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背任罪や特別背任罪で逮捕! 定義を弁護士が解説

背任罪」や「特別背任罪」と報道で耳にすることがありますが、どのような犯罪なのでしょうか。

背任罪の成立要件や罰則、具体的事例、また、横領罪との違い等を弁護士・中村勉が解説いたします。

背任罪とは

背任罪は、刑法第247条に定められている犯罪で、「他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を与える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたとき」に成立します。

刑法第247条
他人のためにその事務を処理する者が、自己もしくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

要は、他人から任されている職務に背き、自分や第三者に利益を図るため、他人に損害を与えるという犯罪です。典型的な背任事例として、「不正融資」や「不良貸付」を挙げることができます。銀行融資担当が、十分な担保も取らないまま過剰に貸し付けたり、回収の見込みのない顧客に対し、そのことを知りながら何の担保も取らずに銀行から融資したりする行為に背任罪が成立し得ます。

他人のために事務を処理する」とは、他人からの信任や委託に基づいてその事務を処理することを意味します。ここにいう「他人」には、会社などの法人や国及び地方公共団体なども含まれます。

自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で」という部分は、図利加害目的ともいわれますが、「自己の利益を図る目的」、「第三者の利益を図る目的」、「本人(※上記「他人」のことです。)に損害を加える目的」のいずれかがあれば、この要件を満たします。
ここにいう「利益」や「損害」には、財産上のものに限られず、社会的地位や信用、面目等を保持することなどの身分上の利益や、面目を失墜させるなどの損害も含まれるとものと解されています(大審院大正3年10月16日判決)。なお、自己又は第三者の利益を図る目的のみならず、本人の利益を図る目的もあった場合には、目的の主従により背任罪の成否が判断されます(最高裁昭和29年11月5日判決等)。

任務に背く行為」とは、任務違背行為ともいわれますが、本人からの信任や委託の趣旨に反する行為のことを意味します。不作為も含まれます。信任や委託の趣旨に反するかどうかは、信任・委託されている事務の内容、その事務処理者としての地位や権限、当該行為時の状況等に照らし、当該事務の処理者として期待されていた行為の範囲を逸脱しているか否かの観点から判断されます。

財産上の損害を加えたとき」とは、経済的見地において本人の財産状態を評価し、当該行為によって、本人の財産の価値が減少したとき、又は増加すべき価値が増加しなかったときを意味します(最高裁昭和58年5月24日)。例えば、本人の金員を他者に貸し付けた場合、手元の金員は減少しますが、本人はこれに対応する貸金債権を取得するため、法律的には財産の減少がありません。しかし、貸し付けた相手の資力が乏しく、貸付け当時から返済が見込まれないような場合には、経済的見地から本人の財産の価値が減少したといえ「財産上の損害を加えたとき」に当たり得ます。

背任罪の法定刑

背任罪の法定刑は「5年以下の懲役又は50万円以下の罰金」です(刑法第247条)。

背任罪の具体的事例

(1)さいたま地裁平成29年7月12日判決

A社の営業本部のグループ長として、同社のために、同社が販売する新車の新規登録及びこれに付随する自動車重量税印紙購入等の業務を統括し、業務に必要な範囲で自動車重量税印紙を購入すべき任務を有していた被告人が、一般社団法人であるB法人の取扱窓口にA社名義の自動車重量税印紙購入申込書を提出すれば、同法人による立替払により自動車重量税印紙を購入することができ、後日、A社からB法人に対して同立替金が支払われていたことを奇貨として、自己の利益を図る目的で、その任務に背き、B法人の取扱窓口にA社名義の自動車重量税印紙購入申込書を提出して額面金額合計1億490万円の自動車重量税印紙を購入し、よって、同社に、立替金合計1億490万円をB法人に支払わせ、もってA社に財産上の損害を加えたとして背任罪に問われ、懲役3年の実刑を言い渡された事例。

