性犯罪や性暴力で懲戒処分を受けた教員が過去最多を記録
2024年12月、文部科学省の発表によると、2023年に性暴力・性犯罪・セクハラで懲戒処分を受けた公立学校の教員は320人であることがわかりました。これは前年2022年から79人増加しており、2011年の統計開始から過去最高の処分人数です。320人の内約7割が生徒・児童に対して行われており、その内のさらに半数は自身の勤務している学校の生徒・児童でした。
また、今年6月には、教員10人ほどで構成されたSNS上のグループにおいて、児童の盗撮画像の共有が行われていたという大変ショッキングなニュースが流れてきました。本来、生徒・児童を守る立場である教員による犯行は、教育現場の根幹を揺るがす重大な社会問題です。もちろん、安易に教員と性犯罪を結びつけるのはよくありません。
ほとんどの教員が情熱をもって生徒の教育にあたり、いわゆる聖職としての自覚をもった優秀な教員だからです。一方で、教員は、一般のサラリーマンらと違って、未成年の生徒に近い存在で、日常的に接しています。生徒も無邪気に教師を信じて接するので、一部の悪い教師の性犯罪の被害に遭いやすいのも事実なのです。
このような事例では、具体的にどのような犯罪が問題となり、刑事手続はどのように進むのでしょうか。
問題となる性犯罪の類型
教員による性犯罪で適応される刑罰を列挙していきます。
刑法第176条(不同意わいせつ)
キス、下着に手を入れる、抱きつく、胸や臀部を触る等の行為。
第176条 次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、六月以上十年以下の拘禁刑に処する。
一 暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと。
二 心身の障害を生じさせること又はそれがあること。
三 アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること。
四 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること。
五 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。
六 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕がくさせること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること。
七 虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること。
八 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。
2 行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、わいせつな行為をした者も、前項と同様とする。
3 16歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者(当該16歳未満の者が13歳以上である場合については、その者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第一項と同様とする。
刑法第177条(不同意性交等)
性交や肛門性交、口腔性交等の行為。
177条 前条第一項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、性交、肛こう門性交、口腔くう性交又は膣若しくは肛門に身体の一部(陰茎を除く。)若しくは物を挿入する行為であってわいせつなもの(以下この条及び第179条第二項において「性交等」という。)をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、5年以上の有期拘禁刑に処する。
2 行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、性交等をした者も、前項と同様とする。
3 16歳未満の者に対し、性交等をした者(当該16歳未満の者が13歳以上である場合については、その者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第一項と同様とする。
児童買春・児童ポルノ法違反
18歳未満の者に対して、対価を支払って性交、性交類似行為を行うこと。
(児童買春)
第4条 児童買春をした者は、5年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金に処する。
18歳未満の者の裸を撮影すること。写真や画像データを作成、保管、提供すること。
(児童ポルノ)
第7条 自己の性的好奇心を満たす目的で、児童ポルノを所持した者(自己の意思に基づいて所持するに至った者であり、かつ、当該者であることが明らかに認められる者に限る。)は、1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金に処する。自己の性的好奇心を満たす目的で、第1条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録を保管した者(自己の意思に基づいて保管するに至った者であり、かつ、当該者であることが明らかに認められる者に限る。)も、同様とする。
2 児童ポルノを提供した者は、3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金に処する。電気通信回線を通じて第2条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を提供した者も、同様とする。以下省略。
性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律違反(盗撮)
トイレや更衣室にカメラを置き盗撮する行為やスカートの中を盗撮する行為。
(性的姿態等撮影)
第二条 次の各号のいずれかに掲げる行為をした者は、3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金に処する。
