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黙秘権について弁護士が解説

黙秘権」という言葉は、一度は聞いたことがあると思いますが、その内容や黙秘権はいつ使うのか、知らない方も多いのではないでしょうか。以下、元検事の弁護士が詳しく解説していきます。
本コラムは代表弁護士・中村勉が執筆いたしました。

黙秘権の規定

黙秘権とは、憲法や刑事訴訟法で定められた権利のひとつであり、自己に不利益な供述を拒否する権利のことをいいます。自己が刑事上の責任を問われるおそれある事項について、供述を強要されない権利のことを、一般に「自己負罪拒否特権」と呼んでいます。黙秘権はその自己不在拒否特権の一態様です。

憲法第38条1項は「何人も自己に不利益な供述を強要されない」と規定しており、人権のひとつとして保障されるものです。

判例によれば、この規定の法意が何人も自己が刑事上の責任を問われるおそれのある事項について、供述を強要されないことを保障したものと解すべきであることは、制度発達の沿革に徴して明らかであるとします(最大判昭和32年2月20日刑集11巻2号802頁)。
上記の憲法の規定を受けて、刑事訴訟法第198条2項は、被告人・被疑者に対して、自己に不利益であるか否かを問わず、いかなる供述も強要されない権利を保障しており、証人がこの権利を行使するにはその理由を述べることが求められている(刑事訴訟法規則第122条)のと異なり、包括的な黙秘権が保障されています。

このような権利を侵害するような手段は、これを証拠として用いることはできず(憲法第38条2項、刑事訴訟法第319条1項)、被告人・被疑者にはあらかじめ黙秘権があることを告げなければならない(刑事訴訟法第198条2項、第291条3項)とされます。
また、黙秘権を行使した者を不利益に扱ってはならないことは、この権利の当然の効果として保障されています。

黙秘権と国家観

要するに、自己負罪拒否特権とは、自分に罪が降りかかるようなことは一切拒否する権利を言います、近代国家ができる前は日本も欧米も同じですが、昔は自己負罪拒否特権など存在せず、魔女裁判に典型的なように、拷問をしてでも自白を獲得し、異教徒であることを告白させ、そして異教徒であるとして火炙りの刑に処されました。

日本でも、封建時代には拷問による自白獲得が有罪として処罰するために必須のものとされ、その拷問の内容や方式が細かく定められていました。国家観として言うならば、これは国民が国家権力に対して真実を曝け出す義務があり、それを拒否するなら拷問の手段によって自白を獲得してかまわないという国家観であり、もし自分が無実であるならばそれを自ら証明しなければならないという訴訟観でもありました。

そのような糾問的な制度がいかに残酷な結果を招いたかは歴史が証明しています。そのような国家権力に対する権利のための闘争として、基本的人権が確立されてきたのでした。そこでは、犯罪があるとするときは、国家がそれを証明しなければならない。そのことに被疑者や被告人は一切協力する義務はなく、協力することを拒否することができるという自由を基調とする国家観なのです。日本国憲法もそのような文脈で理解すべきです。

黙秘権の内容

黙秘権は、被疑者・被告人の供述の自由を保障するために認められたものです。
その理由は、たとえ実際に罪を犯した者であっても自分が有罪になる供述をなすべき義務を法律で負わせることは、人格を尊重する上で許されないためです。
自己に不利益な事実」とは、刑事責任を負わされ、または加重される事実であり、民事上、行政上の不利益な事実は含みません。
供述が強要されない」ことは、被疑者の「主体」的地位の尊重という理念の実現の基礎をなすとともに、現実にも取調べ等における捜査機関による追及から自らを守るための防御手段として重要な意義を有します。

実務上、捜査機関は被疑者が黙秘権を行使する意思を示した場合でも、取調べに応ずるよう「説得」するのが一般的です。なぜなら、警察としても逮捕したからには、捜査を進めなければならないし、検察としても起訴し、有罪判決を得るために証拠を集めようとするからです。また、公判において被告人が黙秘権を行使する意思を示しても、被告人質問それ自体は行われます。
しかし、これに対して、黙秘権が行使された場合には、その時点で取調べ又は質問は中断すべきであるとする見解もあります。

質問等に応ずるように「説得」することが全く許されないとまではいえないとして、被告人が明確に黙秘権を行使する意思を示しているにもかかわらず、延々と質問を続けることは、それ自体被告人の黙秘権の行使を危うくするといわれています(札幌高判平成14年3月19日判示1803号147頁)。
黙秘権には、①黙秘権の行使に対して刑事罰等の制裁を受けない、②黙秘権を侵害して得られた供述は証拠として採用されない、③黙秘のみを理由に不利益な判決を受けることはないという効果があります。

黙秘権の使い方

黙秘権は、どのタイミングであっても使うことができます。
捜査機関が、黙秘権があることを告知する前であっても、黙秘する旨を伝えれば、その後沈黙してもかまいません。
黙秘権を行使するか否かは、被疑者・被告人の権利であり、被疑者・被告人が自分の意思によって、行使・不行使の選択がなされなければなりません。自分に不利益な事実について黙秘し、それ以外は話すという一部黙秘もできますし、全てについて黙秘するという全部黙秘の方法をとることも可能です。

このように、実際に黙秘することだけではなく、供述調書への署名を拒否するという方法もあります。供述調書とは、警察などの取調べを受けた場合に、その取調べで警察と話した内容を文章にまとめて作成される書面です。

