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キスやハグでも不同意わいせつ(旧強制わいせつ)となるか? を解説

お酒を飲んだ勢いで女子高生にキスをしたことにより、「強制わいせつ罪」として書類送検された有名人がいました。ニュース番組等でも目にする不同意わいせつや強制わいせつという罪ですが、どのような行為がその処罰対象となるのでしょうか。

キス(接吻)やハグでも不同意わいせつ罪は成立するのでしょうか。その刑罰はどれくらい重く、逮捕もあり得るのでしょうか。

また、海外では、キス(接吻)やハグ(抱き付き行為)が、別に恋人同士でなくとも、挨拶や愛情の表現として違和感なく公然と行われる文化・習慣を持つ国もあります。このような行為でも、日本においては不同意わいせつ罪に当たるのでしょうか。以下、弁護士が解説いたします。

不同意わいせつ(旧強制わいせつ)とは?その成立要件について

相手の同意を得ることなく、強引に胸や陰部を触ったりする行為は、不同意わいせつ罪に当たる可能性があります。
従来、そのような行為は強制わいせつ罪として処罰されてきましたが、令和5年の刑法改正により不同意わいせつ罪と名称や要件が変更されました。
その要件については、下記のとおりです。

刑法第176条1項
次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、六月以上十年以下の拘禁刑に処する。
一 暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと。
二 心身の障害を生じさせること又はそれがあること。
三 アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること。
四 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること。
五 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。
六 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕させること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること。
七 虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること。
八 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。

いくつかの要件について解説します。
(1) まず、「わいせつ」な行為がなされる必要があります。「わいせつ」な行為とは、「徒らに性欲を興奮又は刺戟せしめ、且つ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反する」(最大判昭和32年3月13日《いわゆる「チャタレー夫人の恋人」事件判決》最判昭和26年5月10日)行為をいうとされてきました。典型的には陰部を弄ぶなどの行為を指します。キスやハグがこれにあたるのか否かは、後ほど解説します。

なお、後記のとおり、必ずしもその行為が犯人の性欲を刺激興奮させ又は満足させるという性的意図のもとに行われることを要するものではない旨の判例変更がなされています(最大判平成29年11月29日)。

(2) 次に、この罪の性質上、被害者の承諾がないことが必要です。被害者の承諾の下に行ったとしても、被害者が13歳未満の者なら本罪の成立を免れず、また、18歳未満の者なら監護者わいせつ罪(刑法第179条1項)、児童福祉法違反(同法第34条1項6号)、いわゆる青少年保護育成条例違反等が成立し得、さらに、街中などで公然と行えば公然わいせつ罪(刑法第174条)となり得ます。

(3) 旧強制わいせつ罪では、暴行または脅迫が要件とされていました。もっとも、その場合の「暴行」とは、「正当の理由なく他人の意思に反してその身体に力を加えることをいい、その力の大小強弱を問わない。」などとされ(大判大正13年10月22日)、「脅迫」も同様、要するに被害者の意思に反して当該行為を行うに足りる程度でよく、強制性交等罪のように、反抗を著しく困難にする程度に達する必要はないと考えられていました。

また、わいせつ行為自体が暴行行為であった場合にも、旧強制わいせつ罪は成立すると考えられていました。つまり、特に殴るなどの暴行を加えなくても、陰部を触るなどの行為そのものが強制わいせつ罪の手段たる「暴行」であると同時に「わいせつな行為」でもあると考えられていたのです。

更に、令和5年の法改正により旧強制わいせつ罪は不同意わいせつ罪へと変更され、暴行や脅迫を用いた場合以外にも様々な状況が当てはまることになりました。
ですから、暴力を振るっていないからとか、強引にしていないから犯罪は成立しないと考えるのは大きな誤りで、明確に同意を得たうえで性的な行為に及ぶ必要があります。

(4) わいせつ行為が「犯人の性欲を刺激興奮させ又は満足させる」という「性的意図」のもとに行われることは必要とされるでしょうか。従来、このような行為者の「性的意図」も強制わいせつ罪の成立要件とされてきました。すなわち、例えば、専ら被害者に復讐する目的で、被害者の裸の写真を撮ったような場合には、性的意図がないとして、強制わいせつ罪は成立しないとした最高裁判例(最判昭和45年1月29日)があり、その後は、この判例に従った運用がなされていました。

