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路上痴漢での逮捕可能性を弁護士が解説

「痴漢」と聞いて、皆さんはどのような事件をイメージするでしょうか。多くの皆さんは、電車内で服の上からお尻や胸を触るといった事件を思い浮かべたのではないでしょうか。
しかし、「痴漢」は電車内に限っておこるものではありません。

電車内ではなく、路上において、被害者のお尻や胸を触ったり、わいせつな行為をしたりすることも、「痴漢」に該当するのです。

この記事を読んでいる方の中には、過去に路上で痴漢をしてしまい警察から呼び出しを受けている方、過去に痴漢をしたことを反省し、どうすればいいのかと考えて途方に暮れている方家族が路上で痴漢をして逮捕されてしまった方がいらっしゃると思います。

このようなとき、どうすればいいのでしょうか。
例えば、ご家族が逮捕されている場合には、一刻も早く身体拘束から解放してほしいと思われるでしょうし、警察から呼び出しを受けている場合には、警察からの取調べに対してどのように挑むべきか準備を行う必要もあります。
この記事では、痴漢をしてしまった場合に成立する犯罪や、痴漢をしてしまった場合の刑事手続きの流れ、痴漢事件における弁護活動を中心に解説していきます。本コラムは弁護士・高田早紀が執筆いたしました。

路上痴漢は何罪に該当するか

一般的に、路上で行われる「痴漢」のことを、電車内やその他の場所における痴漢と区別し、「路上痴漢」と言います。
ひとくちに 「路上痴漢」といえど、その態様は様々です。例えば、路上ですれ違いざまに着衣の上から被害者の胸やお尻を触る行為胸やお尻を触るだけにとどまらず、つかんだり揉んだりする行為、また、路上において被害者に抱き着いたり、キスをしたりする行為が考えられます。
これらの「路上痴漢」には、どのような犯罪が成立するのでしょうか。
迷惑行為防止条例違反、強制わいせつ罪、暴行罪に当たる行為はどのような行為なのでしょうか。また、それぞれの起訴率、不起訴率はどの程度なのでしょうか。

迷惑行為防止条例違反

「公共の場所」である路上で、すれ違いざまに、着衣の上から被害者の胸やお尻を触る行為については、迷惑行為防止条例違反に該当するでしょう。
例えば、東京都は「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(東京都迷惑行為防止条例)」において、痴漢行為を以下のように規定しています。

第5条1項1号
公共の場所又は公共の乗物において、衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人の身体に触れること。

東京都迷惑行為防止条例違反に規定する痴漢行為を行った場合の罰則は、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金であると規定されています(同条例8条1項2号)。
東京都以外の各都道府県も、文言は多少違うこともありますが、同様の内容の条例を制定しています。このような迷惑行為防止条例に違反した場合は、検察庁統計において、「地方公共団体条例違反」と記載されます。
2020年検察統計における「罪名別 被疑事件の既済及び未済の人員」によると、地方公共団体条例違反の場合(公安条例及び青少年保護育成条例以外の条例)、4,086件は起訴され、3,470件は不起訴となっています。起訴された4,086件のうち、公判請求は834件、略式命令請求は3,252件です。不起訴理由の内訳を見てみると、不起訴になった3,470件のうち、2,791件が起訴猶予、604件が嫌疑不十分、4件が嫌疑なしとなっています。

迷惑行為防止条例違反が禁止している行為は、痴漢の他にも、盗撮覗き付きまとい露出等が含まれ、かつ、路上痴漢は「痴漢」の中でも一部です。このため、この数値は路上痴漢のみを示す数字ではありません。しかし、この数値は、路上痴漢事件の起訴率や処分内容を考えるに当たり、一つの資料として参考にすることができるでしょう。

強制わいせつ罪

路上において、強引に被害者の胸や陰部を直接触ったり揉んだりする、抱き着く、キスをする等の行為の場合には、迷惑行為防止条例違反にとどまらず、強制わいせつ罪が成立する可能性があります。
強制わいせつ罪は、以下のとおり規定されています。

