相手方不明も最善の解決策で示談交渉し不起訴
窃盗の事例をご紹介します。
パチンコ店にて置き忘れていたプリペイドカードを使った窃盗事件で、弁護活動の結果として不起訴処分を得ました。
事案の内容は、パチンコ遊戯中の被疑者が、隣の遊技台に氏名不詳者が置き忘れたプリペイドカード(約23,000円分相当)が挿入されていることに気が付き、返却ボタンを押してパチンコ店の景品カウンターで景品交換したというものでした。
被疑者は、翌々日、警察署に窃取事実を申告し、当事務所に依頼しました。
プリペイドカードの実質的な所有者は隣の遊技台に置き忘れた氏名不詳者ですが、占有は遊技台管理者である店長に帰属することから、自首及び示談交渉時に氏名不詳者が判明していなければ店長に返還して示談することとしました。
後日、氏名不詳者が判明すれば氏名不詳者に返還することとして、パチンコ店店長との間でプリペイドカードの経済的利益相当金額を返還する旨の示談が円満に成立しました。
パチンコ店店長は、依頼者がプリペイドカードを持ち去った後に自ら申告したことを評価しました。
検察庁に送致された後は、家族の監督誓約書等を添付資料とした意見書を提出し、被疑者取調べが行われることなく終結しました。
事件のポイント
示談交渉において、相手方が特定出来ない場合があります。
例えば、街中の盗撮事案では被害者がそのまま立ち去れば示談のチャンスはほぼありません。
本件でも不特定多数の出入りする店内で、しかも被害品が無記名のプリペイドカードですから、被害者自身が気づいて店に問い合わせをしない限り特定は難しい事案でした。
多くの弁護士は、示談を諦めるか、被害者が現れるまで待つという方針をとるでしょうが、それでは起訴ないし罰金処分となってしまいます。
そこで、本件では所有権侵害の被害者と占有侵害の被害者であるパチンコ店がありましたので、パチンコ店を示談交渉の相手と定め、迅速に交渉に着手し、後に所有者が現れた場合に不都合がないよう細心の注意を払いながら示談文言を吟味して示談成立に至り、早期に不起訴処分とした事案でした。
示談の機会という現実性と、窃盗罪の保護法益という法律面の双方を見据えながら解決の糸口を探る姿勢が重要です。
執筆者: 代表弁護士 中村勉