
SNSのショート動画では、車の窓ガラスやドアを壊したり、携帯を叩き折る画像がよく流れます。青少年に限らず、人の深層心理への影響は良くないです。ここではそのような、器物損壊について代表弁護士・中村勉が解説します。
器物損壊とは、一般に物を故意に壊すことをいいますが、損壊の概念は多様で、あとで詳しく述べます。また対象が物ではなくペットである場合もあります。このときは動物虐待関連法令違反にもなり、観念的競合となります。
器物損壊事件で多いのは、酩酊しているときの犯行です。酔ってわいせつ系の事件を起こす人と粗暴犯を起こす人の二つのタイプがあります。両方とも酒癖が悪いので困ったものです。
粗暴犯のうち、人を傷つけるのではなく、物に当たるのが器物損壊です。店の看板を蹴飛ばして壊す。車の窓ガラスを叩き割る。携帯を壊す。店のレジを壊したケースもありました。
大抵は酔いが覚めると、なんであんなことをしたのだろうと後悔します。こういう行動に出る人はお酒を飲まなければよいのですが、お酒を止める決心がつかずに繰り返す人もいます。
もうひとつのタイプに、お酒に酔ってなくても器物損壊事件を起こす人がいます。車のタイヤをキリか何かで突いてパンクさせる。車のドアに鍵などで傷つけるといった犯行です。連続犯かつ確信犯が多く、犯人を特定するための捜査も手間取るのと、新たな犯行抑止のために逮捕されることが多いです。
以下に述べるように、弁護士は、被害者との間に立って解決を試みます。
器物損壊罪とは
器物損壊罪は、刑法261条に定められている犯罪です。
他人の物を損壊し又は傷害した場合に器物損壊罪が成立します。損壊は物を対象とし、傷害は動物を対象としています。
刑法261条では、他人の文書やデータの毀棄、建造物や船舶の損壊が器物損壊罪の対象から除かれていますので、これら以外の物を損壊又は傷害した場合に同罪が適用されます。
器物損壊罪の法定刑は、3年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金若しくは科料とされています。科料とは1万円以下の金銭の納付を求める刑罰のことをいいます。
「損壊」の具体例
器物損壊罪における「損壊」には、物理的な損壊を生じさせた場合だけでなく、その物の効用を害する行為、すなわちその物を本来の用途として使えなくする行為も含まれます。
例えば、食器に放尿する行為や、店の看板を隠す行為などが、物の効用を害する行為として挙げられます。また、物理的な損壊の例として、窓ガラスを割る行為や自動車を傷つける行為、看板を壊す行為などが挙げられます。
器物損壊罪が成立しないケース
刑法では、故意がない場合は犯罪は成立しないとされています。
ですので、物を壊したがわざとではないという場合には器物損壊罪は成立しません。また、器物損壊罪に過失犯はありません。なので、物を壊したことにつき過失(注意義務の違反)があっても、器物損壊罪は成立しません。さらに、器物損壊罪に未遂犯はありません。
未遂犯を処罰する場合には犯罪ごとにその旨を規定することとなっていますが、刑法には器物損壊罪の未遂犯処罰規定は存在しません。ですので、物を壊そうとしたが壊さなかった場合、壊れなかった場合(「損壊」に当たらない場合)も、器物損壊罪は成立しません。
まとめると、器物損壊罪は、故意で物を損壊した場合にのみ成立することとなります。
器物損壊罪で逮捕される?
