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アポ電強盗の手口と量刑について元検事弁護士中村勉が解説

アポ電強盗の手口と量刑を解説

最近、よく耳にする「アポ電強盗」とはどういったものなのでしょうか。
なぜ今そのような犯行が横行しているのか、また、このような犯行はどのように罰せられるのかを刑事事件に強い元検事の弁護士・中村勉が解説します。

アポ電強盗とは

昨今、広域に跨った複数の犯行グループによる連続強盗事件が多発しています。
ニセ電話により、予め被害者宅に金品があるかどうかなどを確かめた上でそこに押し入ることから、このニセ電話を「アポイントメント電話」略して「アポ電」あるいは「犯行予兆電話」などと呼んでいますが、こうしたアポ電によってお金のある住宅の目星をつけて襲撃するという手口の強盗が「アポ電強盗」です。

アポ電強盗の特色

従来のいわゆる伝統的な窃盗や強盗と異なり、犯人が住宅街を徘徊物色し、強盗に入れそうな住居構造で、できれば留守宅などを狙うといった態様ではなく、当初からピンポイントでこの家に強盗に入ると決めて実行に移している点です。近隣で連続発生する強盗事件ではなく、広域にバラバラに発生しているのも、予め襲撃ターゲットリストが犯人グループの手中にあることを示しています。

この襲撃リスト情報に基づき、特定の住宅に強盗に入ると決めれば、お金があるとわかっているのでそこに家人か居ようが居まいが関係なく実行に着手し、家人がいれば縛り上げて拘束し、暴行を加えてでもお金のありかを聞き出す凶悪な強盗態様なのです。

予め入手した情報の中に具体的に現金の在処(例えば2階和室箪笥引き出し等)が含まれていれば家人がいないときに押し入ることもありますが、住宅内のどこに現金があるかの情報がない場合には、それを聞き出すために敢えて家人の在宅中に強盗に押し入ることもあるのです。犯行は極めて悪質で計画的です。

家人を縛り上げるロープ、粘着テープのほか、ハンマー、ナイフなどの凶器を含めて予め用意し、入念な下準備をし、現場も見張って家人の出入り、家族構成などを確認し、運転手役、実行役、見届け役(グループリーダーであり暴力団員であることが多い。)など組織的に犯行に及ぶものです。しかも、グループの構成員はSNSで人員募集、いわゆる「闇バイト」で募集した者たちで、お互いに素性を知らず、実行を思いとどまるような相談を交わす人的、心情的な関係がなく、中には離脱しようとするものを脅して組織内に強制的に留めるなど(バイト名目による募集なので最初に身上関係が記載された履歴書が犯行グループに確保されてしまっている。)、冷酷な組織運用をしています。実行役の一部が逮捕されても共犯者の素性を知らないので組織壊滅が困難なのです。

それではそのような襲撃リストはどのように作られるのでしょうか。それは振り込め詐欺など特殊詐欺の手法と同じなのです。
こうして襲撃リストが作られるのです。あるいは、既に存在する振り込め詐欺グループのリストを流用しているケースもあると思われます。
これまでは、親族のほか警察、銀行、金融庁その他の公的機関等を装い、被害者に電話をかけ、あらかじめ金品が自宅にあるかどうかなど金品をだまし取るのに必要な被害者の情報を引き出して特殊詐欺に及んでいたわけですが、下記のとおりの昨今の社会情勢により特殊詐欺が成功しにくくなると、上記のようなノウハウとそれにより得た情報を利用して強盗に及ぶ事案が多発しています。

アポ電強盗増加の社会的原因

昨今このようなアポ電強盗が多発していますが、その原因としては以下のような社会情勢の変化が考えられます。
特殊詐欺の多発が社会問題化して久しく、その摘発が強化され、重罰化の傾向にあります。
そして、行政機関、マスコミ等により、特殊詐欺に対する注意が広く呼びかけられ、手口も具体的・詳細に紹介されるなど、手口やその被害の実態が世の中に広く知れ渡りつつあり、警戒感が高まっています。特殊詐欺被害防止のため、行政機関から特殊詐欺を防止するための電話録音機器が高齢者に貸し出されるなど行政による予防の方策や、金融機関と警察の連携による被害防止手段も機能しています。

それでも、特殊詐欺は、電話をかける拠点を海外に移したり、手を変え品を変え新たな欺罔文言を用いたりするなどして敢行され続けているものの、それが失敗に終わることも多くなり、特殊詐欺グループにおいてこれまでのように簡単には収入が得られなくなっていることは確かだと思われます。また、摘発強化により、とかく検挙の対象となり易い、現場で金品等を受け取る役割の「受け子」が検挙され、なり手も少なくなっていることが考えられます。

そこで、特殊詐欺グループとしては、そのノウハウを駆使して得た被害者の情報等を利用して、他の強盗実行犯グループと連携し、あるいはそうしたグループに被害者の情報を売って不正な収入を得るといった方向にシフトしているのではないかと推測できますし、特殊詐欺グループそのものが、詐欺には失敗しても、その際に得た被害者の情報を利用してアポ電強盗に移行するということも考えられます。

