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盗撮ハンターについて弁護士が解説

犯罪行為をネタにしてゆするというのは昔からある手口です。

今回は、マスコミを騒がせている「盗撮ハンター」について詳しく解説します。

盗撮ハンターとは

ここ最近、マスコミで「盗撮ハンター」といわれる犯罪が報道されています。これは、盗撮犯を見つけて、警察への通報をしない代わりに口止め料として金銭を要求する犯罪です。金銭の要求は明示的にされる場合もあれば、盗撮犯の方から支払いの提案をさせるように誘導するものもありますが、いずれにせよ犯罪です。それでは、このような犯罪の被害に遭いそうになった場合の対応を検討してみましょう。

盗撮はどのような場合に犯罪となるのか

そもそも自身が行った「盗撮」行為が犯罪でなければ、刑事手続きにのることはありません。仮に警察に通報すると脅されても犯罪でなければ問題はないので、自由にしてもらえばよいわけです。どのような行為が盗撮として刑事上許されないのかを確認しておく必要があります。

まず、刑法には「盗撮罪」は存在しません。しかし、特別法である軽犯罪法や都道府県が制定した迷惑防止条例で盗撮は犯罪化されています。まず軽犯罪法を確認しましょう。条文は次のとおりです。

軽犯罪法 第1条
左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。
1~22号 略
23号 正当な理由がなくて人の住居、浴場、更衣場、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た者

この犯罪は、通常衣服をつけない場所をひそかにのぞき見る犯罪です。したがって、これらの場所で盗撮行為を行っていれば当然にこの罪が成立することになります。ここでいう「拘留」とは、1日以上30日未満の間、刑事施設に拘置される刑です(刑法第16条)。そして「科料」とは、1000円以上1万円未満を支払わせる刑です(刑法第17条)。

もっともこの罪は、人が通常衣服をつけない場所で行われるのが要件となりますので、駅などで行われる盗撮行為は含まれません。次に都道府県で制定されている迷惑防止条例について確認をしましょう。今回は東京都について検討してみましょう。

東京都迷惑防止条例(粗暴行為(ぐれん隊行為等)の禁止)
第5条 何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であつて、次に掲げるものをしてはならない。
(1)略
(2)次のいずれかに掲げる場所又は乗物における人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置すること。
イ 住居、便所、浴場、更衣室その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所
ロ 公共の場所、公共の乗物、学校、事務所、タクシーその他不特定又は多数の者が利用し、又は出入りする場所又は乗物(イに該当するものを除く)
(3)前2号に掲げるもののほか、人に対し、公共の場所又は公共の乗物において、卑わいな言動をすること。

迷惑防止条例で禁止されている範囲については条文を確認していただく必要がありますが、概要は次のような点です。

  1. 公共の場所等において、衣服等で覆われている内側の人の身体又は下着を見たり撮影したりすることは禁止されており処罰される。
  2. 先ほどの軽犯罪法で保護されるような場所において撮影をした場合も本条例で処罰される。
  3. 公共の場所等でなくても不特定多数の者が利用する場所での盗撮行為も処罰される。
  4. 公共の場所等での「卑わいな言動」も処罰される。

ここで注目するべきは④の点です。最高裁は平成20年11月10日決定において、被告人が5分間の間、ショッピングセンターで40メートルの距離にわたって、ズボンを着用した被害女性を1から3メートルの距離でつけ回し、携帯電話で、同女性の臀部をカメラで11回にわたって撮影した事案について「卑わいな言動」にあたるとして迷惑防止条例違反を認めました。
したがって、撮影の態様によっては、衣服の中の下着等を撮影しない盗撮行為が犯罪となる可能性があります。

もっとも、公共の場所で、魅力的だと思った人の全身像を一回だけ撮影したような場合、プライバシー侵害や肖像権侵害などの民事上の責任の有無は別として、犯罪とはならないことも十分にありえます。盗撮ハンターに恐喝をされそうになっても、条例で禁止されている類型の行為でなければ自信をもって犯罪でないことを相手方に伝えることが重要です。

ところで、盗撮ハンターの共犯者である被害者役の女性がわざと盗撮されるようにしていた事案では、警察は被害者である女性が盗撮されることをわかっており、「人を著しく羞恥させる」行為ではないとして犯罪とはみなかったようです。しかしながら、迷惑防止条例は社会的法益を守る罪、簡単に説明すると盗撮がない状態の公共の空間を維持するために作られた罪ですので、被害者が仮に盗撮されることを分かっていたとしても、迷惑防止条例違反の罪が成立すると理解されています。