黙秘権を行使するということは、警察や検察側に有利な供述調書を作らせないということで、自白以外の有罪の立証が困難な事件の場合、不起訴に持ち込むために非常に有効な手段となります。
中には、黙秘をすると印象が悪くなったり、逆に嫌疑が深まってしまったりするのではないかと懸念する方もいらっしゃるかと思います。確かに、黙秘権を使うことが量刑との関係で不利益になることもあります。

一般的に、黙秘したこと自体を量刑上不利益に扱うことは許されませんが、事案によっては、自白や反省がある場合に被疑者・被告人に有利に扱われることの反射的効果として、反省の色が見えないと量刑上不利益に働いたりすることもありえます。また、黙秘することにより取調べが長引くこともあります。ですので、黙秘権の使い方には注意が必要です。たとえば、第三者や物証などの証拠がある場合や、自身による犯罪事実であることが間違いない場合には、黙秘するのではなく素直に自白した方が量刑上、情状として有利に考慮してもらえるということがあり得ます。

捜査機関に言われるがまま、事実以上の罪を被らないようにする等のために、逮捕直後は、「弁護士と話ができるまで、何も話しません」と言うことは有効な手段です。

黙秘権と取調べ

取調べとは、相手方に対して質問をして供述を求め、その供述を証拠として記録・保全する捜査活動です。取調べに関する規律として最も重要なものの1つが、黙秘権の保障です。

刑事訴訟法第198条2項は、憲法第38条1項が明文で保障した範囲を超えて、いかなる事項についても、被疑者は供述を拒むことができ、かつその旨を告知されることが保障されています。この告知は、原則として取調べの機会ごとに行うべきとされています。しかし、黙秘権告知の欠如が憲法第38条1項に違反するかにつき、告知は憲法第38条1項の要請ではないとしています(最判昭和25年11月21日刑集4巻11号2359頁)。もっとも、告知を欠いたために、被疑者に供述義務があると誤信させたような場合には、憲法違反ともなり得るでしょう。

若い検察官の中には、黙秘権を行使する被疑者に苛立ち、「私が言っていることが聞こえないのか、耳はついているのか、日本語がわからないから通訳をつけようか」などと被疑者を揶揄し侮辱する検察官が、最近でも現実にいました。黙秘権を侵害するものとして厳重に抗議しましたが、法律の勉強をし、司法試験に合格した検察官の中にも黙秘権の何たるかを理解していない人が現実にいます。

黙秘権と参考人

被疑者以外の者の取調べ、たとえば、参考人の取調べのような場合には、刑事訴訟法は黙秘権告知を要求していませんが(刑事訴訟法第223条2項は第198条2項を準用していません)、告知がないからといって黙秘権が保障されていないわけではありません。
捜査機関により取調べを受ける参考人であっても、被疑者同様包括的黙秘権を有します。取調べの対象者が被疑者であるのか被疑者以外の参考人などであるかは、必ずしも一義的ではないため、明文規定にかかわらず、被疑者以外の者の取調べであっても、黙秘権を告知するのが望ましいでしょう。

黙秘権が使えない範囲

憲法第38条1項は、何人も自己が刑事責任を問われるおそれのある事項について供述を強要されないことを保障するものであり、あくまで黙秘権は自分が刑事責任を負う可能性がある内容や事実について及びます。
なので、何でも黙秘できるというわけではなく、黙秘権が使えない範囲が当然あります。

証拠の採取

黙秘権ないし自己負罪拒否特権は「供述」以外の証拠の採取、たとえば、指紋や足型採取、身長の測定、写真撮影、身体検査等には及びません。

呼気検査

道路交通法による警察官の呼気検査も、酒気を帯びて車両等を運転することの防止を目的として運転手から呼気を採取してアルコール保有の程度を調査するのであり、その供述を得ようとするものではないから、検査を拒んだ者を処罰する道路交通法第118条の2の規定は、憲法第38条1項に違反するものではないと解されます(最判平成9年1月30日刑集51巻1号335頁)。

氏名等

刑事訴訟法上、被疑者・被告人には包括的な黙秘権が認められているので、氏名等も黙秘権の対象となりますが、氏名のごときは原則として、憲法38条1項にいう、いわゆる不利益な事項に該当するものではないと考えられているため、原則として、黙秘権ないし自己負罪拒否特権は氏名には及びません。
しかし、たとえば、氏名によって被告人と犯人の同一性が認められる場合や前科が判明し累犯加重や常習犯の成立が認められる場合等には、例外的に氏名がその対象となりうることがあります。

まとめ

いかがでしたでしょうか。黙秘権という言葉は知っていても、どのように使うか知らなかった方は多かったのではないでしょうか。
黙秘権を使うことは簡単ですが、上で述べたように、量刑上不利に考慮されるなど、黙秘権が使えない範囲があるために、どのタイミングでどの部分を黙秘するかという判断は難しいです。個別具体的な黙秘権の行使については、刑事事件に強い弁護士に尋ねるのが確実でしょう。

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刑事事件は初動の72時間が重要です。そのため、当事務所では24時間受付のご相談窓口を設置しています。逮捕されると、72時間以内に検察官が勾留(逮捕後に更に被疑者の身体拘束を継続すること)を裁判所に請求するか釈放しなければなりません。弁護士へ依頼することで釈放される可能性が高まります。また、緊急接見にも対応しています。迅速な弁護活動が最大の特色です。

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