いずれにしても、特殊詐欺グループは、学生等を犯行の矢面に立つ「受け子」として勧誘し、更にその知り合いを通じて犯行に引き込むといった従前の方法によっては、「受け子」のなり手を十分に確保できなくなり、SNS等の手段で公然と勧誘するようになっていますが、そうすると、そのSNS等を見た不特定多数の者のうち経済的に切羽詰まった様々な人間が勧誘に応じるようになり、金が手に入りさえすれば手段を選ばない、つまり暴力的手段も辞さない人間も増え、いきおい暴力化し、「受け子」が強盗実行犯に置き換わっているのではないかと推測できます。

アポ電強盗の手口=巧妙で凶悪

上記のとおり、アポ電強盗は、特殊詐欺のノウハウにより被害者からその金品等に関する情報を引き出した上、場合によっては下見をするなどして生活実態等を調べ、被害者が一人で家にいる時間を狙って犯行に及ぶなど巧妙であり、その態様も、手っ取り早く金員を得るため、上記のとおり凶悪化し、被害者の死をも厭わないように感じられます。

アポ電強盗犯人グループが被害者の情報を得る方法

報道によると(2019年4月23日NHK放映、クローズアップ現代)、同窓会・卒業生名簿をはじめ、高級マンションの居住者リストなど出回るはずのない個人情報が記載された名簿が売買されており、特殊詐欺グループは、そうした名簿を入手して被害者に電話をかけ、詐欺に必要な個人情報を得るわけですが、それにより特殊詐欺グループが得た個人情報さえも売買されるとのことです。

特殊詐欺グループは、詐欺そのものに失敗したとしても、そのノウハウにより得た個人情報を利用し、他のグループと連携してアポ電強盗に及んだり、その情報を他の強盗グループに売ってアポ電強盗を誘発させたりしていると思われます。最近言われる「ターゲットリスト」とは、そうした被害者候補者の情報を集約したものなのでしょう。

アポ電強盗の適用罪名・法定刑・量刑

まず、強盗目的で住居に侵入すれば住居侵入罪が成立します。
その上で、被害者を縛り、ガムテープで口を塞ぎ、殴るなどすれば、被害者の反抗を抑圧するに足りる暴行を加えたとして、強盗罪(財物を奪取すれば既遂、奪取せずに終われば未遂)が成立し、5年以上の有期懲役に処せられます(刑法第236条。なお、未遂の場合は同法第43条により減軽可能)。

そして、その強盗の機会に被害者に傷害を負わせれば強盗致傷罪又は強盗傷人罪が成立し、無期又は6年以上の懲役に処せられ、同じく被害者を死亡させれば強盗致死罪又は強盗殺人罪が成立し、死刑又は無期懲役に処せられます(同法第240条)。強盗の既遂・未遂にかかわりません。

上記のようなアポ電強盗の計画性、態様の悪質性、結果の重大性から執行猶予が付く犯罪類型ではなく、強盗だけに終わったとしても、懲役7年、8年、傷害を負わせると10年以上、強盗殺人は、死刑または無期となります。

報道によれば(文春オンライン2021年4月7日)、たとえば、2019年2月、被告人3名で共謀し、東京都江東区のマンションに宅配業者を装って侵入し、在宅していた80歳の女性の手足を縛り、口を粘着テープで塞いだ上、金品を強奪しようとして同女性を死に至らしめたなどとして強盗致死等により起訴された件につき、東京地裁は、「致死」は認定できず、2021年3月9日、主犯に懲役28年、それ以外の2人に懲役27年の判決を言い渡しました。

また、別の報道によれば(茨城新聞クロスアイ2023年1月18日など)、2019年11月、5名と共謀し、茨城県土浦市の住宅に押し入り、在宅していた75歳の妻を縛った上バールで殴って怪我をさせ、帰宅した76歳の夫をも殴って現金約20万円、キャッシュカード等を奪う犯行を指示したなどとして強盗傷害等の罪に問われた被告人につき、水戸地裁は、懲役12年を言い渡しました。

前記各報道によると、第1の事件では、強盗の犯行の10日ほど前に、犯行グループとは別の詐欺グループから、家族を装って家に金があるかどうかを確認する電話があったとされ、また、第2の事件では、犯行の5日前に、キャッシュカードの暗証番号を聞き出そうとする電話があったとされています。

まとめ

上記のとおり、アポ電強盗は、極めて巧妙かつ凶悪な犯罪であり、被害者の命さえ奪うことにもなりかねず、手を染めたことが事実なら、いかに弁護活動が成功しても実刑となる可能性が高く、そうなれば長期間刑務所で過ごさねばなりませんし、被害者が亡くなれば法定刑としては死刑又は無期懲役しかありません。

決して手を染めてはいけない犯罪であることは言うまでもなく、関与すればその内容に応じた重い刑事責任を負わねばなりません。
犯罪予防に関する刑事法制としても、これまで以上に市内パトロール及び不審者、不審車両に対する職務質問の実施や強盗予備罪の積極的な運用が必要になってくると思われます。実行に移されては遅いのです。

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