(2)高松高裁平成17年7月12日判決

普通地方公共団体である県の副知事ら被告人3名が、既に県から総額14億円余りの貸付けを受けていながら、操業開始後間もなく10億円以上の運転資金不足を生じていた協業組合に対して10億円余りの貸付けを実行した行為につき背任罪に問われ、それぞれ懲役2年2月、懲役1年8月、懲役1年6月の実刑を言い渡された事例。

(3)最高裁昭和31年12月7日判決刑集10巻12号1592頁

被告人が、甲に対し自己の不動産につき根抵当権設定後、その登記の未了状態を利用し、さらに乙に対して根抵当権を設定してその登記を完了した行為につき、甲に対する背任罪が成立するとされた事例。

特別背任罪(会社法960条)とは

特別背任罪は、組織経営において重要な役割を担う者が背任を行った場合に、その責任の重さから、通常の背任罪より重く処罰するために定められた犯罪です。

具体的には、取締役等、会社法960条1項各号に挙げられている、株式会社において一定の権限を有する者が、自己若しくは第三者の利益のため、または株式会社に損害を加えるために会社の任務に背く行為をし、会社に財産上の損害を加えた場合に、特別背任罪が成立します。

ちなみに、会社法960条1項各号に挙げられていない者でも、挙げられている者の任務違背行為に加功すると、共犯として処罰されることがあります。融資の受け手が不正融資の前提となるスキームを提案し、担保物件の価値を大幅に水増しした不動産鑑定書を作らせるなどして、被害銀行の頭取に働きかけた事案では、背任罪の共同正犯が認められました(最決平成20年5月19日刑集62巻6号1623頁)。

特別背任罪の法定刑

取締役等による特別背任罪の法定刑は「10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金」です(会社法第960条)。代表社債権者等についても特別背任罪が成立しますが、その法定刑は「5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金」です(会社法第961条)。

※特別背任罪の法定刑は、1980年代後半から続いた会社不祥事を契機として、次第に加重されてきました(「会社法上の犯罪(2)-特別背任罪」佐久間修、ビジネス法務2011年3月号103頁)。

特別背任罪の具体的な事例

以下は裁判例の紹介であり、当事務所が扱った事例ではありません。

(1)最決平成21年11月9日刑集63巻9号1117頁(拓銀特別背任事件)

銀行の代表取締役頭取である被告人らが、実質倒産状態にある融資先企業グループの各社に対し、合理的な再建・整理計画もないまま、実質無担保で追加融資したことが、特別背任罪における取締役としての任務違背にあたるとし、株式会社北海道拓殖銀行の代表取締役頭取を務めていた被告人AとBそれぞれが懲役2年6月とされた。

(2)最決平成17年10月7日刑集59巻8号1108頁(イトマン事件)

中堅総合商社であったA社の代表取締役の地位にあった被告人が、共犯者らと共謀の上、ゴルフ場開発資金名目で、いずれも十分な担保を徴求することなく各融資を実行し、Aに損害を与えたことにつき、特別背任罪の成立を認め、懲役7年とした原判決を是認した。

(3)広島高裁平成16年9月21日

親会社であるA社及びその子会社であるB社の代表取締役を兼務していた被告人が、B社に利益を得させる目的で、商品価値を失っていたB社の長期在庫品をA社に買い取らせ、同社に代金相当額の損害を生じさせたことにつき、特別背任罪の成立を認め、被告人を懲役2年6月、執行猶予4年とした。

特別背任罪の量刑を決める際に重視されている要素

量刑を決める要素として重要なものは次のような要素です。

  • 会社に対する任務違背行為を行った期間、回数等の行為態様
  • 会社に与えた損害額
  • 任務違背行為の計画性、巧妙さ
  • 動機(自己の利益を得るためかどうか)
  • 会社の社会的立場(銀行の役員等が任務違背行為をすると、社会的影響が大きい)
  • 任務違背行為をした者が、今まで会社どのくらい貢献してきたか

背任罪、特別背任罪は未遂でも処罰対象か

背任罪、特別背任罪はいずれも未遂でも処罰対象となっています(刑法第250条、第247条、会社法第962条、第960条、第961条)。
背任罪が既遂か未遂かは、その行為によって「財産上の損害が発生したか否か」で判断されます。

