示談成立にて不起訴を獲得し、入院処遇も回避
約3年にわたり、隣人の騒音・境界関係で悩んでいた依頼者が、隣家の騒音に耐え切れず自宅2階から隣家の庭にいた隣人に向かって錆びた包丁2本を投げたという暴行事件です。依頼者は隣人関係のほか、長年にわたり高齢の両親の介護にあたり、精神的にも疲弊していました。
受任後、弁護士は被害者との示談成立と環境を調整し不起訴処分を目指しました。また、依頼者は自暴自棄になっているため、動機や背景などを慎重に見極める必要があり、依頼者のきょうだいから介護状況、隣人状況などの経緯を聞き取った上で陳述書を作成し、本件犯行に至る経緯について酌むべき事情があることを検察官に主張しました。
依頼者は事件当時精神状態が不安定だったため、精神疾患が疑われ、簡易鑑定も実施されました。包丁を2本投げるという事件の性質上刑事処分もあり得たため、犯行事実は認めながらも動機、犯行の決意時期、方法、態様、被害者への思い等の重要な点については黙秘を選択し、示談交渉を並行しつつ責任能力に疑義があることを主張する方針を選択しました。
簡易鑑定を踏まえて、検事は刑事処分よりも福祉的処遇が妥当であると判断して、県知事に対して精神保健福祉法上の通報をしましたが、診察にあたった医師は既往歴がないことや、顕著な精神疾患の徴候が無いことから精神疾患は認められないか又は程度は極めて小さいと判断し措置入院は回避することができました。
示談交渉の末、自宅の両親の介護は妹が協力し、依頼者は事件のあった自宅から離れて別のきょうだいと同居することを内容とする示談が円満に成立しました。そして、依頼者のきょうだいと弁護士が通院先を調整することで、不起訴処分に加えて入院処遇も回避することができました。
事件のポイント
隣人トラブルは根が深く、エスカレートして事件に至ることが多いため、弁護士が仲介者として関与し解決することが不可欠です。被害者の関心は犯人の処罰よりも今後の生活の安全、平穏な暮らしにあり、終局的な解決のためには生活環境の分離、すなわち被疑者の引越しが求められることが多いです。
本件ではそのことを示談条項に盛り込んで成立させ、一方で措置入院という不利益処分を回避できたので、弁護活動としては最善の結果が得られた案件でした。
執筆者: 代表弁護士 中村勉