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振り込め詐欺の正犯と幇助犯の境 – 振り込め詐欺を弁護士が解説

学生などの若者が、知人から「簡単に稼げる仕事」があると紹介され、知らないうちに振り込め詐欺に加担してしまい、詐欺罪で逮捕されるというケースは多々あります。振り込め詐欺の多くは、判断能力の衰えた高齢者を対象としており、振り込め詐欺の認知件数は年々増加していることから、近年厳罰化の傾向にあります。

もっとも、振り込め詐欺グループの主犯格と、「受け子」や「出し子」と呼ばれる末端関与者との間で量刑が異なる可能性が高いことは、ある程度予想できるのでないかと思います。これは、ひとつには、裁判所によって、振り込めの詐欺の主犯格が専ら「正犯」と認定されるのに対し、受け子等の末端関与者は「幇助犯」であると認定される場合があるためです。

そこで、振り込め詐欺における正犯と幇助犯の境目や、正犯と幇助犯の量刑の違いなどについて、詳しく説明します。

振り込め詐欺とは?

振り込め詐欺とは、特殊詐欺の一種であり、電話や郵便などの通信手段を用いて相手を騙し、預貯金口座への振込みその他の方法により、現金を騙し取る犯罪です。

特殊詐欺とは、面識のない不特定の者に対し、電話その他の通信手段を用いて、預貯金口座への振込みその他の方法により、現金等を騙し取る詐欺をいいます。振り込め詐欺(オレオレ詐欺、架空請求詐欺、融資補償金詐欺及び還付金等詐欺)及び振り込め詐欺以外の特殊詐欺(金融商品取引名目の特殊詐欺、ギャンブル必勝情報提供名目の特殊詐欺、異性との交際あっせん名目の特殊詐欺及びその他の特殊詐欺)を総称したものです。

振り込め詐欺は、先述したように、被害者の多くが高齢者であること、近年認知件数が増大していること、組織的な犯行であり暴力団の資金源である疑いがあることなどから、厳罰化の傾向にあります。

振り込め詐欺における役割について

振り込め詐欺は、組織的に行われることが多く、複数が各々異なる役割を果たしていることが多いです。役割の具体例としては、振り込め詐欺を計画立案し中心的な役割を果たす主犯格、電話をかけて被害者を騙す役割である「かけ子」、被害者から金銭を受け取る役割である「受け子」、被害者が預貯金口座へ振り込んだ金銭をATMや銀行で引き出す「出し子」、見張り役・車の運転役・書類の受取役などの末端関与者が挙げられます。

「かけ子」について

実際に被害者に電話をかけて騙す役割である「かけ子」は、振り込め詐欺の重要な役割を果たしています。「かけ子」は、振り込め詐欺の中心部分であるため、組織的詐欺グループの上層部とつながりがある場合が多いといえます。また、騙す部分を行っているため、詐欺の実態を知らなかったと弁解することもできません。そのため、「かけ子」は、「出し子」や「受け子」のような末端関与者とは異なる面があります。

「出し子」について

振り込まれた預貯金口座からお金を引き出す役割である「出し子」は、銀行の口座からお金を引き出していることから、銀行の持っている預金を不正に引き出したといえるため、詐欺罪ではなく、銀行に対する窃盗罪が成立します。

「出し子」は、振り込め詐欺グループの上層部と関係が無いか、または薄いため、詐欺の実態を把握しないまま指示に従うケースが多く、組織的詐欺の末端関与者として扱われます。そのため、場合にもよりますが、執行猶予を獲得する可能性があるといえます。

「受け子」について

「受け子」は、被害者から金銭を受け取る役割であり、詐欺の実態を把握しないまま指示に従い、詐欺に加担してしまうというケースが多い役割といえます。振り込め詐欺グループは、現金を入手する重要な役割である「受け子」の逃亡を防ぐため、「受け子」に詐欺の実態や事件の詳細を知らせないことが多いためです。

「受け子」は、いわゆる「騙されたふり作戦」により逮捕されたり、詐欺だと全く知らなかったりする場合等もあるため、執行猶予を獲得する可能性があるといえます。状況によっては無罪判決の可能性もあり得ます。

正犯と幇助犯の区別基準は?

