家出中の未成年の誘拐事件で不起訴
未成年者誘拐の事例をご紹介します。検察官宛て意見書提出により勾留請求回避となって釈放され,最終的に不起訴となった事例でした。職場の処分は口頭注意にとどまりました。
事案の内容は,マッチングアプリで知り合った18歳の女性をドライブに誘い,女性が車に乗る直前に家出していることを打ち明けられたものの,そのままドライブへ連れて行った。女性の家族から捜索願いが出ていたため,逮捕されるというものでした。
警察の話から,送致時にすでに被害届が取り下げられていたことが判明。担当検察官からは早々に親告罪の告訴の欠如として不起訴処分とする意向を確認できました。そのため,依頼者と話し合い,示談交渉はしないこととしました。逮捕から約2週間後には不起訴処分が決定されました。
他方で,本件の逮捕は職場に知られており,身柄解放後は連日のように職場でヒアリングが実施され,不起訴処分がされた後も,職場での処遇が変わらなかったため,刑事処分とは関係なく独立して職場から不利益な処分がされる可能性がありました。
そこで,本件の担当検察官は犯罪の嫌疑に関する実体的判断をせずに不起訴処分をしていること,そのため,職場が独自に嫌疑を判断して依頼者に不利益な処分を課すのは不当であること,検察官が実体的判断をしていたとしても本件はその具体的事案に照らし「誘拐」には当たらないと判断された可能性が高いこと等を参考資料と共に指摘する意見書を職場宛てに提出しました。意見書の効果もあり,職場からの処分は一番軽い口頭注意にとどまりました。
本件は当初から警察は犯罪予防活動的に動いていた可能性があり,事件性よりは緊急性を重視していたことが伺えました。そうした警察の目的は,身柄確保と被害者救出で一応達成されたもので,ここで弁護士が,もしそうした警察活動の性質を察しないで黙秘等,事件性,起訴可能性ある対応と同一対応をとっていたなら,かえって複雑化と勾留長期化を招いたと思います。
また,警察対応にも増して重要なのは職場対応であり,本件の実態と事件性の希薄なことを説得して解雇を免れ,被疑者の社会的利益も守ることに成功した事例でした。
執筆者: 代表弁護士 中村勉
代表パートナー弁護士(法人社員) 中村 勉
代表パートナー弁護士である中村勉は,北海道函館市出身,中央大学法学部(渥美東洋教授の刑事訴訟法ゼミ),コロンビア大学ロースクールLLM(フルブライト ...