あおり運転で逮捕?|東名高速あおり事故を弁護士が解説|刑事事件に強い元検事弁護士が強力対応

あおり運転で逮捕?|東名高速あおり事故を弁護士が解説

刑事弁護コラム あおり運転で逮捕?|東名高速あおり事故を弁護士が解説

あおり運転で逮捕?|東名高速あおり事故を弁護士が解説

 2017年6月に,東名高速道路であおり運転を行い,被害者の乗っていた車両を追越車線上で停車させたところ,後続車両が追突してきたために被害者の夫婦が亡くなるという痛ましい事件が起きました。
 先日,この事件の裁判が行われ,2018年12月14日に横浜地裁で懲役18年の実刑判決が言い渡されました。本件で社会的にも大きな話題となった,「あおり運転」とは何か,また,「危険運転致死傷罪」とは何かについて詳しく説明します。

あおり運転とは?

 「あおり運転」という言葉は法律上の用語ではなく,明確な定義があるわけではありませんが,執拗に車間距離を詰めたり,幅寄せ(車両を運転中に並走する他の車両等に接近して走行すること)を行ったり,警音器(クラクション)を鳴らしたりして,周囲の車の通行を阻害する迷惑行為のことをいいます。
 車間距離を詰める行為は,道路交通法第26条の定める車間距離保持義務に違反し,幅寄せは同法第70条の安全運転義務に違反します。警音器の不正使用は同法第54条2項で禁止されています。
 さらにこれらの「あおり運転」に該当する危険な運転行為によって,人を負傷させたり,死亡させたりした場合,危険運転致死傷罪という犯罪になります。かつて危険運転致死傷罪は暴行罪の一類型として刑法に定められていましたが,平成26年の法改正で「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」(以下,「自動車運転死傷行為処罰法」といいます)が成立し,危険運転致死傷罪は刑法からこの法律に移されました。飲酒運転などによる危険運転も,この法律で禁止されています。
 さて,幅寄せや追い上げ(車間を詰めて追走する行為)などの妨害行為による危険運転によって人を死傷させる行為は,自動車運転死傷行為処罰法第2条4号に該当します。

自動車運転死傷行為処罰法第2条(危険運転致死傷)

 次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は十五年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処する
 四 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為

 4条2号の構成要件は,条文にあるように,①人又は車の通行を妨害する目的で,②走行中の自動車の直前に進入してその他通行中の人又は車に著しく接近し,③重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転することです。
 続いて,各要件について,詳しく解説します。

妨害行為となるための要件

①人又は車の通行を妨害する目的

 この要件は,危険を回避するために「仕方なく」人や車に接近する場合を処罰対象から外すことを目的とするものであり,実務上は,この要件の充足性は比較的容易に認められることが多いようです。

②走行中の自動車の直前に進入してその他通行中の人又は車に著しく接近すること

 自動車の速度や距離を考慮し,被害者が回避措置を取らざるを得ないような場合には,「著しく接近」したと判断されるようです。
 そうはいっても,車間距離が何メートルであれば「著しく接近」と言えるかはかなり微妙で,2メートルと3メートルでもかなり様子が違いますし,高速道路を走行中の場合,坂道を走行中の場合,などで状況は異なり,「著しく接近」と言えるかどうかについては事案ごとの個別判断となります。
 自動車の直前に進入する以外に,並走して幅寄せすることなども,この要件に該当します。

③重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転すること

 「重大な交通の危険を生じさせる速度」とは,一般に「他車と衝突すれば重大な事故を惹起させることになると一般的に認められる速度,あるいは,重大な事故を回避することが困難であると一般的に認められる速度」をいうと解釈されております。具体的には,「他車の走行状態や自車との位置関係等に照らして判断」されます(東京高判平成16年12月15日参照)。
 時速としては,約20キロメートルであれば,「重大な交通の危険を生じさせる速度」と解釈されています(最決平成18年3月14日,東京高判平成16年12月15日参照 )。なお,これらの判決は,時速20キロメートル以下の場合には絶対に「重大な交通の危険を生じさせる速度」とは言えない,と判示したものではなく,時速20キロメートルを下回っていても,この要件に該当する可能性は十分にあります。

東名のあおり運転の事件 ~重大な交通の危険を生じさせる速度~

 さて,東名高速道路で起きた事件の裁判で問題となったのは,上記要件③の「重大な交通の危険を生じさせる速度」の解釈でした。
 この事件では,被害者の車を停止させた後に,後続車が追突して事故が起こっているので,事故当時は被害者の車は時速0キロメートルで止まっていたとして「重大な交通の危険を生じさせる速度」とはいえないとして,弁護側は無罪を主張しました。
 結論としては,裁判所は,本件においても「重大な交通の危険を生じさせる速度」が出ていたと認定し,危険運転致死罪の成立を肯定しました。事故の瞬間にその速度が出ている必要はなく,事故の瞬間に停車している場合であっても,要件②「接近」の時点で「重大な交通の危険を生じさせる速度」が出ていれば,危険運転致死罪の成立が認められるという理屈のようです。

 ここで,東名の事件からは一旦離れますが,「殊更赤色信号無視」(自動車運転死傷行為処罰法第2条5号)の事案を紹介します。殊更赤色信号無視においても,「重大な交通の危険を生じさせる速度」が条文上要求されています。

自動車運転死傷行為処罰法第2条(危険運転致死傷)

 五 赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為

 A車が赤信号を無視して交差点に進入した後に,右方からの進行車両(B車)に気付いて急ブレーキをかけて停車したところ,B車がA車に横から追突し,B車の運転手が死亡した場合,確かに事故の瞬間はA車は停車していますが,赤信号を無視して交差点に進入した時点で「重大な交通の危険を生じさせる速度」が出ていれば,本罪の構成要件に該当すると認められることになります。

