緊急避難とは|捜査段階の弁護が重要な緊急避難の成否について弁護士が解説|刑事事件の中村国際刑事法律事務所

緊急避難とは|捜査段階の弁護が重要な緊急避難の成否について弁護士が解説

刑事弁護コラム 緊急避難とは|捜査段階の弁護が重要な緊急避難の成否について弁護士が解説

緊急避難とは|捜査段階の弁護が重要な緊急避難の成否について弁護士が解説

 「緊急避難」という言葉を聞いたことはありますでしょうか。
 似たような状況で使われる言葉に「正当防衛」があります。相手から襲われ,咄嗟に自分が身を守るためにした行為により,相手が死亡又は負傷してしまった際に,その人が「正当防衛だった。」と主張するドラマの1シーンなどがよくあり,「正当防衛」については聞いたこともあり,かつ,その意味合いも大体ご存じの方が多いでしょう。
 ここでは,正当防衛とは少し違うものの,刑法上同じ効果を持つ「緊急避難」について解説します。

 本コラムは代表弁護士・中村勉が執筆いたしました。

緊急避難とは

 緊急避難とは,自己または他人の生命・身体・自由・財産に対する危難が現に存在している緊急の状況下において,その危難を避けるためにやむを得ずにした行為であって,他にその危難を避ける方法がなく,またその行為から生じた害悪が行為によって避けようとした害悪の程度を超えない行為のことをいいます。
 刑法第37条に定められており,そのような行為は「罰しない」とされています。

刑法第37条 第1項

 自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。ただし、その程度を超えた行為は、情状により、その刑を軽減し、又は免除することができる。
 (第2項)前項の規定は,業務上特別の義務がある者には,適用しない。

 なお,前述した正当防衛は,刑法第36条に定められており,同じように,正当防衛に当たる行為は「罰しない」とされています。

刑法第36条第1項

 急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。
 (第2項)防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。

 正当防衛も緊急避難も,本来は犯罪に当たる違法な行為であっても,その行為が行われた際の具体的状況に照らしてこれを違法として扱わず,罰しないとする制度で,違法性阻却事由と呼ばれています。「阻却」には,妨げるという意味があります。
 刑事裁判において違法性阻却事由が認められれば,無罪判決が言い渡されることになります。

緊急避難の成立要件

 緊急避難の成立要件は大きく分けて以下の4つがあります。それら全てを満たして初めて違法性が否定されます。

 1. 現在の危難が生じていること
 2. 危難を回避するための行為であること
 3. やむを得ない行為であること
 4. 緊急避難により避けられた害の程度が,生じた害の程度以上であること

 以下,順に各要件の意味について詳しく見ていきましょう。

1.現在の危難が生じていること

 「現在の危難が生じている」といえるためには,当該危難が現に存在するか,間近に押し迫っていることが必要です。
 「危難」とは,法益に対する侵害又は侵害の危険のある状態をいいます。
 緊急避難により保護される法益は,生命,身体,自由又は財産で,自己のもののみならず,他人のものも含まれます。

2.危難を回避するための行為であること

 当該行為が,危難を回避するためにされていること,すなわち,避難の意思が必要です。
 例えば,Aさんに対して専ら加害意思をもって体当たりをしてAさんを押し倒したところ,その時ちょうどAさんがBさんから銃撃を受けようとしていたところで,Aさんを押し倒したことにより,AさんがBさんからの銃弾を偶然避けることができ,Aさんの生命が助かった,というような状況を想像してみてください。
 Aさんを押し倒す行為は,客観的に見れば,Aさんの生命に対して生じていたBさんからの銃撃と言う現在の危難を回避していますが,主観的にはそのような回避行為を意図してされたことではないので,当該要件を満たさず,緊急避難は成立しません。

3.やむを得ない行為であること

 当該行為が避難行為としてやむを得ない,すなわち,唯一の相当な方法であったことが必要です(補充の原則)。
 この要件が要求されるのは,緊急避難は,自己や他人に降りかかった危難を回避するために当該危難の発生とは無関係である第三者に対して生じた害を仕方がないものとして違法性を阻却する制度であることから,当該制度が適用される場面を厳格に限定する必要があるからです。
 なお,他に一切方法がなかったことまでの必要はなく,現実的に考えられる方法として唯一のものであればよいと解されています。
 例えば,Bさんから銃撃を受けようとしているAさんを助けるため,Aさんの体を素手で押すのではなく,Aさんを目掛けて硬いボールを投げた場合に,理論的には体を素手で押す方がAさんに対する被害が小さく済み,避難行為としてより相当な方法といえるかもしれません。しかし,Aさんとの間に距離があり,素手で押すのでは間に合わず,近くにあった硬いボールを投げるしか他に方法がなかったという状況であったのであれば,当該要件は満たすことになります。