正犯とは

(共同)正犯とは、二人以上共同して犯罪を実行する者をいいます(刑法第60条)。
「共同して犯罪を実行」する者とは、まずは、犯罪行為を直接行った者(実行共同正犯)であるといえます。具体的には、AさんがBさんの財布を盗む目的で、Bさんのポケットから財布を抜き取った場合、Aさんは窃盗罪の正犯となります。

共謀共同正犯とは

これに対して、複数人が、事件の前または同時に犯罪を行うことを合意して、犯罪の実行に関与した関係のことを、共謀共同正犯といいます(刑法第60条)。

共謀共同正犯が成立するためには、簡単にいえば、一般的に、①事前または犯行と同時に、特定の犯罪を行うことを合意すること(合意は、明示でも黙示でもよいとされています。また、合意は、複数人が一堂に会する必要はなく、順次合意が形成されればよいとされています。)②自己の犯罪を実現する意思があること(正犯意思と呼ばれます。)③合意をした内の誰かが犯罪を行うこと、が必要であるとされています。

具体的には、①AさんとCさんが深夜B銀行からお金を盗むことを企てて、②AさんとCさんは、B銀行から盗んだお金を各々自らの借金返済に充てる目的で、③CさんがB銀行の見取り図を手に入れて侵入経路の計画を練り、Aさんが単独でB銀行に侵入してお金を盗んだ場合、AさんとBさんは窃盗罪の共謀共同正犯となります。

幇助犯とは

幇助犯とは、正犯の犯罪行為を容易にするなど、手助けする行為を行った者をいいます。幇助犯は、正犯と対比して従犯と呼ばれるなど、幇助犯が成立する場合には、正犯の場合に比べて、軽い刑罰となります(刑法第62条、63条)。

幇助犯が成立するためには、簡単にいえば、①正犯の犯罪行為を手助けすること(手助けは、物理的でも精神的でもよいとされています。)、②正犯の犯罪行為を手助けする意思があること、③正犯が犯罪行為を行うこと、④手助けした行為が実際に犯罪行為の実行に役に立ったといえること、が必要であるとされています。

具体的には、①AさんがBさんの家に空き巣に入ることを知ったCさんが、AさんにBさんの家の合鍵を渡し、②CさんはBさんが慌てふためく姿を見る目的でAさんの空き巣を手伝う意思があり、③Aさんが実際に合鍵を使ってBさんの家で空き巣を行い、④合鍵が空き巣に役立ったといえる場合、Cさんには窃盗罪の幇助犯が成立することになります。

正犯と幇助犯の区別について

正犯と幇助犯の区別は、一般的に、特定の犯罪を自己の犯罪として実現する意思があるか、それとも他人の犯罪を手助けする意思に過ぎないのか、で判断されることになります。もっとも、このような意思は主観的なものであるため、裁判所は、以下のような様々な事情を考慮して判断することになります。

  • 犯罪に加担する動機があるか
  • 犯罪に加担することで得る利益の大きさ
  • 犯罪に加担することになった経緯
  • 正犯者との関係性(上下関係であるか同等の関係であるか)
  • 犯罪への主体的関与の程度
  • 犯罪を実行するための役割の重要性
  • 犯罪計画立案の中での主導性

振り込め詐欺における正犯と幇助犯の境目について

振り込め詐欺における正犯と幇助犯の区別基準についても、基本的には上述した考慮要素で判断されることになります。

振り込め詐欺に加担した動機

振り込め詐欺に加担した動機が、脅迫などにより断ることができない状況であったという事情があった場合には、自己の犯罪を実現する意思がなかったと判断され、幇助犯の方向に傾きます。これに対して、振り込め詐欺と認識しながら、小遣い欲しさから、自らの欲求を満たすために振り込め詐欺に加担した場合には、自己の犯罪を実現する意思があったと判断され、正犯の方向に傾きます。

振り込め詐欺に加担することで得た利益の大きさ

振り込め詐欺に加担することにより、貰った報酬の額が高いほど、自己の犯罪を実現する意思があったと判断され、正犯の方向に傾きます。具体的には、無報酬または少額の場合には、利益が小さいといえるため、幇助犯の方向に傾きますが、アルバイトとして相応または破格の報酬を得ていると判断される場合には、正犯の方向に傾きます。

振り込め詐欺に加担することになった経緯

先述した加担の動機と重複しますが、学校等の先輩や知り合いに脅迫されてやむを得ず振り込め詐欺に加担した場合には、自己の犯罪を実現する意思がなかったとして、幇助犯の方向に傾きます。一方、自主的に振り込め詐欺に加担した場合には、自己の犯罪を実現する意思があったと判断され、正犯の方向に傾きます。

振り込め詐欺の主犯格等との関係性

振り込め詐欺組織の主犯格等の部下や後輩であった場合、組織の背後にある暴力団の存在をちらつかせ、半強制的に犯罪に加担させられるケースがあります。このように、一方的な上下関係が認められる場合には、主体性がなく、自己の犯罪を実現する意思がなかったと判断され、幇助犯の方向に傾きます。

振り込め詐欺における役割の重要性

振り込め詐欺における役割の重要性が大きいほど、自己の犯罪を実現する意思があったとして、正犯であると判断されます。

振り込め詐欺の各役割のうち、幇助が認められやすいのは?