刑法第176条
13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の懲役に処する。13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。

迷惑行為防止条例違反の場合とは異なり、強制わいせつ罪にあたる行為については、「暴行又は脅迫」が必要になります。
「暴行」というと、殴る、蹴るなどの行為を想像する方がいらっしゃるかもしれません。もちろん、被害者を押し倒しわいせつな行為をした場合の、押し倒すといった行為が暴行に当たるのは言うまでもありませんが、この場合にいう刑法的な意味の「暴行」は、一般的にいう暴行行為とは異なります。被害者の意思に反するわいせつ行為を行えばそれで「暴行」ということができるのです。わいせつ行為自体を暴行とみることもできるのです。

例えば、すれ違いざまにキスをした、すれ違いざまに胸を揉んだ、といった場合であっても、これらの行為は被害者への不意打ちに当たる行為であり、突然のことであるため、被害者が抵抗するのは困難だと言えますから、被害者にキスをしたり、被害者の体を揉んだりした行為をもって、「暴行」ということもできるのです。ただし、路上痴漢の行為態様によっては、「強制わいせつ罪」が適用されるのではなく、「迷惑行為防止条例違反」として扱われるべきではないか、との主張をすることもあります。たとえば、胸に触れたもののわしづかみにしてはおらず、触れただけである場合であれば、「強制わいせつ罪」ではなく、「迷惑行為防止条例違反」にとどまるとの主張が考えられます。

強制わいせつ罪にあたる行為の場合は、起訴されてしまえば「6月以上10年以下の懲役」であると規定されています。強制わいせつ罪に当たる場合には、迷惑行為防止条例違反の場合とは違い、罰金刑の規定はありません。迷惑行為防止条例違反のように、罰金刑の規定がある犯罪の場合は、起訴された場合であっても「略式起訴」といって、裁判は開かれずに書類のやりとりのみで罰金を払えば終わる手続となることもあります。
しかし、強制わいせつ罪のように罰金刑の規定がない犯罪の場合、起訴された場合には、公開の法廷による裁判が開かれることになるため、それを避けるためにも、行ってしまった行為が、本当に「強制わいせつ罪」として扱われるべきかどうかの検討をする必要があります。仮に検討の結果、強制わいせつ罪に当たる場合であれば、公開の法廷による裁判を避けるため、不起訴処分獲得に向けて活動する必要があります。

2020年検察統計における「罪名別 被疑事件の既済及び未済の人員」によると、強制わいせつ罪の場合、3,666件のうち、約3割の1,090件が起訴され、公判請求されています。先ほど記載しましたとおり、強制わいせつ罪は、迷惑行為防止条例違反とは異なり、罰金刑の定めはないので、起訴されると必ず公判請求となります。また、不起訴理由の内訳を見てみると、不起訴になった2,245件のうち、1,057件が起訴猶予、927件が嫌疑不十分、2件が嫌疑なしとなっています。

路上痴漢に限った数値ではありませんが、この数値は、路上痴漢において強制わいせつ罪が成立するとされた場合の起訴率を考える一つの資料とすることができます。

暴行罪

「暴行罪」というと、人をたたいてしまった場合等を想像する方が多いと思います。
しかし、強制わいせつ罪において説明しましたように、わいせつな行為そのものを暴行とみなして、「暴行罪」が成立するとされることもあります。暴行罪は、以下のように規定されています。

刑法208条
暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

性的意図をもって接触した場合には、迷惑行為防止条例違反や強制わいせつ罪に当たる場合がほとんどです。
しかし、一瞬で離れた場合などでは、暴行罪とされる可能性もあります。
2020年検察統計における「罪名別 被疑事件の既済及び未済の人員」によると、暴行罪の場合、総数1万7,715件中、4,152件は起訴され、1万530件は不起訴となっています。起訴された4,152件のうち、公判請求は766件、略式命令請求は3,386件です。不起訴理由の内訳を見てみると、不起訴になった1万530件のうち、9,287件が起訴猶予、1,135件が嫌疑不十分、12件が嫌疑なしとなっています。