しかし、その後、最高裁は、犯人側の主観的事情ではなく、「今日では、強制わいせつ罪の成立要件の解釈をするに当たっては、被害者の受けた性的な被害の有無やその内容、程度にこそ目を向けるべきであ」るとして、行為者の性的意図を同罪の成立要件とする上記昭和45年判例の正当性に疑問を呈してその解釈を変更し、「行為者の性的意図を一律に強制わいせつ罪の成立要件とすることは相当でない」旨判断しました(但し、同判例は、その「行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度を十分に踏まえた上で」、わいせつ行為に当たるか否かを判断する「個別具体的な事情の一つとして、行為者の目的等の主観的事情を判断要素として考慮すべき場合があり得る」ともしており、犯人の性的意図をわいせつ行為に該当するかの判断要素とする場合があり得ることを否定してはいないと考えられます)。

被害者の同意の有無はどのようにして判断される?

ところで、相手方の承諾の有無は、裁判でよく争点になります。被害者が承諾などしていないと言い、加害者は「被害者は嫌がっていなかった」などと主張し、裁判で争われます。不同意わいせつ(旧強制わいせつ)罪における最も重要で直接的な証拠は、被害者の証言そのものですから、被害者証言の信用性が裁判の結論を左右します。

よく、被害者の承諾がなかったという証拠がどこにあるんだ、証拠がないのにそのような訴えをするな、などという主張を耳にしますが、被害者の証言そのものが直接的な証拠であり、その証言を根拠に起訴され、有罪となったケースは山ほどあります。「それでは、承諾がないと言われたら、それだけで有罪ではないですか」という声が聞こえてきそうですが、もちろん被害者証言の信用性は、行為者を有罪にできるほど高度なものである必要があり、それは、以下のような諸事情を勘案して総合的に判断されます。

例えば、犯行の日時・場所・態様、加害者と被害者との関係、知り合ってからの期間、交際の有無・状況、当該行為に至る経緯・状況、行為後の状況その他の様々な事情により、その信用性が吟味されます。一般的に言うならば、例えば、深夜に人気のない路上で見ず知らずの女性に突然抱き付いて胸を揉むなどの行為に及べば、承諾などなかったという被害者の証言の信用性が否定されることはなかなかないでしょうし、逆に、正常な意識がありそこがラブホテルと知りながら部屋まで二人で仲良く一緒に入るなどした末の行為であれば、承諾などなかったという被害者の証言に疑問符がつく場合もあります。

はたしてキスは不同意わいせつ(旧強制わいせつ)となるか

不同意わいせつ罪のいう「わいせつ」な行為とは、前記のとおり、「徒らに性欲を興奮又は刺戟せしめ、且つ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反する」行為をいうとされています。簡単に言うと、一般に、被害者が性的な意味で恥ずかしい、不快だと感じさせられる行為がこれに当たるでしょう。典型的には、胸や陰部を弄ぶなどの行為です。
逆に、例えば握手をすることは、通常は性的な意味を含まないと考えられますから、無理矢理握手されて嫌悪感を覚えたとしても、特段の事情がなければ不同意わいせつ(旧強制わいせつ)罪は成立せず、せいぜい暴行罪、強要罪等の成否が考えられるにとどまります。

では、キスやハグをすることは「わいせつ行為」にあたるのでしょうか。冒頭に述べたように、キスやハグが挨拶、尊敬、友情等を表現するものとして日常的に行われている国があり、それは、テレビでも、各国首脳の挨拶等として目にするところでもあります。
一方で、キスやハグは、単なる挨拶等にとどまらない性愛の表現として行われることもありますので、性的意味をふくむものとして「わいせつ行為」に当たる可能性があります。こうしたキスやハグの意味を踏まえた上で、その行為の日時・場所・態様、当事者間の関係、行為に至る経緯・状況その他の諸事情を総合的に考慮して「わいせつ行為」に該当するか否かが判断されると考えられます。

