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交通事故の刑事的責任を弁護士が解説

交通事故は、誰もが被害者となり得るだけでなく、ちょっとした不注意等により、ごく普通の社会人が被疑者・被告人、多額の損害賠償の債務者となり得るものでもあり、その意味で、起こしても起こされても地獄と言われます。

交通事故を起こしたら、刑務所に入るのか、相手方への損害賠償はどうしたらいいのか、運転免許証はどうなるのかなど、交通事故の法的責任について弁護士・中村勉が解説します。

交通事故の刑事的責任を弁護士が解説

令和3年中の交通事故発生件数は30万5425件(前年比3,753件、-1.2%)、交通事故による死者数は2,636人(前年比-203人、-7.2%、5年連続最少を更新)、負傷者数は36万1,768人(前年比-7,708人、-2.1%)といずれも減少しました(警察庁交通局交通企画課令和4年1月26日「令和3年中の交通事故死者数について」訂正版)。

この減少は、10数年来の傾向であり、原因としては、交通事故防止に対する継続的な取り組みのほか、ここ2年では新型コロナウイルス感染拡大による外出の減少等が原因と言われています。

それでも、65歳以上の高齢者の死者数は1,520人、その占める割合は57.7%であり、減少の兆しは見えません(上記訂正版のうち「高齢者(65歳以上)死者数の推移」)し、上記のように新型コロナウイルス感染拡大による外出の減少が交通事故発生件数等減少の原因の一つだとすれば、その感染拡大が沈静化すれば、交通事故発生件数等が増加に転じないとも限らず、将来にわたる楽観は許されないと考えます。

交通事故を起こした場合の責任

交通事故を起こした場合に私たちが取るべき責任は、(1)刑事責任、(2)民事責任、そして、(3)行政上の責任があります。

(1) 刑事責任とは

刑事責任とは、交通事故を起こした者に刑罰を科するということです。
過失があるのか、その態様や程度はどうか、相手方の落ち度(過失)はあるか、事故の結果はどれほど重大か、被害弁償等の情状はどうかなどが総合的に考慮され、起訴されるか否か、罰金で済むのか、禁錮・懲役の判決だとしても執行猶予が付くのか・刑務所行きかなどが決まっていく、これが刑事責任の話です。

不注意により惹起される典型的な人身交通事故は、過失運転致死傷罪(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律《以下、「自動車運転死傷処罰法」といいます。》第5条)に該当し、7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処せられます(ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができるとされています)。

同法には、危険運転致死傷罪(同法第2条)も規定されており、アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為その他上記条文に列挙されている危険な運転行為により人を負傷させた者は15年以下の懲役、人を死亡させた者は1年以上(20年以下)の有期懲役に処せられます(なお、同法第3条参照)。
これら自動車運転死傷処罰法については、後ほど説明します。

(2) 民事責任とは

次に、民事責任とは、交通事故により人が死傷し、あるいは人の物が壊れるなどした場合、事故を起こした者にその損害を賠償させるということです。

自動車損害賠償保障法第5条は、交通事故被害者の保護等のため、全ての自動車に、自動車損害賠償責任保険・自動車損害賠償責任共済(いわゆる自賠責保険。強制保険ともいいます。)の契約締結を義務づけており、この保険に加入せずにその自動車を運行の用に供すると、(事故を起こすと否とにかかわらず)1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられます(同法86条3)。

被害者は、この自賠責保険により、人身の損害に対し、一定の補償が得られます。ただ、その補償額には上限がある上、保障金額は十分でないことが多く、また、物損に対する補償は規定されていないので、その足りない分で法的に支払い義務があるものについては、交通事故を起こした者が賠償する義務が生じます。それをカバーするのがいわゆる任意保険です。締結を強制されている自賠責保険に対し、任意保険は、個人が加入するか否かを任意に決められるので、その名があります。
ただし、交通事故の賠償金額は高額になることが多く、ひとたび事故を起こすとその完全な賠償に問題が生じかねないので、任意保険への加入は、事実上、自動車を運転する者にとっての義務と言ってよいと考えます。

交通事故の民事責任(損害賠償責任)は、通常、これら自賠責保険及び任意保険に基づき、保険会社が交通事故を起こした者の代わりに支払う保険金で賄われ、交通事故を起こした者には、法的には保険料以外の負担が生じないはずですが、見舞金その他の金員を支払う事実上の必要が生じる場合もありますし、これらの保険に加入していなければ被害者の損害を自ら、法的に認められる限り全額賠償せねばなりません。

