否認でも粘り強い交渉で示談成立し不起訴
電車乗車中、出入口付近に立っていたところ、自分の前に立っていた女性から痴漢の疑いをかけられたという事例です。
警察署にて事情聴取を受け、その後当事務所に相談し、受任に至りました。
被疑者である依頼者は、当時車内は混雑していたため「もしかしたら手は当たったかもしれないが、触ってはいない」とのことでした。
弁護人は、本人の認否、当時の様子を再確認しました。そして、依頼者と入念に打合せを行い、取調べに対しては黙秘を指示しました。
否認であるものの、自らできることはないかとの依頼者の強い希望のもと、被害者に対し謝罪文を作成し、弁護人がこれを預かりました。
また、大学生で、就職を控えていた依頼者の希望に沿い、受任後すぐに示談交渉の希望を申し入れました。
警察段階では被害者に取り次いでもらうことができなかったものの、送検後、被害者から、連絡先を教えていただくことができました。とはいえ、電話になかなか出ていただけなかったため、検事に状況を伝え、一度意向を確認してもらい、改めて示談交渉にあたりました。
依頼者が否認していることもあり、当初は被害者も示談に難色を示していましたが、弁護人が電話にて粘り強い交渉を続けた結果、示談を成立させることができました。
示談成立後、出頭要請はないまま不起訴(起訴猶予)処分となりました。
事件のポイント
本件のポイントは、否認、黙秘をしつつ、示談交渉の余地を探り、これを成功させた点にあります。否認事件では「被害者も認めていないのに何が示談か」といった感情が強く、示談の成功率が低いです。
本件で、仮に示談が成功していなかったら、起訴された可能性が高かったでしょう。
痴漢事件の否認は、起訴リスクが高く、たとえ被疑者が黙秘を貫いても起訴されることがほとんどです。多くの被疑者、あるいは一部の弁護士は、目撃者もおらず、客観的証拠もないならば証拠不十分で必ず不起訴になるはずと考えますが、それは誤りです。被害者女性の証言こそが最大の証拠であり、かつ、それで十分だからです。痴漢という犯罪の性質上、加害者と被害者は見知らぬ同士であることが多く、被害者が敢えて虚偽被害を訴える動機がないのです。
ですから、痴漢事件は、否認事件であってもリスクヘッジで示談の余地がないかを探ります。
もちろん、依頼者の意向がもっとも大切で、全くの冤罪であるのに示談金を払うのはおかしいと考える場合もあるでしょう。
その場合には、上記起訴リスクを説明した上で、一切示談交渉することなく、正面から正々堂々と闘う弁護方針を採ります。
執筆者: 代表弁護士 中村勉