東名のあおり運転の事件 ~因果関係~

 東名の事件においては,加えて,被告人による危険運転行為そのものによって被害者は亡くなったわけではなく(被告人の自動車と被害者の自動車は接触すらしていません),あくまでも後続車による追突事故によって亡くなりました。後続車の運転手に前方不注視による過失運転致死罪(自動車運転死傷行為処罰法第5条)が成立する可能性はありますが,死亡の直接の原因となっていない危険運転行為について,危険運転致死罪を適用することができるでしょうか。そこで,「因果関係」について考える必要があります。
 「あれ(行為)なければこれ(結果)なし」という条件関係に加えて,社会生活上の経験に照らし(=常識的にみて)結果発生が相当な場合に因果関係を認めるという,「相当因果関係説」が刑法学の(従来の)通説です。この他,行為の危険性が結果へと現実化した場合に因果関係を認めるという,「危険の現実化説」もあります。
 東名の事件では,相当因果関係説によれば,危険運転行為がなければ事故は発生しなかったといえるため条件関係が認められ,さらに,高速道路で停車を余儀なくされれば,制限時速100キロで後続車が追突してくれば死亡事故という結果が発生することは相当といえるため,因果関係が認められます。
 一方,危険の現実化説に立っても,危険運転行為の危険性が死亡事故という結果へと現実化していることから,因果関係が認められます。近時の最高裁判例は危険の現実化説によっていると思われるものも増えてきています。
 いずれにせよ,因果関係が認められ,被告人の危険運転行為について,危険運転致死罪を適用することができるといえます。

東名のあおり運転の事件 ~判決は妥当か~

 上記のような理由で,裁判所は被告人に懲役18年の有罪判決を言い渡しましたが,この判断は妥当だったのでしょうか。
 単刀直入に言えば,要件③の「重大な交通の危険を生じさせる速度」をめぐる解釈は,かなり苦しいものと言わざるを得ません。刑法の条文は,罪刑法定主義(犯罪と刑罰はあらかじめ法律に定められていなければならないという考え方)の観点から,適用範囲を限りなく広げるようなことは避けなければなりません。このようなことを類推解釈の禁止といいます。「重大な交通の危険を生じさせる速度」が出ている時点を事故の瞬間と離して解釈すればするほど適用範囲が広がっていることとなり,刑法の条文の読み方としては妥当とは言い難い側面もあります。
 しかしながら,弁護側が主張するように被告人を無罪とすることに違和感を覚える人も多いはずです。そこで,危険運転致死罪以外の適用の可能性を探ってみることにしましょう。

その他成立し得る犯罪

 実はあまり大きくは報道されていませんが,検察は,監禁致死罪(刑法221条)を危険運転致死罪(及び暴行罪)の予備的訴因としていました。ある訴因(検察官が主張する具体的犯罪事実)で無罪となった場合に備えて副次的に別の訴因での有罪判決を求めることを,訴因を予備的に記載するといいます(刑事訴訟法第256条5項)。
 さて,今回,予備的訴因として起訴状に記載された監禁致死罪とは,人を不法に逮捕・監禁し,それにより人を死傷させる犯罪です。

刑法第220条(逮捕及び監禁)

 不法に人を逮捕し,又は監禁した者は,三月以上七年以下の懲役に処する。

刑法第221条(逮捕等致死傷)

 前条の罪を犯し,よって人を死傷させた者は,傷害の罪と比較して,重い刑により処断する。

 検察は,道路上で被害者の自動車を停止させて被害者が被告人から逃げられないようにしたことを,監禁(人の身体を間接的に拘束して自由を奪うこと)だと主張したようです。
 最後に,量刑について見てみましょう 。以下,実際は罰金刑などもありますが,分かりやすくするため懲役刑についてのみ説明します。

 危険運転致死罪の法定刑は「1年以上の有期懲役」(自動車運転死傷行為処罰法第2条柱書)です。刑法第12条1項より,有期懲役の上限は20年なので,1年以上20年以下ということになります。また,暴行罪(刑法第208条),(被害者の自動車に対する)器物損壊罪(刑法第261条),(被告人への謝罪の)強要未遂罪(刑法第223条3項)でも起訴しており,法定刑はそれぞれ2年以下,3年以下,3年以下の懲役ですから,4つの罪を合計すると(刑法第47条参照),懲役刑の上限は28年 となります。
 一方,危険運転致死罪や暴行罪が認められなかった場合の監禁致死罪の法定刑は,条文に「傷害の罪と比較して,重い刑により処断する」とあるので,傷害致死罪(刑法第205条)の法定刑である3年以上の懲役(上限は刑法第12条1項より20年)となります。そして,器物損壊罪,強要未遂罪と合わせると上限は26年となります。
 本件では,このような上限の中,検察官は懲役23年を求刑し,実際に下された判決は18年の懲役刑(実刑)でした。

まとめ

 以上,大きな話題となった東名高速道路でのあおり運転の事件をもとに,危険運転致死罪について解説しましたが,いかがでしたでしょうか。
 余談ですが,東名高速道路での本件の後,ドライブレコーダーの売り上げが増加しているようです。このような悪質な事件・事故の当事者となった場合,ドライブレコーダーに記録された映像は,裁判においても非常に重大な証拠となり得ますので,設置をおすすめします。
 危険運転致死罪は,法改正によって法定刑が引き上げられたり,今回の裁判のように要件の緩やかな解釈によって重罰化が図られたりするなど,今後,厳罰化傾向が進み,さらなる法制度の改革が行われる可能性もあるので,今後も注視する必要があります。

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