インサイダー取引を規制する金融商品取引法166条1項1号における「その他の従業者」の意義が問題となった事案
株式会社Aの財務及び人事等の重要な業務執行の決定に関する職務に従事していた被告人が、第三者割当による新株発行増資について、同社の業務執行を決定する機関が株式を引き受ける者の募集を行うことについての決定をした旨の重要事実を知るや、その公表前に、同社が発行する株券を買い付け、また、その後、上記新株発行増資につき、払込総額の約9割に相当する新株式の発行が失権することが確実になったとの重要事実を知るや、その公表前に、同社が発行する株券を売り付けたところ、これらの行為が金融商品取引法166条1項1号に反するとして起訴された事案。同号の「その他の従業者」の意義が問題となった。
判旨(最判 平成27年4月8日)
同号にいう「役員、代理人、使用人その他の従業者」とは、当該上場会社等の役員、代理人、使用人のほか、現実に当該会社等の業務に従事している者を意味し、当該上場会社等との委任、雇用契約等に基づいて職務に従事する義務の有無や形式上の地位・呼称のいかんを問わないものと解するのが相当である。
被告人は、A社の代表取締役と随時協議するなどして同社の財務及び人事等の重要な業務執行の決定に関与するという形態で現実に同社の業務に従事していたものであり、このような者は、金融商品取引法166条1項1号にいう「その他の従業者」に当たるというべきである。
コメント
投資者の投資判断に著しい影響を及ぼす事実を知った者が、その事実の公表前に株式等の取引をしてしまうと、金融商品取引市場の公正さが損なわれ、市場に対する投資者の信頼も失われてしまいます。そこで、金融商品取引法はこのような、いわゆるインサイダー取引を禁じています。
会社関係者によるインサイダー取引を禁じている金融商品取引法166条1項1号は、その主体を「役員、代理人、使用人その他の従業者」と規定するところ、本件事案では、被告人が「役員」「代理人」「使用人」のいずれにも該当しなかったため、「その他の従業者」に該当するか、同文言の意義が問題となりました。
この点につき、最高裁は、「その他の従業者」に該当するか否かは、形式面ではなく、実質面に着目して判断すべきことを示しました。