実際には盗撮の被害者が盗撮犯を恐喝するために盗撮を誘ったような事案で、警察が盗撮犯を逮捕し、検察が迷惑防止条例違反で起訴することは考えにくいと言えます。そこで、もし恐喝の材料を提供する目的で盗撮させていたことが分かったような場合には、警察も立件しないと主張することで相手方を諦めさせることも考えられます。

盗撮ハンターの行為はどのような罪にあたるのか

それでは、盗撮行為が犯罪として成立しているときに、盗撮ハンターから脅された場合にどのように対応すればよいのでしょうか。対応を検討するにあたっては、盗撮ハンターの行為が犯罪に当たるかどうかを検討する必要があります。もし犯罪にあたるようであれば、盗撮ハンターも警察沙汰になることを望んでいないので、その行為が犯罪であることを伝えて、諦めさせることが考えられるからです。結論から言えば、恐喝罪が成立する可能性があります。これより詳しく説明します。

第二百四十九条(恐喝)
人を恐喝して財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。

恐喝罪とは、①恐喝行為によって、②被害者が畏怖し、③財産を処分することで成立する犯罪です。恐喝行為とは、相手の犯行を抑圧しない程度の脅迫行為を意味します。この「脅迫」は、害悪を告知することをいいます。この害悪には、犯罪事実を捜査機関に申告することも含まれます(最高裁昭和29年4月6日判決)ので、「警察に通報されたくなければ示談をしろ」と明示的に発言するにせよ、暗に示すにしろ、それは恐喝行為となり、その恐喝行為が被害者(盗撮犯)を畏怖させるようなものであれば恐喝罪が成立することになります。

このように説明すると、本当の被害者が警察に通報しない代わりに損害賠償金を支払うよう要求する行為も恐喝行為になるのではないかと心配されるかもしれませんが、社会通念上一般に忍容すべきものと認められる範囲内で、警察に通報しないことを材料に交渉する行為であれば、違法ではなく恐喝罪にはならないと理解されています。

しかし、盗撮の被害者もグルになっているような盗撮ハンターの種類では、盗撮の被害者も盗撮されていると分かった上で、わざと盗撮をさせているのですから、このような盗撮行為は盗撮の被害者の権利や法的利益を侵害するような違法な行為とは言えません。したがって、盗撮ハンターとグルになっている「被害者」はそもそも損害賠償請求権を有していないのですから、そのような「被害者」が損害賠償を請求することはできませんので、他の恐喝の要件が揃っていれば本当の被害者とは異なり恐喝罪が成立することは明らかです。

恐喝行為を行った者が単なる目撃者の場合

目撃者が警察に通報されたくなければお金を払うように求める場合、目撃者には口止め料の支払いを求める正当な権限はないのですから、他の要件を満たしていればやはり恐喝罪が成立します。したがって、このように恐喝罪が成立することが明らかな場合は恐喝罪が成立することを伝えたうえで、そのような行為をやめさせることができる可能性があります。

盗撮ハンターの被害に遭ったら

このように仮に盗撮ハンターの被害にあった場合は、①盗撮に関連する犯罪行為を自身が行った否かを検討する。②相手の行為が恐喝に当たる場合はその旨を指摘するということが有効であると言えます。ただ、そうはいってもそれで相手が素直に諦めなかった場合はどうすればよいのでしょうか。

まず、理解するべきは警察に通報されても大事にはならないことが多いということです。盗撮は仮に多数の余罪があっても被害者が特定できない場合が多く、刑事事件になるのは被害者のわかる直近の一件だけです。そして初犯の場合、その問題になった事件で示談をすれば不起訴になるのが通常です。また、仮に示談ができなかったとしても、素直に事案を認めて反省していれば、略式手続で罰金となる場合が大半です。

長期間にわたる逮捕や勾留で身体拘束をされ会社に行けなくなると心配されるかもしれませんが、素直に犯行を認めれば逮捕されても、すぐに釈放され、任意の取り調べで手続きが行われる場合が大半です。なお、以前に盗撮で罰金刑を受けている場合は、正式な裁判となり懲役刑を言い渡される可能性もありますが、執行猶予がつく可能性が高いので、この点もあまり心配する必要はありません。

