的確な弁護主張で無罪判決
事件の概要
成人男性の相談者は、自動車運転中、Ⅰ型糖尿病の影響により意識障害に陥り、追突事故を起こし、被害者に怪我を負わせてしまい、危険運転致傷罪で起訴された。起訴後に相談来所し受任。
弁護方針
相談者は、幼少期からⅠ型糖尿病を患い、数十年にわたって適切に通院治療をしており、血糖値管理も適切で、これまで特段大きな問題は見受けられなかった。事件当時も、運転中に低血糖症の初期症状を感じていたものの、いつも通りの軽い症状であり、まさか意識障害に陥るなどとは思っていなかったと話していた。
危険運転致傷罪は、過失犯ではなく故意犯である。危険運転を立証するためには「低血糖症の影響により意識障害に陥るおそれを具体的に認識予見していた事実」が必要となる。
ところが、相談者の認識を前提とすると、かかる故意は認められないため、裁判では無罪主張をした。審理途中で、検察官が、過失運転致傷罪の予備的訴因を追加請求したが、弁護人は、意識障害に陥る可能性すら予見していなかったと主張し、完全無罪主張をした。裁判では、相談者に二回も法廷で話してもらい、担当医の見解も交えながら、Ⅰ型糖尿病の内容や、低血糖症の初期症状等について適切な判断を仰ぐために、ポイントを絞って審理に臨んだ。
結果
裁判官は、相談者が普段通りの生活を送り、適切な治療を続けていたことなどから、事件当時は、「意識障害に陥るとの具体的な認識はなく」(故意を否定)、「その可能性も予見していなかったと認められる。」として、完全無罪を言い渡した(検察官は控訴せず、一審無罪判決確定)。