公務員による未成年への強制わいせつ事件で不起訴を獲得した事例
被疑者は通行人の女子高校生(当時)と一緒に,同人の住むマンションのエレベーターに乗り込み,同人のスカートの中に両手を入れ,下着の上から下半身を数秒程度触ったという,強制わいせつの事例です。
受任時点で5年以上前の事件でしたが,防犯カメラ映像が残っており,犯人性に問題はなく,被害者との示談が成立するか否かが問題となりました。
受任後,弁護人はまず示談の成立を目指しました。また,被疑者である依頼者は別件の条例違反で検挙され,その示談成立により起訴猶予となった前歴があるところ,示談書だけでなく,性障害治療のクリニックに通院していることを示す領収証も併せて検察官に提出しました。本件は前歴よりも前の事案であって,前歴で検挙されて以降は再犯していないことも併せて主張し,起訴猶予を目指しました。
依頼者は公務員であり,職場に本件が知られることを危惧しておりました。警察官は職場に知らせることはないと言っているため,問題ないと思われましたが,念のため,送致後,検察官にも職場に知らせないよう配慮していただきたい旨伝えました。
そして示談交渉当日,被害者にはまず,依頼者作成の謝罪文を手渡し,その場で読んでもらったものの,被害者の処罰感情は強く,当初は難しい交渉になるかと思われました。
しかし,この場には被害者だけでなく被害者の夫も同席しており,被害者の夫は冷静な様子であったため,被害者の夫にも適宜話を向けるなどして,冷静に話を聞いてもらえるような場の雰囲気づくりに尽力しました。その結果,後日継続になることなく,その場で示談を成立させることができました。
そして,示談書だけでなく,性障害治療のクリニックに継続して通院していることを示す領収証も併せて検察官に提出し,さらに,依頼者の同居の親の嘆願書も提出し,速やかに不起訴処分を得ることができました。
性犯罪事案は,詐欺や窃盗事案もそうですが,繰り返されることが多く,複数の犯行が行われ,複数の被害者から被害届が出ていることがあります。そうした余罪は,本件と併せて立件されることもあれば,余罪につき被疑者が特定できない場合は,捜査機関は余罪の存在を知らずに本件のみで処理されることがあります。
その場合に,余罪が露見しなかったことで安心してはいけません。
後々,余罪につき同一人の犯行であることが分かり,後になって余罪で逮捕されることもあるからです。特に前の犯罪で刑罰を受け,その後社会復帰して安定した生活をしているときに,その事件よりも前に犯した事件で逮捕されるなら,こうした社会復帰,更生に向けた努力は水疱に帰すことになりかねないからです。
ですから,余罪についても弁護士に正直に話し,その立件の可能性を十分に吟味してもらうことが何よりも大切です。
本件は,前歴となっている事件より前に起こした余罪で後に立件された事案でした。幸い誠意ある示談交渉により,示談成立,不起訴となりましたが,前の事件の際に併せて捜査してもらい,双方示談が成立して一括で解決できたならば,このような形で後々になって不安な思いにはならなかったかもしれません。
執筆者: 代表弁護士 中村勉
代表パートナー弁護士(法人社員) 中村 勉
代表パートナー弁護士である中村勉は,北海道函館市出身,中央大学法学部(渥美東洋教授の刑事訴訟法ゼミ),コロンビア大学ロースクールLLM(フルブライト ...