「かけ子」について

先述のように、実際に被害者に電話をかけて騙す役割である「かけ子」は、振り込め詐欺の重要な役割を果たしています。また、「かけ子」は振り込め詐欺組織の主犯格とつながりがある場合が多いため、振り込め詐欺に深く関与していることが多いといえます。したがって、「かけ子」について、幇助が認められる可能性は低いといえます。

「受け子」について

「受け子」は、被害者から金銭を受け取る役割であり、詐欺の実態を把握しないまま指示に従い、詐欺に加担してしまうケースが最も多い役割です。また、「受け子」は、比較的少額の報酬を得ているケースが多く見られます。

しかし、「受け子」は、振り込め詐欺にとって最も重要であるお金を取得する場面を担っているため、その役割はやはり重要といえます。したがって、「受け子」であるとしても、正犯であると判断される可能性が高いと考えられています。

もっとも、振り込め詐欺に加担した動機や関係性によっては、幇助と判断される可能性は十分に考えられます。なお、「受け子」が振り込め詐欺であると全く気付かなかったといえる事情がある場合には、その犯罪の故意がなかったと判断され、無罪とされることもあります(東京高判平成23年8月9日)。

見張り役・車の運転役・書類の受取役などの末端関与者について

見張り役・車の運転役・書類の受取役・詐欺集団のリクルーター役などの末端関与者は、振り込め詐欺に加担した動機が弱く、主犯格との関係性も希薄であることが多いです。

振り込め詐欺における役割の重要性についても、他の役割と比較して小さいと考えられています。そのため、車の運転役やリクルーター役などは、幇助と判断される可能性があります。もっとも、加担することによって得られた利益が大きいなど、場合によっては、正犯であると判断される可能性もあります。

振り込め詐欺の刑罰(役割によりどれくらい異なるか)

振り込め詐欺は、刑法第246条の詐欺罪にあたり、10年以下の懲役刑となります。

※刑法第246条「人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。」

振り込め詐欺は、先述の通り、被害者の多くが高齢者であること、近年認知件数が増大していること、組織的な犯行であり暴力団の資金源である疑いがあることなどから、厳罰化の傾向にあります。そのため、初犯であっても、場合により重い実刑判決が言い渡される可能性があります。もっとも、幇助犯であると判断された場合には、刑法第63条により、刑罰が軽くなります。

具体的には、詐欺罪は10年以下の有期懲役刑ですので、1月以上10年以下の懲役刑となりますが、幇助犯であると認定された場合には、刑法第63条により、15日以上5年以下の懲役刑となります。そして、3年以下の懲役刑の場合には、執行猶予付判決を言い渡すことができるので、執行猶予付判決を言い渡される可能性があります。

主犯格について

振り込め詐欺グループの主犯格であり、詐欺の正犯であると判断された場合には、被害の規模によっては、10年以下の長期の懲役刑が言い渡される可能性があります。

重い例でいうと、合計4505万円を詐取し、組織的犯罪処罰法が適用された事例では、主犯格の者に対して、6年の懲役刑等が言い渡された事例があります(東京地判平成25年6月12日)。また、合計1億8870万円を詐取し、同じく組織的犯罪処罰法が適用された事例では、主犯格に対して、9年6月の懲役刑が言い渡されています(大阪地判平成26年3月6日)。

「受け子」について

「受け子」について、詐欺罪の正犯であると判断された場合には、実刑判決が言い渡される可能性が高いといえます。

詐欺未遂事件について、懲役2年の実刑判決を言い渡した事例(福岡高判平成28年12月20日)や、詐欺事件で懲役2年8月の実刑判決を言い渡した事例(東京高判平成27年6月11日)があります。もっとも、被害者との示談が成立しており、社会的制裁を十分受けていると判断される場合等には、執行猶予付きの判決を言い渡される可能性もあります(懲役2年6月執行猶予4年・神戸地判平成28年9月23日等)。

見張り役・車の運転役・書類の受取役などの末端関与者について

末端関与者が正犯であると判断される場合には、「受け子」と同様に、懲役1年6月~2年の実刑となる可能性が高いです(見張り役につき懲役2年4月・大阪高判平成28年1月29日)。もっとも、年齢が若く、示談が成立しており反省が十分であり、社会的制裁を受けていると判断される場合等には、執行猶予付きの判決を言い渡される可能性もあります(懲役3年執行猶予5年・福岡高判平成29年5月31日等)。

まとめ

いかがでしたでしょうか。以上の通り、振り込め詐欺に関与してしまった場合、幇助犯であると主張することは困難なケースが多いです。

また、安易な気持ちで振り込め詐欺に関与してしまった場合であっても、実刑判決を言い渡される可能性が高く、執行猶予付きの判決を獲得することは比較的困難であるといえるでしょう。

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