成人年齢の引き下げ|刑事法への影響を弁護士が解説|刑事事件の中村国際刑事法律事務所

成人年齢の引き下げ|刑事法への影響を弁護士が解説

刑事弁護コラム 成人年齢の引き下げ|刑事法への影響を弁護士が解説

成人年齢の引き下げ|刑事法への影響を弁護士が解説

 いよいよ令和4年4月1日から,成人年齢が20歳から18歳に引き下げられます。街中でもこのことを告知するポスターをよく見かけるようになりました。
 成人年齢の引き下げに先立ち,選挙権者の年齢についてはすでに平成28年6月から満20歳以上から満18歳以上に引き下げられており,このことは当時メディア等でも大きく取り上げられ周知されていましたので,特に改めて説明することは不要でしょう。
 ここでは,今回の成人年齢自体の引き下げにより,刑事法の分野でどのような影響があるかを見ていきます。

 本コラムは弁護士・中村勉が執筆いたしました。

刑事法における年齢による扱いの違い

 従来,刑事法においては14歳と20歳という年齢が大きな指標となっています。
 まず,14歳というのは,罪を犯した場合に,罰せられることとなる年齢です。学問的には刑事責任能力があるという意味で「責任年齢」と呼ばれています。

刑法第41条(責任年齢)

 十四歳に満たない者の行為は、罰しない。

 この規定により,14歳未満,すなわち13歳以下の者は罪を犯したとしても刑事罰は受けず,その代わりに,刑罰法令に触れる行為をした「触法少年」として,児童相談所へ送致されたり,家庭裁判所へ送致されて保護処分を受けたりします。

 次に,現状,20歳という年齢は少年法の適用があるかどうかの基準となっています。少年法は,少年の可塑性に鑑み,非行のある少年の更生のためにどのような処分が必要かといった観点から,少年の刑事事件について特別の措置を講じることを目的とする法律です(少年法第1条)。
 殺人事件などの重い事件となると,少年であっても懲役刑を科され,刑務所に収容されることがありますが,そのような場合であっても,手続上,家庭裁判所を経由するなど,少年法の適用により,刑事事件を起こした少年に対する処分については慎重に検討される仕組みになっています。
 今回の成人年齢引き下げによって問題となり得るのは後者,すなわち少年法の適用年齢です。

少年法への影響

 まず,少年法は従来,その適用年齢につき,以下のような定め方をしています。

少年法第2条1項

 この法律で「少年」とは、二十歳に満たない者をいい、「成人」とは、満二十歳以上の者をいう。

 つまり,少年法の中で何歳未満の者を「少年」とするか,何歳以上を「成人」とするかというのを定義づけているのです。
 今回の成人年齢の引き下げは民法の改正によるものです。少年法上,特に「成年でない者を『少年』とする」などとは定められていませんので,今回の成人年齢の引き下げにより当然に少年法の適用対象年齢が変わることにはなりません。
 もっとも,民法上,成人年齢が18歳に引き下げることに伴い,少年法についても,その適用対象年齢を引き下げるべきではないかという議論がされることとなりました。
 その結果,令和3年5月,「少年法等の一部を改正する法律」が成立し,この法律は,成人年齢の引き下げについて定める「民法の一部を改正する法律」とともに,令和4年4月1日から施行されることとなりました。

少年法の主な改正点

 一番関心が高いのが,少年法の適用対象年齢が変わったかという点かと思いますが,少年法の適用対象については従来通り20歳未満の者のままとなりました。
 すなわち,今回の民法改正による成人年齢の18歳への引き下げにかかわらず,少年法上は,20歳未満の者は,18歳・19歳の者も含め「少年」のままとなります。

「特定少年」という概念の創設

 もっとも,「少年」のうち,18歳と19歳の者については別途「特定少年」と定義づけられ,17歳以下の者とは区別して扱われることとなりました。

「特定少年」に対する異なる扱い

 特定少年については,主に以下の点で,17歳以下の者とは異なる扱いがされることとなります。

  • 逆走される対象事件の制限の撤廃
  • 原則逆送される対象事件の拡大
  • 虞犯少年の規定の適用除外
  • 実名・推知報道の解禁
  • 保護処分に付す基準の変更
  • 不定期刑の適用除外 等