器物損壊罪で逮捕される場合としては通常逮捕と現行犯逮捕が考えられます。
通常逮捕とは、捜査機関が事前に逮捕状を裁判所に請求して行う手続きであり、現行犯逮捕とは犯罪の実行行為を行ったその場等で逮捕される手続きのことを指します。
2023年の検察統計によると毀棄・隠匿罪の逮捕率は39%となっています。器物損壊罪のみの逮捕率ではないですが、半数は逮捕されずに捜査が進む、在宅捜査になる可能性があります。
逮捕されやすい条件
それでは、器物損壊罪で逮捕される場合とはどのようなケースでしょうか。
例えば、被害品が高額である場合、連続して何件も行った場合、前科がある場合、被害者の処罰感情が強く被害届が提出されている場合など、重大な事件については逮捕される可能性があります。
逮捕されず在宅捜査になるケースも
器物損壊罪にあたる行為を行ったからといって必ず逮捕されるとは限らず、一定の場合には在宅捜査となる可能性があります。
これは、逮捕自体は刑罰ではないこと、身体拘束が本人の社会生活上重大な不利益を伴うことになるため、逮捕を行うには慎重な考慮が必要とされるためです。
したがって、事案が軽微である場合には器物損壊罪では逮捕されない可能性があります。例えば、被害が極めて軽微である場合、被害届が提出されていない場合、民事的な賠償が既に終わっている場合等がこれにあたります。
また、刑法264条は「第二百六十一条(器物損壊罪)…の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。」と規定していることから、器物損壊罪は親告罪です。
告訴が存在しない段階では、告訴はあくまでも起訴のための条件であって逮捕の条件ではありませんが、逮捕自体されない可能性があります。
このような場合には、警察は任意同行を求めて事情聴取を行いますが、場合によっては事件を検察庁には送致しない処分(微罪処分)を行い、不送致で終了する可能性もあります。
逮捕後の流れ
器物損壊罪で警察に逮捕された場合には、48時間以内に警察が検察に被疑者を送致し、検察官が被疑者を勾留請求するか釈放するかを判断します。検察官が勾留請求した場合、裁判官が24時間以内に勾留決定するか釈放するかを判断します。
逮捕されると、釈放されるまでは警察署の留置場に入れられます。その間、警察官や検察官からの取り調べを受け、事実関係について追及されることになります。
この間、原則として弁護士とは接見可能ですが、逮捕されてから勾留が決定するまでの間は、弁護士以外は家族であっても面会をすることができないことが多いです。
勾留が決まると、さらに最大20日間留置場で生活することになり、捜査が継続されます。勾留期間中は、接見等禁止決定がつかなければ、家族や友人とも面会ができるようになりますが、警察官の立ち合いのもと、時間などが大きく制約されています。
長時間の取調べによる心理的圧力や制限された生活は、被疑者にとって大きな負担です。
身体拘束は、日常生活を強制的に中断させるものです。一般的に、逮捕されたことで警察から職場や学校に連絡されることはありません。
しかし、勾留期間が長引けば欠勤・欠席が続くことになり知られるリスクが高まり、解雇・停学・退学などの処分を受けるおそれがあります。社会人の場合は、逮捕されたことが知られなかったとしても、長期欠勤は解雇事由となります。
処分を何も受けなかったとしても、このような事情は被疑者の社会的信用を失わせます。
弁護士に依頼するメリット
身柄解放のための準抗告・意見書の提出
逮捕・勾留されると、被疑者は長期間にわたり社会から隔離され、生活や仕事に深刻な影響が及ぶだけでなく、精神的にも大きなダメージを受けることになります。
特に勾留が続けば、その分だけ家族や職場との関係も悪化し、最悪の場合は解雇や退学といった事態にもつながりかねません。そのため、被疑者の権利と生活を守るためには、一刻も早い身柄の解放が極めて重要な課題となります。
そこで、弁護士の活動の中心は、身柄解放活動ということになります。罪証隠滅のおそれがないこと、逃亡のおそれがないことを示す疎明資料を収集し、意見書に添付の上、検事や裁判官を説得して釈放を求めます。
また、勾留された場合には準抗告という不服申立書を裁判所に提出して勾留決定を争います。
取調べ対応のアドバイス
取調べでは、事件に関する事実や被疑者本人の事情が細かく質問されます。
取調べにおける回答内容によって、その後に刑事手続の方針も決まっていくので、対応を誤らないように注意し、取調べに対して質問に答えるのか、答えるとしてもどのような点に注意する必要があるのかを検討することが重要です。
しかし、刑事実務に詳しくない方には、適切な供述内容・供述方法を判断することは困難です。
弁護士は刑事事件の専門家として、黙秘権を行使すべきかどうか、供述するとしてどのような点に注意すべきかなど、事件の内容や捜査状況を踏まえた取調べでの対応の方針を考え、アドバイスすることができます。