ちなみに、高松高判昭和33年2月24日は、キスのわいせつ性につき、「男女間における接吻は性欲と関連する場合が多く、時と場合即ちその時の当事者の意思感情や行動状況環境等により一般の風俗性的道徳感情に反し猥褻な行為と認められることがあり得る。人通りの少ない所や夜間暗所で通行中の若い婦女子にその承諾を得られる事情もないのに強いて接吻を為すが如きは、親子兄妹或いは子供どうし等が肉親的愛情の発露や友情として為すような場合と異なり、性的満足を得る目的をもって為したるものと解せざるを得ず、かかる状況下になされる接吻は猥褻性を具有するに至るものといわなければならない。」として、キスにつき旧強制わいせつ罪を認めています。

また、大阪高判昭和29年11月30日は、顔見知りの女性をからかい、逃げる女性のあとを追って抱き付いたら同女があおむけに倒れたので、馬乗りになったという事例につき、「馬乗りになるという行為自体は、普通の性的行為を実行する体勢ではなく、また直ちに性的行為を連想せしめる行為でもない。」として旧強制わいせつ罪の成立を否定し、暴行罪の成立のみを認めました。いずれも古い判例ではありますが、1つの参考になります。

不同意わいせつ(旧強制わいせつ)罪の刑罰の重さについて

前記のとおり、不同意わいせつ罪の刑罰は、6月以上10年以下の拘禁刑であり、罰金刑などのない重罪です。
キスやハグも、不同意わいせつ罪が成立する場合、法定刑としては同一であり、この刑が量刑の前提となります。ただ、事案にもよりますが、キスやハグが、陰部を弄ぶといった典型的なわいせつ行為より悪質性において比較的軽微だとされて、裁判における量刑が軽減されることはあり得ます。

当該行為をしたことが間違いない場合、キスやハグについても、典型的なわいせつ行為と同様、被害者との示談の成立等が処分や判決に対する相当に有利な事情となり得ます。

不同意わいせつ(旧強制わいせつ)で逮捕された場合の対処法について

不同意わいせつ罪で逮捕された場合、どのように行動すればよいでしょうか。いち早く弁護士に相談し、選任することが重要です。とりわけ事実に争いがある場合には、取調べに対する的確なアドバイスが必要になってきますし、事実関係に争いがない場合でも、迅速に示談交渉に着手して身柄拘束期間を短くするよう試みる必要があるからです。

逮捕・勾留という身体拘束は、様々な社会的な不利益を本人にもたらします。勤務先を解雇になるかもしれません。家族も心配で毎日眠れません。今後の見通しや裁判になるのかどうかも分からない中で不安ばかりが日々増していきます。本人に事情を聞きたいけれど、弁護士でない方だと、面会時間が限られる上、事件に関する会話は禁止されます。

この点、弁護士であればいつでも接見できます(時間の制約も基本的にありません)し、専門性と経験を有する弁護士なら、警察官・検事との面会その他を通じて情報を収集し、事件の見通しもつけることができます。そして、何よりもいち早く示談交渉に着手することができます。もし、示談交渉に成功すれば不起訴処分になる可能性が高まりますし、身柄拘束期間を短縮することに繋がるかもしれません。そのため、早期から刑事事件に詳しい専門的かつ経験豊富な刑事弁護士が必要となります。

なお、当事務所では、検事時代に被疑者側にも被害者側にも長年多数回にわたり接してきた元検事の弁護士が率いる弁護士チームが対応しますので、被害者との交渉内容、方法、タイミング等について、最善のアドバイス、弁護活動を提供できます。

まとめ

いかがでしたでしょうか。キスも不同意わいせつ罪になり得ることを何となく理解していても、具体的にどうしてわいせつ行為と言えるのか、その判断要素は何なのかなど、今ひとつはっきりしなかった方もいらっしゃると思います。今回の説明でそのような点に関する理解が深まったとしたら幸いです。

不同意わいせつ罪による逮捕を回避するため、あるいは、逮捕されたとしても起訴や実刑を避けるためには、何と言っても弁護士の助力が必要です。疑いをかけられたらいち早く専門的かつ経験豊富な弁護士にご相談ください。

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