(3) 行政上の責任とは

最後に行政上の責任です。ご存じのとおり、交通違反をすると、違反行為の種別により定められた反則金支払いの義務が生じ、違反点数が引かれます。
また、交通事故を起こすと、その際の違反行為に一定の点数が付加されて引かれます。そして、その過去3年間の累積点数等に応じて一定期間の免許停止・免許取消の処分が行われます。

行政上の責任とは、この反則金や免許取消・停止の処分が課されるということです。

交通事故における刑事事件に関する基礎知識

交通事故を起こした場合に問題となる刑罰を規定する代表的な法律は、前記した自動車運転死傷処罰法です。
以下に同法に規定されている刑罰を抜き出して整理しておきます。

罪名 行為態様その他条文の説明 法定刑
危険運転致死傷
(自動車運転死傷処罰法第2条)
①アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為
②その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為
③その進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為
④人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
⑤車の通行を妨害する目的で、走行中の車(重大な交通の危険が生じることとなる速度で走行中のものに限る)の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転する行為
⑥高速自動車国道又は自動車専用道路において、自動車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転することにより、走行中の自動車に停止又は徐行(自動車が直ちに停止することができるような速度で進行することをいう)をさせる行為
⑦赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
⑧通行禁止道路(道路標識等により車両の通行が禁止されている道路又はその部分)を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
人を負傷させた場合、(1か月以上)15年以下の懲役
人を死亡させた場合、1年以上(20年以下)の懲役
危険運転致死傷
(同法第3条)
①アルコール又は薬物の影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、そのアルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を負傷させる行為
②自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気として政令で定めるもの(いずれも一定の統合失調症、てんかん、再発性の失神、低血糖症、そう鬱病、睡眠障害)の影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、その病気の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を死傷させる行為
人を負傷させた場合、(1か月以上)12年以下の懲役
人を死亡させた場合、(1か月以上)15年以下の懲役
(第2条と第3条の違い) 第2条が成立するには、「正常な運転が困難な状態で」あることを認識しつつ運転し、人を死傷させることが必要ですが、第3条ではそこまでの認識は必要なく、「走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で」あることを認識しつつ運転し、正常な運転が困難な状態に陥り、人を死傷させれば足ります。
過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱
(同法第4条)
アルコール又は薬物の影響によりその走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転した者が、運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた場合において、その運転の時のアルコール又は薬物の影響の有無又は程度が発覚することを免れる目的で、その影響の有無又は程度が発覚することを免れるべき行為 (1か月以上)12年以下の懲役
過失運転致死傷
(同法第5条)
自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させる行為 (1か月以上)7年以下の懲役若しくは禁錮又は(1万円以上)100万円以下の罰金。
ただし、その傷害が軽いときは、情状により刑の免除も可能。
無免許運転による加重
(同法第6条)
第2条(第3号を除き、人を負傷させた場合) 6か月以上(20年以下)の懲役
第3条(人を負傷させた場合) (1か月以上)15年以下の懲役、
第3条(人を死亡させた場合) 6か月以上(20年以下)の懲役
第4条(1か月以上)15年以下の懲役
第5条(1か月以上)10年以下の懲役
1月以上7年以下の懲役・禁錮
もしくは100万円以下の罰金
※情状により刑の免除も可能。

運転行為等についてのその他の刑罰法規

交通事故そのものではありませんが、道路交通法には、不救護(いわゆるひき逃げ。同法第117条、第72条1項)、事故不申告(同法第119条1項10号、第72条1項後段)、酒酔い運転(同法117条の2、第65条1項)、酒気帯び運転(同法117条の2、第65条2項)、無免許運転(同法第117条の2の2第1号)等に対する刑罰が定められています。ちなみに、上に列挙した各罪は故意犯です。

やや珍しい規定として、過失運転建造物損壊(同法116条)という規定もあります(この罪は、その名のとおり過失犯です)。刑法上の建造物損壊も器物損壊も、故意がなければ処罰されない(刑法第260条、第261条。過失犯処罰規定なし。)のに、過失運転建造物損壊は、車両等の運転者が業務上必要な注意を怠り、又は重大な過失により他人の建造物を損壊した場合、6か月以下の禁錮又は10万円以下の罰金に処すとしています。

