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放火罪で逮捕されたら

放火は、目撃者がいないことが多く、現場の証拠も消失しているために犯人特定の証拠に乏しく、また、自然発火なのか人為的な放火なのか、事件性それ自体にも疑義がある場合が多く、検事は出火原因に関する鑑定に頼らざるを得ないという現状があります。

そこから冤罪も生まれます。放火の動機ある者の選別、第三者の放火の可能性がないことも、消極立証などに頼らざるを得ないのです。しかも、結果が重大であり、公共の危険を発生させたとあって、公益の代表者である検事は、窃盗罪や横領罪のように嫌疑不十分による不起訴ともし難い現実があります。

    放火事件で無罪を獲得した事例
    当事務所で扱った放火事件で無罪判決を獲得した事例があります。一軒家を所有する夫婦が自らの家に放火し、全勝させたという事案ですが、夫婦いずれも非現住建造物放火罪で起訴されました。

    この事例では、住宅ローンの未払いから当該自宅が差し押さえを受け、火災当日、ちょうど裁判所執行官が現況調査に訪れる予定であったという経緯があり、警察及び検事は、その現況調査を妨害し、不動産競売を妨害するという動機から放火したとの見立てをし、強制執行妨害目的財産損壊等と非現住建造物等放火罪で起訴したのでした。しかし、動機として弱いばかりか、放火が自然発火ではなく放火であるとの鑑定結果も先入観に満ちて、最初から「放火ありき」の、およそ客観性が認められない鑑定だったのです。この起訴事実を徹底的に争い、結果的に無罪を勝ち取りました。無罪は一審で確定しました。

本コラムは代表弁護士・中村勉が執筆いたしました。

放火罪で逮捕されたら

放火罪は重罪です。必ず逮捕されます。しかも、自白に頼る部分も多く、脅迫的な違法取調べが行われる潜在的リスクがあります。身柄拘束期間のほぼすべてが犯人性の確定、犯行方法の解明、犯行動機の解明に当てられます。それらの供述を、現場検証、実況見分、犯行再現見分、出火原因の鑑定などによって客観性を持たせていく作業が捜査なのです。そこでは、被疑者供述がとても重要になります。捜査官は、客観的な現場の状況や鑑定結果に沿うように供述を不当に誘導するなどの危険があるからです。

このため、可能な限り早期に弁護士をつけて防御する必要があります。違法な取り調べが続けば警察や検事に抗議し、身柄解放のための準抗告その他のアクションを起こす必要がありますし、場合によっては黙秘権を行使すべき状況になることもあります。以下では、放火罪、失火罪について基本的な事項や条文などについて詳しく解説します。

放火罪の基本

放火罪は、「放火」して、物を「焼損(しょうそん)」すれば成立します。放火はよくきく言葉ですが、焼損は聞いたことがない人もいらっしゃるのではないでしょうか。以下「放火」と「焼損」について説明します。

放火

「放火」とは、簡単にいえば、火をつけることです。実際に火がつかなくても放火にあたる可能性もあります。

焼損

「焼損」とは、「火が媒介物を離れて目的物が独立に燃焼を継続しうる状態になったこと」といわれています。例えば、ライターで建物を燃やそうとした場合を例に説明しましょう。ライターから火が燃え移って、ライターを切っても、火が燃え続けるようになったときに初めて「焼損」したといえます。ライターを切ったら火が消えてしまうようなときは、火が建物にあたっていたとしても「焼損」にはあたりません。

木造建築物が多く見られる日本では、物に火がつけばいつ燃え上がり、周りの建物等に燃え移り、危険な状態となるかわかりません。そこで、物が独立に燃える状態になった時点で「焼損」したといえると考えられています。

「焼損」の意味についての他の考え方

いくら物が独立して燃えたといっても、建物のうち、軽く燃えた場合にも建物を燃やして人の命や体を危険にさらしたとして、重く処罰されることは納得がいかないとして他の意味にとらえる考え方もあります。物の重要部分が燃えたことを必要とする考え方です。つまり、「焼損」といえるためには、物が全焼ないし、半焼して、その本来の効用が失われたことが必要と考えるのです。例えば、住居を燃やした場合、その建物を住居として使うことができなくなったことが必要というわけです。