その上、盗撮ハンターと呼ばれる恐喝グループはお金を得ることが目的です。警察に通報しても何のメリットもありません。仮に被害者がグルになっている場合であっても、警察に通報すれば、グルとなっている被害者役の者が盗撮ハンターの仲間であることが発覚する危険性があるので、そこまではしないことも十分に考えられます。刑事手続きの流れを理解した上で毅然とした態度をとることが身を守ることにつながります。もちろん一人で対抗するのは難しいと思うので、その場で判断することなく連絡先を交換するなどして弁護士に相談の上、対応するのが望ましいといえます。

盗撮してしまった場合の示談の流れ

今回は、盗撮ハンターという恐喝グループに恐喝された場合の対応方法について説明しました。しかし、実際には善意の通行人や被害者に発見され通報される事案が大半だと思われます。盗撮等で刑事手続きとなった方からのご相談を受ける場合にもっと早くご相談に来ていただいていたらと感じることがありますので、その理由について今回の機会にご説明します。

警察に通報されて刑事手続きにのった場合、先ほど説明したように、盗撮の初犯で素直に認めている場合、在宅事件として取り調べられることが大半です。その場合、警察で数回取り調べを受け、その後検察庁で検察官から取り調べを受け、その後検察官が最終的な処分を決めます(不起訴処分、略式手続での罰金請求、正式な裁判請求)。このような最終的な処分が決まるまで2~3か月以上かかることも多いです。

刑事手続きで示談をする場合、この最終的な検察官の処分までに示談をすることが望ましいといえます。示談をすれば「被害者が許している」「被害弁償が完了している」といった理由で不起訴処分となる可能性があるからです。しかしこの検察官の処分の直前にご相談に来られた場合、示談が間に合わず不起訴処分とならないことがあるのです。

示談交渉は簡単なものではありません。まず、被害者と連絡を取る必要がありますが、盗撮の場合、被害者の連絡先を知らない場合が大半です。このような場合、警察や検察官にお願いをして被害者の連絡先を聞くことになります。ただ、被害者が被疑者とこれ以上関わりたくないと思い示談交渉に応じてくださらない場合も多々あります。

このような場合は、弁護人の手紙を警察官や検察官に託すなどして被疑者の反省状況や現状を伝え、示談をさせていただきたいとお願いすることから始める必要があります。そして仮に連絡を取ることができたとしても、被害者の方は自分が許すことで軽い処分となり再犯をするのではないかと思い示談を躊躇する人もいます。
このような被害者の方に許していただくには、罪を犯してしまった被疑者の努力が必要不可欠です。その努力とは、被害者の方の思いを理解する、自身が犯した罪についてなぜそのようなことをしたのかを理解し、再発を防止する方法を真摯に考え実行することです。盗撮や痴漢は常習性があることも多く、被疑者本人が止めたいと思っても止めることができない場合もあります。このような場合、適切な治療機関を受診するなどして自身の問題点に向き合うことも重要です。

示談交渉を行う弁護士は被疑者のこのような努力を被害者に伝えたうえで示談をお願いすることになりますので示談には時間が必要となることがあります。示談をご希望の場合は、なるべく早く弁護士にご相談いただければと思います。

まとめ

「盗撮ハンター」と呼ばれていますが、古典的な恐喝の手口といえます。幸い盗撮は初犯の場合、重い刑事処分となることはあまりありません。一方で、このような恐喝犯に安易にお金を支払ってしまうと、安易に金銭を払う者だと思われ、その後も何かと理由をつけて金銭を請求される可能性があります。そこで、初犯の場合は警察に通報すると言われればその通りにしてもらい、その場で示談をするように脅されても示談はせずに弁護士に依頼をして適切な形で示談をすることが重要です。

初犯ではない場合も、前刑が罰金であれば罰金額が高くなった上での再度の罰金や公判請求がされても執行猶予が付くことも十分に予想されます。したがって、このような場合であってもその場で示談をすることが避けるのが無難です。法を蔑ろにする者は法の保護を受けられない弱い存在となります。盗撮を繰り返すことに悩んでいる方は、性依存症の治療に取り組む医療機関を受診するなどして、現状を変えるべく行動するのがご自身やご自身の家族を守ることにつながります。

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