本記事で解説した行為は、あくまで一例です。「~という行為をした場合、必ず~という法令が適用される」といった絶対的な基準はありません。
ひとくちに同じ路上痴漢といえども、犯行場所がどのような路上であったかや、被害者の年齢、被害者に触った部位、触り方、触っている時間等、個別事案によって適用される法令、罪名は異なります。

例えば、服の上から太ももやお尻、脚を短時間触ったり撫でたりした場合であれば、迷惑行為防止条例違反となることが多いです。一方、同じ太ももやお尻、脚であっても、服の中に手を入れ長時間触ったり撫でたりした場合であれば、強制わいせつ罪になることもあります。
このような事案であれば特に、警察・検察からの取調べに対しどのように臨むかについて弁護士と相談することが必要です。

痴漢事件における最大の証拠は、証言です。自分では一瞬軽く触っただけであると伝えているつもりであっても、自分が気付かないうちに誘導されたりして、長時間触ったり、揉んだりしたような内容の調書が作成されてしまうこともあるからです。
ご自身の行為がどのような犯罪に該当するのかとご不安を抱えている方は、個別の事案に応じたアドバイスを受けるためにも弁護士にご相談ください。

路上痴漢で逮捕されたら

路上痴漢で逮捕される場合、被害者や偶然居合わせた通行人によってその場で取り押さえられ逮捕される「現行犯逮捕」、被害者の通報をきっかけに捜査が進められ、現場付近の防犯カメラ映像や遺留品から被疑者として特定され、事後的に逮捕される「通常逮捕」などが考えられます。

逮捕された場合には、まず、警察から弁解録取手続(刑事訴訟法203条1項)や取調べを受けることになります。そして、逮捕者の身柄は、逮捕された後48時間以内に警察署から検察庁に送致されます。検察官が、引き続き身体拘束の必要があると判断した場合は、検察庁に送致されたときから24時間以内に、裁判所に対し勾留請求がされます。この間の最大72時間は、基本的に家族であっても面会することはできません。ですが、弁護士であれば面会することができます。

その後、裁判所によって検察官の勾留請求が認められ、勾留決定がなされると、最長で20日間にわたる勾留がなされます。最長20日間も身体拘束を受けることになれば、学校や会社に行けなくなるなど、日常的な不利益が大きく、その後の生活にも大きな影響を与えてしまいます

「路上痴漢」の場合、電車内での痴漢とは異なり、被疑者や被害者の自宅や職場、学校が近かったり、生活範囲が重なったりしている可能性があります。このため、他の痴漢に比べて路上痴漢の場合には、仮に被害者との間で面識がなかったとしても、被疑者と被害者の接触の可能性を考慮して、裁判官により勾留決定がされてしまう可能性が比較的高いと言えます。
しかし、弁護士に依頼することで、家族等の身元引受人を用意したり、釈放された後の生活環境を調整したりするなど、早期の釈放を目指した弁護活動を行うことができます。

仮に、ご家族が逮捕されてしまった場合には、なるべく早い段階で弁護士に相談してください。逮捕されてから勾留決定がされるまでには、最大でも72時間しかありません。この限られた時間の中で、身体拘束からの解放を目指すためには、迅速な弁護活動が要求されるのです。
また、残念ながら勾留決定がされてしまった場合であっても、被害者との間で示談を成立させることで、勾留満期前の釈放を目指した弁護活動をすることが可能です。

路上痴漢で立件された場合の弁護活動

まずは、弁護士にご相談ください。弁護士が本人から事件の詳細を聞いたうえで、今後の捜査の流れや処分の見通し、取調べの予定があれば取調べにどのように挑むべきかについて、事案に応じた具体的なアドバイスを行うことができます。
以下では、一般的な弁護活動をご紹介します。基本的には、路上痴漢に成立する犯罪であれば、以下の弁護活動は共通していると言えるでしょう。