背任罪と横領罪の違い

背任罪と似た犯罪に、横領罪があります。ここで、背任罪と横領罪の違いを見ておきます。
横領罪は、所有者から信任・委託を受けて預かった物を領得する犯罪です。背任罪も横領罪も信任・委託関係に背く行為を処罰する財産犯という点で共通しています。

もっとも、横領罪は特定の財物を権限なしに自己又は第三者のために領得する場合にのみ成立し、財産上の利益を領得する場合には成立し得ません。これに対し、背任罪については、対象が財物に限定されていませんので、本人の事務を処理する中で本人の全体財産に損害を与えたと言えれば成立します。

横領罪が成立するときは、背任罪は成立しないものと解されていますので、横領罪と背任罪のいずれにも該当し得る行為については、まず横領罪が成立するかを検討することになるでしょう。横領罪が成立するには、当該行為が、その物について権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思の発現であるといえなければなりませんので、もし本人の事務処理者として処分権限のある行為をしていて、ただ、それが本人との信任・委託関係の趣旨に背くものであるという場合には背任罪が成立することになります。

背任罪と横領罪では法定刑も異なります。背任罪の法定刑は上述のとおり「5年以下の懲役又は50万円以下の罰金」であるのに対し、横領罪は「5年以下の懲役」です(刑法第252条1項)。懲役刑の長期はいずれも5年で同じですが、横領罪には罰金刑がありませんので、横領罪の方が重いといえます。

背任罪、特別背任罪で逮捕されたら

弁護士にすぐ相談し、弁護を依頼しましょう。背任罪や特別背任罪で逮捕された場合、その後20日間の勾留が続く可能性が高いと言えます。
事実を認めているのであれば、被害者との示談や被害弁償が重要になります。背任罪等の事例では、被害者が内部的解決を望んでいたものの、加害者による誠実な対応がなかったために被害届を提出したり、告訴したりするケースが比較的多く、逮捕された段階ではすでに処罰感情が強いことが考えられます。しかし、それでも、勾留期間中に被害者との間で示談を成立させたり、被害弁償ができたりすれば、不起訴となる可能性も出てきますので、とにかくスピードが重要です。

事実を争うのであれば、弁護士と相談し、当該事案につき背任罪等が成立しないことを検察官に説得するための資料を準備する必要があります。また、取調べでの受け答えの仕方も十分に気を付けなければなりませんので、捜査初動段階での弁護士の助言が欠かせません。

まとめ

いかがでしたでしょうか。背任罪、特別背任罪に当たり得る行為をしてしまった場合には、逮捕される前に刑事事件に強い弁護士に相談しましょう。
ご家族が背任罪、特別背任罪で逮捕された場合にも、お早めにご相談ください。

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当事務所は、刑事事件関連の法律相談を年間3000件ものペースで受け付けており、警察捜査の流れ、被疑者特定に至る過程、捜査手法、強制捜査着手のタイミング、あるいは起訴不起訴の判断基準や判断要素についても理解し、判決予測も可能です。

  • 逮捕されるのだろうか
  • いつ逮捕されるのだろうか
  • 何日間拘束されるのだろうか
  • 会社を解雇されるのだろうか
  • 国家資格は剥奪されるのだろうか
  • 実名報道されるのだろうか
  • 家族には知られるのだろうか
  • 何年くらいの刑になるのだろうか
  • 不起訴にはならないのだろうか
  • 前科はついてしまうのだろうか

上記のような悩みをお持ちの方は、ぜひご相談ください。

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刑事事件は初動の72時間が重要です。そのため、当事務所では24時間受付のご相談窓口を設置しています。逮捕されると、72時間以内に検察官が勾留(逮捕後に更に被疑者の身体拘束を継続すること)を裁判所に請求するか釈放しなければなりません。弁護士へ依頼することで釈放される可能性が高まります。また、緊急接見にも対応しています。迅速な弁護活動が最大の特色です。

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