また、供述調書にサインする際の注意点や、違法な取調べが行われたときの対応方法などを伝えることもできます。
家族への報告や説明
逮捕されると、被疑者本人からは家族に連絡を取ることができません。また、逮捕後72時間は、家族が面会に行くことができないことが多いです。
そこで弁護士は、家族に代わって接見を行い、被疑者本人と家族をつなぐ役割を担います。
弁護士は、逮捕直後から接見を行うことができるので、迅速に本人の様子を確認し、被疑者の置かれた状況を家族に伝えることができます。
そのうえで、「今後どのような手続きが進んでいくのか」、「いつまで拘束される可能性があるのか」、「起訴・不起訴の見込みはどうか」など、今後の流れを説明することができます。
職場や学校への対応
家族が逮捕されたとき、逮捕された本人は職場や学校に連絡することができません。代わりに家族が職場への対応をしていく必要があります。
弁護士であれば、接見の中で連絡を取るべき関係者についてヒアリングし、整理して家族に伝えることができます。
逮捕された事実をすぐに職場や学校に報告する必要はありません。逮捕された事実が発覚することなく穏便に解決することが可能な場合もあります。いつ、誰にどのような対応をするべきか、弁護士と相談しながら進めることをおすすめします。
不起訴処分を目指した活動
器物損壊罪は、他人のモノを「損壊する」類型の犯罪である以上、検察官や裁判官は被害者の処罰感情や損害の回復の有無というものを重視します。したがって、被害者の方との間で、示談が成立している場合や慰謝料の支払いを終えている場合、初犯であれば不起訴となる可能性が高いでしょう。
弁護士は被害者と迅速に示談をし、被害届の取り下げや不起訴処分を目指した活動を行うことができます。
被害者との示談の流れ
既に説明したとおり、器物損壊事件で不起訴処分を目指すには、示談の成立が重要です。
もっとも、モノに対する思い入れは人それぞれであり、また故意の犯罪に巻き込まれるストレスはときに筆舌に尽くし難く、被害者にとって謝罪をそのまま受け入れることは必ずしも容易ではなく、このような場合には第三者の介入が必要となってきます。
したがって、器物損壊罪で逮捕された場合には弁護士が早急に被害者の方とのコンタクトをとり、謝罪の意思を伝えることが弁護活動の第一歩となるでしょう。
その上で、被害回復のため、慰謝料の支払いを含む示談交渉を開始することになります。
交渉において、加害者側は(当然のことながら)どうしても弱い立場になり、より不利な条件を提示されがちです。事案を客観的に判断し、うまい落としどころを見つけるために、経験豊富な弁護士への依頼を検討することをお薦めします。
器物損壊罪で起訴されたら
告訴が維持された場合であっても、重大な事案でなく、また初犯又は前科1犯程度でしたら、公判請求(いわゆる正式な裁判)がなされる可能性は低く、略式請求され、罰金となる可能性が高いと言えるでしょう。
略式請求とは、簡易裁判所において、公判審理によらずに100万円以下の罰金または科料を科すことを求めるものです。
この場合、書面で起訴処分や罰則が言い渡されるのみで、これにより身体を拘束されることはありません。
一方で、同種前科が複数存在する場合、又は重大な事件である場合には、公判請求をされる可能性が高いと言えるでしょう。もっとも、そのような場合であっても執行猶予を得ることは不可能ではありません。
当事務所で扱った器物損壊の解決実績
まとめ
器物損壊は、お酒に酔った勢いや一時の感情で、思いがけず起こしてしまうことがある身近なトラブルです。
ですが、たとえ軽い気持ちだったとしても、逮捕や勾留となると、仕事や学校、ご家族との関係など、日常生活に大きな影響が及びかねません。
そんなとき、頼りになるのが刑事事件に強い弁護士です。弁護士が早い段階で対応すれば、被害者との示談や早期の身柄解放、不起訴処分につながる可能性も高まります。
ご自身やご家族が突然の逮捕という事態に直面してしまったら、一人で悩む前に、まずは専門家である弁護士に相談してみてください。不安な気持ちをしっかり受け止め、最善の解決策を一緒に考えます。
当事務所では、これまで多くの器物損壊事件に対応してきた実績があります。まずはお話をお聞かせください。
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当事務所は、刑事事件関連の法律相談を年間3000件ものペースで受け付けており、警察捜査の流れ、被疑者特定に至る過程、捜査手法、強制捜査着手のタイミング、あるいは起訴不起訴の判断基準や判断要素についても理解し、判決予測も可能です。
- 逮捕されるのだろうか
- いつ逮捕されるのだろうか
- 何日間拘束されるのだろうか
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上記のような悩みをお持ちの方は、ぜひご相談ください。