一 正当な理由がないのに、ひそかに、次に掲げる姿態等(以下「性的姿態等」という。)のうち、人が通常衣服を着けている場所において不特定又は多数の者の目に触れることを認識しながら自ら露出し又はとっているものを除いたもの(以下「対象性的姿態等」という。)を撮影する行為
イ 人の性的な部位(性器若しくは肛こう門若しくはこれらの周辺部、臀でん部又は胸部をいう。以下このイにおいて同じ。)又は人が身に着けている下着(通常衣服で覆われており、かつ、性的な部位を覆うのに用いられるものに限る。)のうち現に性的な部位を直接若しくは間接に覆っている部分
ロ イに掲げるもののほか、わいせつな行為又は性交等(刑法(明治40年法律第四十五号)第177条第一項に規定する性交等をいう。)がされている間における人の姿態
二 刑法第176条第一項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、人の対象性的姿態等を撮影する行為
三 行為の性質が性的なものではないとの誤信をさせ、若しくは特定の者以外の者が閲覧しないとの誤信をさせ、又はそれらの誤信をしていることに乗じて、人の対象性的姿態等を撮影する行為
四 正当な理由がないのに、13歳未満の者を対象として、その性的姿態等を撮影し、又は13歳以上16歳未満の者を対象として、当該者が生まれた日より年以上前の日に生まれた者が、その性的姿態等を撮影する行為
2 前項の罪の未遂は、罰する。
3 前二項の規定は、刑法第176条及び第177条第一項の規定の適用を妨げない。
各都道府県青少年保護育成条例
18歳未満との性行為。
東京都青少年の健全な育成に関する条例
第18条の6
何人も青少年とみだらな性交又は性交類似行為をしてはならない。
第24条の3
第18条の6の規定に違反した者は、2年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金に処する。
教員が性犯罪に問われた場合の捜査の流れ
刑事手続の流れ自体は、教員であってもそうでなくても異なることはありません。ただし、逮捕や起訴不起訴の有無、裁判所の判決において、教員でありながら児童に対して性的な犯罪に及んだ場合、悪質性が高いとして不利に考慮される傾向にあります。
刑事事件には、在宅事件と身柄事件があります。在宅事件とは身柄拘束を受けずに捜査を受ける事件です。自宅に居ながら、警察や検察からの呼び出しでその都度出頭し、取り調べを受けるという形です。
身柄事件とは、逮捕、勾留によって身柄拘束を受けている事件です。逮捕されると、警察署内の留置場に留め置かれ、48時間以内に警察署から検察庁に被疑者が送致され、検察官は勾留請求(さらに身柄を拘束する請求)をするか、釈放するか決定します。
検察官が勾留請求をした場合、裁判官が24時間以内に勾留するか釈放するかを決定します。裁判官によって勾留決定がなされると、10日間身柄を拘束され、また、勾留延長が決定するとさらに10日間の身柄拘束を受けます(逮捕含め最大23日間、起訴後勾留も含めるとさらに長くなる可能性あり)。
身柄拘束を受けずとも、教員となると、社会的立場や影響が大きく、実名報道されるリスクは非常に高いです。前述したように、教員という立場上、刑事処分も重くなる傾向にあるため、なるべく早く専門家である弁護士に相談することが重要です。
ペドフィリア(小児性愛症)
あまり世間では知られていない名称の精神疾患ですが、ペドフィリア(小児性愛症)という精神疾患があります。小児(通常13歳以下の男児、女児又はその両方)に対して性的興奮を感じ、性的衝動、空想、行動が反復的にみられる精神疾患です。似た意味を持つロリコンという言葉の方が広く知られているかと思いますが、ロリコンは日本独自の和製英語であり、明確に内容が定義された疾患等の名称ではありません。
スウェーデン・カナダの医学研究機関によると、人口の約5パーセントがペドフィリアであると推定されています。ペドフィリアには小児にしか性的興奮を感じない専従型と成人にも性的興奮を感じる非専従型があります。専従型、非専従型にせよ、先に述べた教員による生徒・児童への性犯罪、性暴力には、一定数、このペドフィリアが含まれていると考えられます。ただし、ペドフィリアが必ずしも小児に対して性犯罪、性暴力を引き起こすわけではないということは留意しておかなければなりません。精神疾患である以上、必要なのは精神療法や薬剤による治療であり、差別や偏見によって社会から排除することはあってはならないのです。
仮に性犯罪の背景にこうした性的嗜好の歪みが存在する場合には、適切な治療等によって再犯を防止できる可能性が高まり、刑事処分においてもそのような取り組みが有利に評価されることがあります。
刑事手続が教員資格に与える影響
教員免許の欠格事由は「教育職員免許法」という法律によって定められています。
拘禁刑以上の刑罰を受けた場合、教員免許は与えないとされています(教育職員免許法5条1項3号)。そのため、教員を目指していても、拘禁刑以上の刑罰を受けてしまうと、再度罰金以上の刑に処せられることなく10年が経過しない限り、教員免許を取得することはできません(刑法34条の2第1項)。
現に教員免許を有する者が拘禁刑以上の刑罰を受けた場合、教員免許を失うことになります(教員免許法10条1項1号)。上記と同様に、再度罰金以上の刑に処せられることなく10年が経過しない限り、教員免許は取得できません。執行猶予付きの判決であっても、執行猶予期間が終了しない限り、教員免許は取得できません。
更に、2026年からは、いわゆる日本版DBSと呼ばれる、子どもと接する就労者について性犯罪歴の照会が可能となる制度が開始されます。日本版DBSでは、執行猶予判決の場合は裁判が確定してから10年間、実刑判決の場合は刑の執行終了から20年間、性犯罪歴の照会が可能とされています。
したがって、ひとたび性犯罪で前科がついてしまうと、子どもに関わる仕事に就労することは極めて困難と言わざるを得ません。
まとめ
教員における性犯罪は被害者の人生に深刻な影響を及ぼすに留まらず、加害者側も懲戒処分、刑事罰、社会的信用の喪失といった重大な結果を伴います。捜査の流れを解説しましたが、早期に適切な対応を取らなければ不利な状況に陥るおそれもあります。学校や教育委員会から事実確認を受けた、警察から呼び出しを受けた、教員である家族が逮捕・勾留されたなどのケースでは早期に専門家である弁護士へ相談することが重要です。