公共の危険

放火罪の中には、「放火」して「焼損」するだけではたりず、「公共の危険」というものが発生することが必要とする種類のものもあります。

「公共の危険」とは、人がいる可能性が高い建物か、人がいる可能性が高いわけではないけれど、他人が所有している建物が燃える危険をいう考え方もあります。しかし、判例において「公共の危険」というのは必ずしもこれらの建物が燃える危険だけをいうのではなく、不特定又は多数の人の生命、身体又は財産に対する危険も含まれるとしています(平成15年4月14日/刑集57巻4号445頁)。

公共の危険は何を基準に判断するか

「危険」と一口にいっても、人によって危険かどうかの判断はわかれるとおもいます。ライターに火をつけるだけで、とても臆病な人ならば、危険だと思われるかもしれません。部屋のカーテンに火がついていても、まだ大丈夫と思う人もいるかもしれません。「危険」というのは臆病な人かそうでない人、どのような人を基準に考えるべきでしょうか。

現在の多数説は、人を基準にはしません。客観的な可能性を事後的に判断します。つまり、建物が燃えて、火がかなりの大きさになって多くの人が「危険だ」と思ったとしても、後から科学的に検証すれば、どこかに燃え移る可能性は全くなく、人の生命、身体、財産に危険が生じなかったという場合、「公共の危険」はなかったということになるのです。判例も燃えている当時の一般人の危機感のみで「公共の危険」の存否を判断しているわけではなく、事後的に判断される客観的な危険性を重視して「公共の危険」の存否を判断しています。

放火罪の種類

現住建造物放火罪(刑法第108条)

「現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物、汽車、電車、艦船又は鉱坑」を燃やした場合には現住建造物放火罪が成立します。簡単にいえば、人がいる建物に火をつけた場合に成立する罪です。
刑罰は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役です。

一体何が「建造物」にあたるのか

屋根と、壁や柱があって、少なくとも人が出入りできるものをいいます。例えば、掘立小屋、物置なども建造物にあたります。

雨戸や畳が燃えても「建造物」が燃えたといえるのか

床板や天井板は建造物の一部ですので、これらが燃えれば、現住建造物放火罪が成立します。
雨戸や畳は、取り外しが可能なので、建造物の一部とは言えません。ですので、雨戸や畳を燃やしても、現住建造物放火罪は成立しません。

「現に人が住居に使用し又は現に人がいる」とは

「現に人が住居に使用し又は現に人がいる」建造物等を燃やした場合には、人の命や体が危険にさらされることになります。そこで、現住建造物放火罪は、非現住建造物放火罪に比べて、刑罰が重くなっています。逆に言えば、火をつければ、人の命や体が危険にさらされる可能性が高い建物を燃やした場合には、現住建造物放火罪が成立します。つまり、現住建造物放火罪が成立するには、現に人がいる建物を燃やす必要はなく、人がいる可能性が高い「現に人が住居に使用している」建造物を燃やした場合にも成立します。

例えば、家にいる人は買い物に出かけていて、建物の中に人がいなくても、その建物が人の家である場合には、留守の間に火をつければ、現住建造物放火罪が成立します。家に住んでいる人が、数日間実家に帰っていて、建物の中に人がいなかったという場合であっても、現住建造物放火罪が成立します。

非現住建造物放火罪(刑法第109条)

「現に人が住居に使用せず、かつ、現に人がいない建造物」等を燃やした場合には、非現住建造物放火罪が成立します。つまり、人がいる可能性がない建物を燃やした場合には、非現住建造物放火罪が成立します。
非現住建造物放火罪の中でも、2種類にわかれます。自分の建物を燃やした場合と、他人の建物を燃やした場合とで刑罰が変わります。

他人所有非現住建造物等放火罪(刑法第109条1項)

他人の非現住建造物を燃やした場合、他人所有非現住建造物等放火罪が成立し、2年以上の懲役となります。自分の建物を燃やした場合であっても、差し押えされていたり、賃貸していたり、保険をかけていたりする場合には、他人所有非現住建造物等放火罪として罰せられます。自己所有非現住建造物等放火罪よりも重く罰することができるようになります。

自己所有非現住建造物等放火罪(刑法第109条2項)

自分の非現住建造物を燃やした場合には、自己所有非現住建造物等放火罪が成立し、6か月以上7年以下の懲役となります。一方、自分の非現住建造物を燃やした場合には、「公共の危険」が生じなかったときには、罰せられません。ここは他人の非現住建造物を燃やした場合と異なります。「公共の危険」とは、不特定多数の人の生命・身体・財産に対する危険をいいますので、床板が少し燃えただけであった場合には罰せられません。