4.緊急避難により避けられた害の程度が,生じた害の程度以上であること

 避けられた害が生じた害よりも大きかった場合,または,避けられた害が生じた害と同等であった場合にのみ緊急避難が成立し,避けられた害が生じた害より小さかった場合には緊急避難は成立しません(法益権衡の原則)。
 これも,緊急避難は,自己や他人に降りかかった危難を回避するために当該危難の発生とは無関係である第三者に生じた害を仕方がないものとして違法性を阻却する制度であることから,当該制度が適用される場面を厳格に限定する必要があるから要求されている要件です。

過剰避難

 過剰避難とは,上記1~3の要件は満たすものの,上記4の要件を満たさない場合のことを言います。すなわち,避難行為によって生じた害の程度が,避けられた害の程度を超えてしまった場合です。
 過剰避難の場合には,情状により刑を減軽,または免除することができるとされています(刑法第37条1項但し書き)。
 刑事裁判において,緊急避難の成立が認められた場合には無罪判決となるのに対し,過剰避難の成立が認められるにとどまる場合には,有罪判決となりますので,たとえ刑が免除されたとしても,前科としては残ってしまいます。

緊急避難と正当防衛の違い

 正当防衛について規定する刑法第36条1項は,緊急避難でいう上記4の成立要件(法益権衡の原則)が要求されておらず,要件が緩和されています。
 また,条文の文言上,正当防衛も緊急避難も「やむを得ずにした行為」という要件が入っていますが,正当防衛における「やむを得ずにした行為」は防衛行為として必要性と相当性が認められればよいと解されているのに対し,緊急避難における「やむを得ずにした行為」は前述のとおり,他に方法がなく,唯一の現実的に考えられる避難の方法であることが要求され,より厳格に解されています。
 これは,正当防衛においては,「急迫不正の侵害に対して」防衛行為が行われる点で,当該防衛行為を正当化しやすいからです(もっとも,防衛の程度を超えた行為と判断されれば,過剰防衛[刑法第36条2項]が成立するにとどまります)。

 なお,緊急避難について定める刑法第37条の規定ぶりからすると,正当防衛に該当する行為も緊急避難に当たりそうですが,正当防衛に該当する行為は前述したように要件が緩和されている刑法第36条1項に依拠した方がよいことになります。
 そのため,「緊急避難」というと,一般的に,正当防衛に該当しない行為,すなわち,避難行為が,不正の危難を生じさせている原因の人や物に対してではなく,危難とは無関係の人や物に対してされる場合のことをいいます。
 避難行為により害が生じた相手が危難とは無関係であれば緊急避難,危難の原因そのものであれば正当防衛という棲み分けになります。

緊急避難が認められた裁判例

 覚せい剤を使用したとして一審で有罪となったが,第三者からけん銃を頭部に突き付けられて覚せい剤の使用を強要されたために,やむを得ず覚せい剤を使用したのであって,緊急避難が成立するとして無罪となった。(平成24年12月18日東京高裁 平成24年(う)第1750号)

緊急避難が認められなかった裁判例

 片側一車線の一般道路において,34キロ超過の94km/時で走行,道路交通法違反となり,あおり運転を受け,やむを得ず速度超過をしたとして緊急避難を主張した事案。
 ⇒一審では緊急避難が認められ無罪となったが,控訴審において,ブレーキを軽く踏んで制動灯を点灯させ,後続車に接近行為をやめるよう注意喚起したり,左寄りに進路を変更もしくは路側帯等に退避したりして追い越しを促すなどすべきだったとして罰金刑となった。(平成26年(う)第137号)

捜査段階の弁護の重要性

 実務では,正当防衛でも裁判上認められることは稀ですので,より要件の厳しい緊急避難は滅多に認められません。したがって,裁判においていきなり緊急避難を主張しても,これを認定してもらうのは非常に難しいでしょう。
 しかし,捜査段階において検察官が起訴するか不起訴にするかを決める場合,厳密な要件に当たらなくても,緊急避難的な事例は不起訴にする可能性があります。裁判における裁判官の法令適用は純粋な法解釈によりますが,検察官の起訴不起訴の判断は,立証方法等公判での運用や被害者負担等の政策的戦略的事情を加味してなされます。その意味で,緊急避難的な事例の場合には,捜査段階において不起訴にしてもらえる可能性の方が,公判段階で緊急避難を認定してもらえる可能性より高いといえます。
 したがって,捜査段階の弁護活動が,公判段階での弁護活動よりはるかに重要です。
 緊急避難に当たりそうな事例の場合には,起訴されて手遅れになる場合に,刑事事件に詳しい弁護士に相談しましょう。

まとめ

 いかがでしたでしょうか。正当防衛と同じ違法性阻却事由でも,緊急避難の場合は要件がより厳格になります。
 また,緊急避難の要件該当性の判断は,そう簡単ではありません。特に,当該行為が「やむを得ない行為」といえるかについては,様々な要素を加味して判断する必要があります。
 捜査段階の弁護の重要性については上述したとおりですので,要件の充足をご自身で判断して安心するのではなく,一度弁護士に相談することをお勧めします。

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公開日:

「緊急避難」に関する刑事弁護コラム

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