勾留回避について弁護士が解説|刑事事件の中村国際刑事法律事務所

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勾留回避について弁護士が解説

勾留は逮捕に続く手続です(逮捕前置主義)

 「勾留」という言葉は聞き慣れないかもしれません。犯罪者との容疑をかけられた場合には,まず警察に「逮捕」されます。その後,検察官に事件送致されて,検察官が引き続きその容疑者の身柄を拘束する必要があると判断した場合に裁判所に対して「勾留」の請求をするのです。
 勾留の請求権者は検察官であって,警察ではありません。現行法は,警察に最初から拘束期間の長い勾留をさせず,48時間と短い逮捕権限だけを認めました。それに対し,検察官は,一応,準司法機関とされているので人権侵害が少ないと見て,長期間にわたる身柄拘束である「勾留」の請求権限を与えたのです。
 もちろん,勾留するかどうかを決めるのは,司法機関たる裁判官です。なお,逮捕しないでいきなり勾留を請求することはできません。必ず逮捕があって次に勾留なのです。これを「逮捕前置主義」といいます。短い逮捕で犯人の同一性や証拠の十分性を検証してからより拘束期間の長い勾留へと手続を進ませることにしたのです。なお,逮捕事実と勾留事実は社会的事実として同一でなければいけません。最初に詐欺で逮捕してその事件を窃盗で勾留請求することはできないのです。これを「事件単位説」といいます。
 ですから,詐欺で逮捕して実は詐欺の容疑がなく,別途窃盗の容疑が出てきたときには,詐欺事件で釈放したうえで改めて窃盗で逮捕しなければ窃盗での勾留はできないのです。かえってこの方が身柄拘束期間が長くなってしまうようにも思いますが,事件単位説で実務は動いています。なお,事件単位説の学説の他には,渥美東洋先生の手続単位説や人単位説があります。

 以下,勾留の要件,期間や回避について代表弁護士・中村勉が解説します。

勾留の要件について

 勾留が認められるためには,住居不定罪証隠滅逃亡のおそれといった事情のうち一つが認められなければなりません。勾留制度の目的は,罪証隠滅を防止し,逃亡させないためにあるからです。これは,基本的には逮捕の要件と同一です。証拠破壊を図り,被害者に口止めをし,共犯者と口裏合わせなどをされると真相解明が不可能になってしまうからです。これらの事情は逮捕のときにも検証されているはずです。罪証隠滅のおそれがあったり,逃亡のおそれがあるからこそ裁判官は逮捕状を発付したはずなのです。なぜ,それなのに,勾留段階で改めてこうした要件を再検討するのかというと(これを「二重の司法審査」と言います),大きく分けてその理由は二つあります。
 一つ目は,逮捕状は警察が疎明資料を整えて裁判官に請求するものです。一般的には簡易裁判所の裁判官が逮捕状の令状審査をします。警察は,事件解明に熱心なあまり,不正確な情報をもってそれを逮捕の疎明資料とすることもあり,警察の言いなりのまま逮捕状が発付されてしまうことがあるのです。これに対し,勾留請求は,検察官が行います。公益の代表者として,あるいは,準司法機関の立場で,警察資料をより客観的に吟味し,公平に事情を評価してから勾留を請求するはずであると法は期待してこのような制度枠を作ったのです。
 もう一つの理由は,事件捜査は常に動くという事情があります。動態的捜査観です。逮捕前は証拠保全もされておらず,供述調書も作られていないのが通常ですから,罪証隠滅のおそれは比較的高いと言えます。
 しかし,逮捕と同時に捜索差押が実施され,関連証拠が押収保全されます。また,取調べにおいて被疑者が事実を認めるなら,罪証隠滅のおそれは相当低下したとみることができるのです。このように,時系列的に言って,逮捕時と勾留請求時とでは罪証隠滅の度合いや逃亡のおそれの度合いはかなり違ったものになっているのです。事件捜査は常に動いているからです。
 そこで,逮捕よりも長い身柄拘束期間を伴う勾留請求にあたっては,その時点でおいて,なおも罪証隠滅のおそれや逃亡のおそれがあるのかを慎重に吟味し,重ねて司法審査を受けるのです。

