京アニ放火事件の裁判員裁判が開始!争点を弁護士が解説|刑事事件の中村国際刑事法律事務所

京アニ放火事件の裁判員裁判が開始!争点を弁護士が解説

刑事弁護コラム

京都アニメーション放火事件の裁判員裁判が開始

 2019年7月18日,京都アニメーション第1スタジオが放火され,36人の方が亡くなるという我が国で稀に見る凄惨な事件が起こりました。
 被告人は,殺人,殺人未遂,現住建造物放火,銃刀法違反などの罪に問われており,2023(令和5)年9月5日から裁判員裁判の公判が始まりました。報道によると,弁護側は責任能力を争い,被告人は心神喪失を理由に無罪であり,仮にそうでないとしても心神耗弱を理由に刑が減刑されるべきと主張したとされています。
 一般市民の方には,本件のような重大な事件において,心身喪失や心神耗弱を理由に判決が左右されることに抵抗感を覚える方も少なくありません。
 なぜこうした主張がされているのでしょうか。また,報道では2024年1月に判決を迎えるとされていますが,どうしてそれほど公判に時間がかかるのでしょうか。

 以下,弁護士が解説します。

なぜ責任能力に刑が左右される?

 我が国の刑事裁判においては,「行為責任」という考え方が取られています。
 「行為責任」とは,簡単に言えば,その犯罪行為に出たことをどれだけ責められるかによって量刑を決めようということです。犯罪行為を責めるためには,その犯罪がその人の意思決定によることが必要です。病気というのは,誰しもなりたくてなるものではありません。例えば重度の統合失調症の症状により,何らかの犯罪を行えという幻覚や幻聴が生じ,これに抵抗する能力がないままに犯罪に及んでしまった場合,その犯罪がその人の意思決定によるものと考えるのは難しくなります。

 そこで刑法39条は,1項において「心神喪失者の行為は,罰しない」,2項において「心神耗弱者の行為は。その刑を減刑する」と定めています。
 心神喪失とは,精神の障害により,事理弁識能力または行動制御能力を欠いている状態をいいます。
 心身耗弱とは,精神の障害により,事理弁識能力または行動制御能力が著しく害されている状態をいいます。
 病気の影響により,物事の是非善悪を判断する能力や自分の行動をコントロールする能力が著しく害されている場合,行われた犯罪におけるその人の意思決定の要素は少ないので,通常の能力を有する人と同じように責めることはできないから刑を減刑するということです。病気の影響により上記の能力を全く欠いている場合には,もはやその犯罪はその人の意思決定ではありませんので責められず,無罪を言い渡すということです。

 理屈では分かっていても,病気を理由に刑が減刑されたり,無罪になったりすることは,重大な事件であればあるほど市民感情では受け入れ難いかもしれません。
 しかし病気というのは誰しもなる可能性があります。病気の影響によって罪を犯すというのは,何も他人事ではありません。責任能力のルールは,「行為責任」の考え方に基づいて公平な判決を下すための大切な制度なのです。

 今回の事件でも,弁護側は,被告人に精神障害が認められることを理由に,心身喪失ないし心神耗弱の主張を行っていると考えられます。

なぜ判決までに時間がかかるのか

 裁判員裁判では,序盤に事件後の現場の状況など,検察側と弁護側の争いのない書証が取調べられます。その後に,証人の証人尋問や被告人質問が行われます。
 全ての証拠の取調べが終わると,被害者の方(ご遺族の方)が希望される場合には心情の意見陳述が行われます。その後,事実認定および法律の適用について,検察官の論告・求刑と弁護人の最終弁論が行われます。この際,被害者の方(ご遺族の方)が希望される場合には,同様に意見を述べることができます。

 今回の事件では,責任能力が争点となっています。具体的には,被告人がどのような精神障害を有しているのか,その重さはどのくらいなのか,その障害がどのように犯行に影響したのかという点について,検察側と弁護側で争いがあるということです。
 このような場合,裁判所が採用した精神鑑定を担当した精神科医の証人尋問や,検察側・弁護側が鑑定を依頼した精神科医の証人尋問が行われます。精神科という専門分野を裁判員の方に分かりやすく理解していただくために,長時間の証人尋問が行われることが多いです。

 また,精神鑑定の前提として,被告人のこれまでの成育歴や事件前後の行動などについても,証人が出廷する可能性があります。被告人質問も,精神科医の証人尋問の前後に分けて実施されることもあり,複数回の公判を要することが多いです。
 そして上記のとおり,被害者遺族の方の身上意見陳述や,事実認定・法律の適用に関する意見陳述(被害者論告)の実施が予想されます。被害者の方が36人と多数に上りますので,ご遺族による意見陳述に相応の時間を要すると予想されます。

 更に公判が終わると,裁判官・裁判員で評議を実施し,判決を決定しなければいけません。責任能力という専門分野について,また被告人を死刑に処するかどうかという慎重にも慎重さが求められる問題について結論を下すには,かなりの日数を要すると見込まれます。
以上のような事情から,極めて重大な事件である本件では,判決までに数カ月かかることはやむを得ないと考えられます。

まとめ

 いかがでしたでしょうか。京都アニメーション放火事件について,解説してきました。
 中村国際刑事法律事務所では,責任能力が争点となる複雑な事案も多く取り扱っています。もしご自身やご家族が警察の捜査を受け,その背景に病気が伺えるような場合には,是非とも弊所までご相談ください。

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