1. 示談

路上痴漢事件は被害者のいる犯罪ですから、まずは被害者との間で示談交渉をすることが重要です。
しかし、路上痴漢の被疑者と被害者の当事者同士が直接連絡を取り合い、示談交渉をすることはほぼ不可能です。なぜなら、痴漢を含む性犯罪の場合、被害者の方は、被疑者に対する嫌悪感や恐怖心から、被疑者と直接会うことはもちろんのこと、連絡先を教えることに対し強い抵抗を感じることがほとんどですし、路上痴漢の場合は、被疑者と被害者の生活範囲が重なっているであろうことから、今後の生活を考えると、被疑者と顔を合わせたくない、被疑者に自分の個人情報を与えたくないと考えることは当然のことです。

そのため、示談交渉を行うためには、第三者かつ専門家である弁護士の存在が不可欠です。弁護士が間に入ることで、被害者の感情に配慮した示談交渉を進めることができます。示談を成立させることで、不起訴の獲得を目指すことになります。

2. 更生に向けた活動

痴漢事件を起こした人の中には、痴漢をやめたいけれど繰り返してしまうなどの性依存症的な傾向を抱えていたり、本当は痴漢の被害者が嫌がっているとは思えないなどの認知の歪みがあったりするなど、ご自身では解決できない悩みを抱えている方もいらっしゃいます。

このような場合、不起訴に向けた活動として、被害者との示談や、ご自身の反省状況に加え、性依存症等の治療を行う専門的なクリニックへ通院をすることも考えられます。自分の意志のみでは痴漢を止められない場合は、専門家の力を借りることも必要です。クリニックで何を学んで、考え方がどう変化していったのかを、弁護士が検察官に伝え、検察官に「この人は再犯をしないだろう」と思ってもらうことで、不起訴処分の獲得を目指すことになります。

3. 自首

路上痴漢をして、そのままその場から走って逃げてしまったような場合には、捜査機関が被疑者を突き止める前に、自首をすることが考えられるでしょう。自首をすることで、逮捕や勾留などの身体拘束を回避できる可能性が高まります。また、自首をしたことだけをもって不起訴になるわけではありませんが、自首をすることは反省の表れではありますので、不起訴に傾きやすくなる一つの材料になります。

自首をすべきかどうかの判断に当たっては、ご自身の反省や不安な気持ちはもちろん、今後、被疑者として発覚する可能性がどの程度ありそうか、ということも考慮することになるでしょう。路上によっては現場に防犯カメラが設置してあることもありますし、現場ではなくとも、犯行後走って逃げる姿が現場付近のコンビニに設置してある防犯カメラに映っていたり、目撃者がいたりすることも考えられます。

自首をすることに抵抗があるものの、不安が大きい、一度話を聞いてみたいという方は、一度弁護士にご相談ください。

まとめ

ご自身あるいはご家族が路上痴漢事件を起こして逮捕されてしまった場合、逮捕はされなくても、警察からの取調べを受けている場合には、私たち弁護士にご相談ください。
誰しも前科をつけたくない、裁判を受けたくないと考えるのは当然のことと思います。特に、前科がついてしまうことで失職したり、就業を制限されたりする可能性があるような方の場合には、早期の段階で弁護士に相談し、適切な対応を取ることが、起訴・不起訴の判断を大きく左右する結果となることがあります。不起訴を獲得し、前科がつかないようにするためには、早期に弁護士へ相談することが大切です。

更新日: 公開日:
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刑事事件は初動の72時間が重要です。そのため、当事務所では24時間受付のご相談窓口を設置しています。逮捕されると、72時間以内に検察官が勾留(逮捕後に更に被疑者の身体拘束を継続すること)を裁判所に請求するか釈放しなければなりません。弁護士へ依頼することで釈放される可能性が高まります。また、緊急接見にも対応しています。迅速な弁護活動が最大の特色です。

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