勾留の期間について

 裁判官が勾留する理由と必要があると判断すると,最初は10日間の身柄拘束の決定を出します。その期間が満了してもなお引き続き勾留が必要と検察官が判断すると,勾留延長を裁判官に請求し,これが認められるとさらに10日間の身柄拘束となります。つまり,20日間もの長期にわたって身柄が拘束されることがあるのです。
 これでは,会社は辞めざるを得ない事態となるでしょうし,家族の負担も相当大きなものになります。ですから,この勾留を何とか阻止して,在宅捜査に切り替えてもらうように検察官を説得したいところです。検察官が裁判官に勾留を請求しない場合に,裁判官が勝手に勾留することはないのです。その意味で,検察官の権限は非常に大きいと言えます。

勾留を回避するためには

 検察官によって勾留が請求され,裁判官がこれを許可する確率は94%前後と言われています。有罪率と同じような確率で許可されるのです。裁判官はほとんど検察官の判断に従っていると言ったら,裁判官に怒られるでしょうか。
 現実には,そのような確率ですから,まず,検察官に対し,勾留をしないでほしいと説得することが肝要です。
 逮捕されている本人が,検察官に対し,「自分は逃げないから勾留請求しないで欲しい」と頼んでも受け入れられることは稀で,やはり,弁護士を選任する必要が出てきます。弁護人が選任された場合には,速やかに担当検察官に連絡を取り,面会希望を伝えて検察官に面会するよう努めます。
 その上で,検察官に対し,事案に応じて,勾留の必要性がないこと,場合によっては,勾留の理由もないこと(すなわち被疑事実が誤りであること)を法律家としての観点から具体的かつ合理的に訴えます。例えば,家族勤務先上司等から被疑者本人が罪証隠滅をしたり,逃亡しないよう監督する旨の誓約書を入手したりします。あるいは,被害者に接触することのないよう,行動制限を伴う(特定のエリアには出入りしないといった)誓約書を被疑者本人から入手します。これらの疎明資料をもって検察官を説得するのです。容疑者本人の訴えではなく,法律家である弁護士の訴えである場合には,検察官は,勾留請求の判断に慎重になります。
 何故かと言うと,検察官にとって,勾留を請求したにも関わらず,裁判官が勾留決定をせずに却下した場合,それは検察にとって失点となります。裁判官による勾留請求却下という結果は,検察官として出来るだけ避けたい事態なのです。
 それにもかかわらず,検察官が勾留請求した場合には,弁護士は,当然のことながら,勾留担当の裁判官に対し,検察官に対する説得同様,罪証隠滅のおそれがないことや逃亡のおそれがないことを上申書や誓約書をもって合理的情熱的に訴え,検察官の勾留請求の不当さを訴え,勾留請求しないように説得をします。

勾留決定が確定したときに

 万が一,裁判官によって勾留決定がなされた場合にも,事案に応じて,準抗告,勾留取消,勾留執行停止,勾留理由開示など,あらゆる法的手続を用いて,勾留の効力を争うことになります。
 もちろん,それでも準抗告等で弁護人の主張が通らずに,勾留決定が確定することもあります。この場合でも,弁護士は,長期の勾留を避けるために,勾留延長を回避するための弁護活動を引き続き行ったり,勾留取消を求めたりします。
 また,勾留に接見禁止が付され,家族等との面会が禁止された場合には,接見禁止の解除申立を裁判官に行います。弁護士は身柄拘束され,自由を奪われた市民のために諦めずに闘うのです。

勾留に対抗する大阪弁護士会の準抗告促進策

 日本の司法は「人質司法」と言われており,現象として,身柄をいわば人質にして「自白しないと放さない」という運用がなされています。
 そこで,こうした勾留の壁に対抗する大阪弁護士会の「奇策」が注目されています。勾留決定に対し,「準抗告」等の不服を申し立て,それが奏功した場合に弁護士会が弁護士に数万円の報酬を支払うという制度です。
 人権や自由の守護神たる弁護士が,「報酬」という「餌」をぶら下げないと被疑者のために闘わないと思われそうですが,人質司法を是正するために効果があればそれは良いことです。

まとめ

 いかがでしたでしょうか。弁護士は被疑者の唯一の味方と言ってよく,人権擁護の砦となる存在です。また,それに相応しい,身柄解放のための技術と情熱を持ち合わせています。逮捕されれば,どんな社会的地位の高かった人でも不安と惨めさを感じずにはいられません。
 「逮捕されればそれだけで社会的弱者である」といったのは,戦前の大弁護士であり社会運動家であった布施辰治弁護士です。中村国際刑事法律事務所は,その精神の受け継ぎ,不当な国家権力行使と闘う気概にあふれた弁護士を多数揃えています。

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「勾留」に関する刑事弁護コラム