 これらはいずれも成人の場合の扱いに近づける方向で規定されています。
 詳しくは,以下のコラムをご覧ください。

その他の法律への影響の有無

1. 飲酒について

 お酒は従来,満20歳に至らない者は飲んではいけないこととなっています(未成年者飲酒禁止法第1条1項)。
 これは,成長過程にある者の身体にとって,アルコールは大きな悪影響があると考えられているからです。
 民法上の成人年齢を18歳としても,身体的な観点において,20歳未満のものによる飲酒が本人にとって悪影響を及ぼすことには変わりはないことから,成人年齢の引き下げにかかわらず,引き続き20歳未満の者の飲酒は禁止されます。
 もっとも,20歳未満の者の飲酒を禁止する法律名については「未成年者飲酒禁止法」のままでは紛らわしいため,成人年齢の引き下げが行われる令和4年4月1日以降は,「二十歳未満ノ者ノ飲酒ノ禁止ニ関スル法律」に改名されます。

 なお,もともと,20歳未満の者が飲酒をしたとしても,飲酒をした本人は罰する規定はありません。
 その親や親の代理をする者は,20歳未満の者の飲酒を知ったときにはこれを制止しなければならないとされており,違反した場合には科料に処せられます(未成年者飲酒禁止法第3条2項,第1条2項)。
 また,酒類を扱う販売業者や飲食業者は,20歳未満の者が飲むことを知りながら酒類を販売・提供してはならないとされ,これに違反した場合には50万円以下の罰金に処せられることとなっています(未成年者飲酒禁止法第3条1項,第1条3項)。
 したがって,令和4年4月1日以降の成人年齢の引き下げにあたっては,特に親や親の代理をする者,酒類を扱う販売業者や飲食業者において,18歳以上であっても20歳未満である以上はなお飲酒が禁止されていることに注意しなければなりません。

2. 喫煙について

 煙草もお酒と同じく,従来,満20歳に至らない者は,喫煙することはできないとされています(未成年者喫煙禁止法第1条)。
 喫煙についても,特に成長過程にある者の身体にとっては悪影響があると考えられているからです。そのため,成人年齢を18歳に引き下げる民法改正後も,引き続き満20歳未満の者による喫煙は禁止されます。
 成人年齢の引き下げが行われる令和4年4月1日以降は,未成年者喫煙禁止法もその名称は「二十歳未満ノ者ノ喫煙ノ禁止ニ関スル法律」に改められます。

 喫煙についても飲酒の場合と同じく,喫煙をした20歳未満の者本人を罰する規定はありません。
 そして,その親や親の代理をする者は,20歳未満の者の喫煙を知ったときにはこれを制止しなければならないとされており,違反した場合には科料に処せられます(未成年者喫煙禁止法第3条)。また,煙草やその器具を扱う販売業者は,20歳未満の者が喫煙することを知りながら煙草や器具を販売してはいけないとされ,これに違反した場合には50万円以下の罰金に処せられます(未成年者喫煙禁止法第5条)。
 したがって,20歳未満の者はもちろんのこと,その周りも,成人年齢が18歳に引き下げられる令和4年4月1日以降も20歳未満はなお喫煙が禁止されることに注意しなければなりません。

3. 公営競技(ギャンブル)について

 競輪,競馬,オートレース,ボートレースなどの公営競技(ギャンブル)についても,成人年齢の18歳への引き下げにかかわらず,従来通り,20歳未満の者は車券・投票券・舟券を購入したり譲り受けたりしてはいけないというルール(自転車競技法第9条,競馬法第28条,小型自動車競走法第13条,モーターボート競走法第12条)が据え置きになります。
 そして,これらの法においても,引き続き20歳未満の者に対して車券・投票券・舟券等を販売したり,譲り渡したりした者は50万円以下の罰金に処せられることになりますので(自転車競技法第59条,競馬法第34条,小型自動車競走法第64条,モーターボート競走法第69条),周りの大人は令和4年4月1日以降も20歳未満はなおギャンブルに参加する資格がないことに注意が必要です。

まとめ

 以上見てきたとおり,成人年齢の引き下げが直接,刑事法に影響を及ぼすわけではありません。むしろ,いわゆるパターナリスティックな観点に基づいて定められている飲酒,喫煙,公営競技等における年齢制限は据え置きとなる傾向にあります。
 もっとも,少年法については,民法改正に合わせて行われる法改正により18歳及び19歳の者の扱いが大きく変わってきます。通常の少年事件はもちろんのこと,特に18歳,19歳による刑事事件についてはお早めに少年事件の経験が豊富な弁護士にご相談ください。

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