本の刑事控訴審の審理では、場合によっては、公判期日において事実の取調べが行われることがありますが、基本的には第一審のように証人や証拠の取調べは行われません。つまり、日本の刑事控訴審の審理では、原則として新たな裁判資料の提出が認められず、第一審で取調べられた証拠に基づいて、第一審判決の当否が事後的に審査されることになります。したがって、日本の刑事控訴審は、「事後審」制であるといえます。

もっとも、やむを得ない事由によって第一審の弁論終結前に取調を請求することができなかった証拠等は控訴審で提出が認められ、第一審判決の後に新たに生じた量刑に関する事実等については事実の取調べが行われるため、事後審の性格は一定程度緩められているといえます。

一審との違い

  • 刑事控訴審では被告人に対する「人定質問」や検察官の「起訴状朗読」などは行われない(一方で、裁判官は第一審の記録等を全て検討済みである)。
  • 刑事控訴審では原則として新たな裁判資料の提出を認めていない。
  • 刑事控訴審では被告人の出席は必要ではないため、被告人が出席していない場合でも裁判は開かれる。
  • 第一審で選任された国選弁護人は、第一審判決の宣告後、上訴期間の満了等により、委任関係が終了することになる。
  • 刑事控訴審では裁判員裁判は行われない。

など、控訴審には様々な独自のルールがあります。

量刑不当・事実誤認に関する特則(刑事訴訟法第382条の2)はなぜ存在するのか

刑事訴訟法第382条の2は、「量刑不当・事実誤認に関する特則」と呼ばれ、以下のように規定されています。

刑事訴訟法第382条の2
1 やむを得ない事由によって第一審の弁論終結前に取調を請求することができなかった証拠によって証明することのできる事実であって前二条に規定する控訴申立の理由があることを信ずるに足りるものは、訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われている事実以外の事実であっても、控訴趣意書にこれを援用することができる。
2 第一審の弁論終結後判決前に生じた事実であって前二条に規定する控訴申立の理由があることを信ずるに足りるものについても、前項と同様である。
3 前二項の場合には、控訴趣意書に、その事実を疎明する資料を添附しなければならない。第一項の場合には、やむを得ない事由によってその証拠の取調を請求することができなかった旨を疎明する資料をも添附しなければならない。

これは、要するに、「やむを得ない事由」によって第一審で取調べを請求できなかった証拠から、上記の量刑不当・事実誤認の控訴理由があると信じる事実がある場合には、控訴趣意書に記載することができるとするものです。このような特則が設けられた趣旨は、当事者が第一審において主張できなかったことにつき、当事者を非難できないときは、控訴審において新たな事実の取調べを認めても、第一審集中主義が軽視されるおそれはなく、かつ実体的にもより妥当な判断を行えるという点にあります(三井誠・河原俊也・上野友慈・岡慎一(編)(2018)新基本法コンメンタール刑事訴訟法第3版 1098頁)。

つまり、第一審において主張できなかった当事者を非難することができないため提出しなかった責任をその当事者に問うことはできず、判決の妥当な結論にも有益であるという点から、この特則は設けられたといえます。

「やむを得ない事由」とはどのような事由を言うのか

上記の趣旨からすると、「やむを得ない事由」の有無は、物理的な可能性の有無を基準にするのではなく、物理的に可能であっても、第一審で取調べ請求しなかったことにつき、当事者に責任を問えるかどうか(答責性)の観点から判断すべきものとされています(三井誠・河原俊也・上野友慈・岡慎一(編)(2018)新基本法コンメンタール刑事訴訟法第3版 1098頁)。

「やむを得ない事由」が肯定された例

  • 被告人が前科や氏名を偽るなどの事情により、検察官が、原審の弁論終結前に刑の執行猶予言渡しの障害となる被告人の前科に関する証拠の取調べを請求することができなかった事例(東京高判昭和43年4月30日)
  • 被害者のいる犯罪で一審の審理後に示談が成立した場合
    →第一審判決後、強姦事件の被害者1名と示談が成立し、その示談の成立が判決後になったのはやむを得ず、一審判決時に示談が成立していればより短い刑が言い渡されていたとして、一審判決を破棄して減軽した事例(東京高判平成22年5月26日)。
  • 第一審において、犯人が眼鏡を掛けていたという点が主張立証の俎上(ソジョウ:問題として取り上げて議論すること)に載せられていなかったにもかかわらず、判決理由中で突如この点を認定して、無罪判断の中核的理由としたため、この点に関する主張立証を新たに展開する必要性が生じたとされた事例(東京高判平成25年9月10日)。

「やむを得ない事情」が否定された例

  • 被告人が第一審当時において、身体が衰弱しており争う気力を失っていたことが、「やむを得ない事由」にあたらないとされた事例(大阪高判昭和44年10月16日)。
  • 弁護人が証拠の存在を既に知っていたが、被告人の要望もあって原審において全く主張せず、控訴審において初めて主張することが、「やむを得ない事由」にあたらないとされた事例(東京高判昭和43年10月22日)。
  • 控訴審において弁護人が自首の主張をし、新たな証拠として被告人の検察官調書を取調べ請求したが、原審において公判前整理手続を経ており検察官から証拠開示がなされていたことが、「やむを得ない事由」にあたらないとされた事例(東京高判平成21年10月20日)。
  • 被告人が第一審において、量刑上有利に扱われることを期待して事実を争わず、控訴審において初めて主張したことが「やむを得ない事由」にあたらないとされた事例(最決昭和62年10月30日)。

まとめ

いかがでしたでしょうか。第一審で経験不足・意欲不足の弁護士に依頼したために、期待した弁護側の主張・証拠の提出が不十分で、第一審の判決の結果に後悔されている方もいらっしゃるかと思います。

最高裁での逆転判決はまず困難であることから、控訴審は逆転の可能性のある最後のチャンスである一方で、控訴審では、上記のように第一審と全く異なり、証拠請求に制限があるなど独自のルールがあり、注意が必要です。控訴手続等に精通した経験豊富な弁護士を控訴審の弁護人として選定することが極めて重要です。

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