自動車の運転上必要な注意とは

当該自動車を運転するに当たり、当該具体的状況において、当該事故を予見し、かつ、事故の結果を回避する義務(予見義務及び結果回避義務)のことです。これを怠った結果、交通事故を起こし、人を死傷させたことが、自動車運転死傷処罰法に規定された各罪の成立要件の一つです。

注意義務は、道路交通法その他の法令だけでなく、契約、慣習、条理等様々な根拠から生じるので、道路交通法その他の交通取締法規から生じることもあれば、他の根拠から生じることもあり、交通取締法規に従っていたからといって当然に注意義務を果たしたとは言えません。

交通事故を起こすと逮捕されるか

飲酒運転、無免許運転、高速度運転、ひき逃げ等はともかく、交通事故そのものは、不注意に基づくいわゆる過失犯であり、わざと悪いことをする故意犯に比べて罪質は軽いとは言えます。したがって、交通事故を起こしても逮捕されず、在宅のまま捜査・公判が進むことは少なくありません。

しかしながら、当該事案における結果の重大性(死亡・重傷事故か否かなど)、被害者の数事故態様・不注意の内容被害者その他の関係者の落ち度(過失)の有無のほか、事故に至る事情として上記の危険運転に代表される悪質・危険性があるか(飲酒運転、無免許運転、高速運転、あおり行為等自体は故意犯です)、ひき逃げその他罪証隠滅・逃走行為があるかその者の供述状況等により、逮捕され、場合によっては勾留されることも十分あり得ます。

交通事故の処分・量刑

事案の結果の重大性その他上記の判断基準のほか、被疑者・被疑者の供述態度(否認か自白か)、示談成立の有無・その可能性被告人の前科・前歴以後運転に携わる意思があるかなどの一般情状が総合的に考慮され、検察官の起訴・不起訴の処分、裁判所の判決が決まります。

交通事故を起こした場合の弁護活動

まずは、事故を起こした方のお話、現場の状況等から、事故に関する事実関係・事故に至る事情等をできる限り確定します。
そして、相手方のお怪我の状況等を確認するのはもとより、事故現場に赴いてその状況をこの目で確認し、事故を起こした方に過失があるのか否か相手方の落ち度はあるかなどを調査します。それが基本です。

事故を起こした方が加入している任意保険があれば、その保険会社と密に連絡を取り、通常は保険会社が行う被害者の方との示談を側面からサポートし、保険では不十分、あるいは保険会社の対応が遅い(それが仕方のない事情による場合もありますが)場合などには、刑事裁判が先に進んでしまうおそれもありますので、当面の見舞金を支払うなどの被害者対策を検討します。

任意保険に加入していなかった場合(それ自体、裁判では不利な事情となり得ます)は、(自賠責保険から支払われる金額を差し引いた)被害者の損害を全額自ら賠償する必要がありますので、それを前提とした示談交渉を開始します。

任意保険に加入していて、最終的には示談成立・民事的賠償が見込まれる事案であっても、保険金とは別に被害者に見舞金を支払うなどの慰謝の措置を採ることもありますし、たとえば交通遺児支援団体への贖罪寄付、地域の交通安全活動への参加等、その事案にふさわしい贖罪活動を検討し、それを実行してもらうなどします。

まとめ

いかがでしたでしょうか。交通事故を起こしたとしてもその方に過失が認めがたいこともあり、相手方の落ち度(過失)が大きい場合もあります。もちろん、その方に過失があると言わざるを得ない場合もあります。

いずれにしても、まずは過失(予見義務・結果回避義務)の有無・内容に関する判断資料を集め、その資料等に基づき過失の有無・内容を詳細に検討することが必要です。その検討を誤りなく遂行するには、この種事犯に精通し、過失に関する専門的知識を持つ経験豊富な弁護士のサポートが必要不可欠です。

また、不注意で起こした交通事故であっても、被害者の方にとっては、わざと起こされた事案と起きた結果に違いはなく、故意犯に対するのと同等の峻烈な処罰感情をお持ちになることもあり、過失犯であっても、被害者側のご意思を重視する検察官の処分・裁判所の判決を楽観視することはできません。
交通事故を起こしても刑事責任や損害賠償義務が法的に過剰となることなく、適切妥当な結果が得られるよう、一刻も早く上記のような経験豊富な弁護士にご相談ください。

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