建造物等以外放火罪(刑法第110条1項、2項)

建造物以外の物を燃やした場合には、建造物等以外放火罪が成立します。建造物以外の物とは、例えば、布団、畳、自動車、バイク等がこれにあたります。この場合も、「公共の危険」が発生しなかったときには罰せられません。誕生日ケーキのろうそくに火をともしても、「公共の危険」は発生しないので、罰せられません。

刑罰については、建造物等以外放火罪も、自分の物を燃やした場合と、他人の物を燃やした場合とで刑罰が変わります。他人の物を燃やした場合は、1年以上10年以下の懲役自分の物を燃やした場合には、1年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処せられます。

失火罪とは

放火罪との違い

放火罪とは別に、失火罪(刑法第116条)という犯罪があります。放火罪は、わざと物を燃やした場合に成立する罪です。一方、失火罪は、過失による出火によって物を燃やした場合に成立します。

業務上失火罪(刑法第117条の2)

ボイラーマンや溶接作業員など、火を直接取り扱う職務についている人が職務として失火すると、業務上失火罪として、普通の失火罪よりも重く罰せられます。

火にまつわる様々な犯罪

以上で紹介した犯罪のほかに、火にまつわるいろいろな犯罪として、延焼罪、消火妨害罪、爆発物破裂罪・過失激発物破裂罪、ガス漏出等罪があります。

延焼罪(刑法第111条)

延焼罪とは、自己所有非現住建造物を燃やした場合や自己所有建造物等以外を燃やして、他人の物に燃え移ってしまった場合に成立します。

消火妨害罪(刑法第114条)

火災が起こったときに、消火活動を妨げれば、消火妨害罪が成立します。1年以上10年以下の懲役となります。例えば、消防車や消防ホース、消火器などを隠したり壊したりすることがこの罪にあたります。自分がもっている消火器であっても、この罪が成立します。

激発物破裂罪・過失激発物破裂罪(刑法第117条)

高圧ガスボンベや石油タンク、ガスタンク等を破裂させて物を壊せば、激発物破裂罪・過失破裂罪が成立します。

ガス漏出等罪(刑法第118条)

ガスや電気、上記を漏出さえて、人の生命、身体、財産に危険を生じさせれば、ガス漏出等罪が成立します。

過去に起きた連続放火事件

最後に、参考まで有名な連続放火事件をご紹介します。

大阪市南部連続放火事件

【時期】2003年1月から5月
【場所】大阪市阿倍野区、東住吉区、住之江区、西成区を中心とした大阪市南部地域
【事件の概要】
深夜、民家や民家のガレージに連続して放火される事件が発生し、その件数は約140件にも及んだ。大阪府警察は約300人態勢での夜間警戒で事件解決に挑んだ。5月17日の西成区の不審火の直後に犯人と思われる赤いマウンテンバイクに乗った男がビデオにうつり、その12日後、赤いマウンテンバイクに乗った男に職務質問をしたところ犯行を認めたため、事件解決に至った。男は、サラ金の借金苦から精神的に追い詰められ、犯行に及んだとされている。

諏訪地方連続放火事件

【時期】2006年4月から5月
【場所】長野県諏訪地方の諏訪市・諏訪郡下諏訪町
【事件の概要】
中学校の体育館・資料小屋・自動車が放火され全焼した事件。自称ネットアイドル としてブログを開設していた女性が、自ら放火した火災の様子を収めた写真を近所で火災があったとして自身のブログに掲載していた。犯行の動機としては、母校への恨みや地元を有名にしたかったなどと供述していた。犯人は警察署の中で自殺を図ったが、未遂に終わっている。

まとめ

いかがでしたでしょうか。火に関係する犯罪はこのように沢山ありました。どれも、簡単にいえば、物を燃やす犯罪ですが、燃やすものや、わざと燃やしたかどうかによって、成立する犯罪は異なります。物が燃えただけでは成立しない犯罪もありましたね。

放火といえば、かなり凶悪な犯罪なイメージがあるかもしれませんが、ひとえに放火といっても、それぞれの事案によって凶悪かどうかは様々な犯罪なのです。

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  • 逮捕されるのだろうか
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