ウィンターインターン 参加者感想文 S.Kさん(2018年)(東大ロー在籍)
私は、12月26日から28日の間、中村国際刑事法律事務所のウィンターアソシエイトに参加させていただきました。私は、大学入学前から刑事弁護人を志していたため、今回のウィンターアソシエイトで刑事弁護人の戦場を、身をもって体験させていただき、将来への想いを一層強めることができました。
最初に、先生が受けておられる外国人事件の依頼人の方との面談に立ち会わせていただきました。私は裁判傍聴以外で依頼人の方にお会いするのは初めての経験で、また先生が依頼人とお話しなさる場面を見せていただくことも初めてでした。事件の見通しをお伝えする際の注意点、細かく正確な事実確認の重要性、今後の弁護方針の伝え方等、様々なことを学ばせていただきました。最も印象に残ったことは、依頼人の表情と言葉から、先生を信頼して、事件を解決しようとする様子が明確に感じ取れたことです。依頼人が、立ち会わせていただいている私を見てくださる時も、真剣かつ信頼した眼差しを向けてくださいました。事件に直面している依頼人と接するときに最も重要なことは、依頼人といかに信頼関係を築くか、であると改めて感じました。
次に、実際の事件記録をもとに、類型証拠開示請求書を作成し、さらに否認事件の上告の検討メモを作成しました。机上の勉強で学んだ知識を基礎として、請求書や検討メモを作成することは、悩ましいことも多かったです。類型証拠開示は、弁護人がケースセオリーを作る上で重要な情報収集の手段です。しかし、記録上に出てきていないもので、警察官・検察官の手元にある調書や証拠物を想像することは容易ではありませんでした。実際に、請求書作成後に先生から詳細を教えていただいたところ、証拠物の検討漏れがあり、漏れなく情報収集することの難しさを体感しました。弁護人は検察官の捜査状況や主張を予測して訴訟活動をする必要があることから、このような想像力も刑事弁護をするうえで重要だと学ぶことができました。また、上告理由の検討では、そもそも上告として認められるものが少ない中で、どのように理由を見つけていくのが良いのかとても悩みました。まず、控訴審判決まで進む過程で出てきた情報の整理に時間がかかりました。膨大な事件資料から、争点はどこだったのか、その周辺事情はどのようなものがあったか、被告人の否認している部分はどこか、整理することは容易ではありませんでした。そのため、このような情報の中から、主張の鍵となる事実を見つけ出せることも、刑事弁護人にとって重要な能力であると考えました。さらに、控訴審判決に対する不服であることから、控訴審判決の内容を軸に検討すべきなのか、否認する被告人の主張を軸に検討すべきなのか、悩みました。このような多くの悩みを抱えながら、何とか上告理由となりうる主張を検討しましたが、何度も何度も事件記録に目を通す中で、模擬記録では感じることのできない熱い思いがこみ上げてきました。検討後、中村先生から、「何としてでもこの人を助けたい、という気持ちが湧くことが大事」と教わりました。記録を検討した後に、中村先生からこの言葉を頂き、まさに刑事弁護人として最も必要とされる素質であると感じ、心に刻んで精進しようと思っております。
また、2日目には、先生方の担当しておられる刑事事件の裁判傍聴をさせていただきました。公判廷では、裁判長の訴訟指揮や、実際の検察官の訴因変更手続、そして、立証趣旨の拡張に対する先生方の意見のやりとりを実際に見せていただき、今まで以上に実務での裁判手続を知ることができました。そして、先生方と被告人やご家族の方がお話しなさっている様子を見て、目の前にいる相手と真摯に向き合うことが信頼関係を築く第一歩だと感じました。
そして、最後に、実際の事件記録をもとに、心神耗弱の情状事実の主張のケースセオリーを検討させていただきました。情状事実のケースセオリーは、犯罪事実が存在することを前提に、犯行時の精神状態が被告人の犯行に与えた影響が大きいことを組み立てていくことになります。この検討では、積極事実と消極事実に振り分ける事実の抽出に悩み、情状として影響する事実はどれか、記録に何度も目を通して検討しました。この検討をするまで、私は、ケースセオリーは主に否認事件の犯罪事実不存在のためのものだと思っていましたが、被告人にとって有利なストーリーを検討する場面は犯罪事実に限ったものではないと学びました。そして、このストーリーの検討こそが、被告人を助けるため、被告人を適切な刑罰へ導くために重要なものであると、検討しながら実感しました。
以上のようなたくさんの貴重な経験をさせていただき、刑事弁護人にとって重要な能力、技術、思いを学ばせていただきました。また、刑事弁護を扱う先生方から、様々なお話をお聞かせいただく中で、先生方の刑事事件に向ける熱い思いをひしひしと感じました。中村先生に頂きました言葉と共に、刑事事件に対する熱い思いをもって、依頼人にとってのベストな結論に向けて突き進むことこそ、刑事弁護人に要求される最も重要な素質であると実感いたしました。
短い期間ではございましたが、刑事弁護の戦場を体験させていただき、ありがとうございました。また、ウィンターアソシエイトの期間を延長していただき、刑事弁護に少しでも多く触れる時間をくださり、心より感謝申し上げます。本当にありがとうございました。