侮辱罪と誹謗中傷を弁護士が解説
近年,SNSにおける誹謗中傷が社会問題となっています。
2022年2月24日にロシアがウクライナに軍事侵攻したことで,ロシアに対する憎悪観が醸成され,日本に住んでいる善良なロシア人に対する嫌がらせや誹謗中傷などが起きています。悲しいことです。
一般人の方に対する誹謗中傷はもちろんのこと,有名人の方に対する誹謗中傷は悪質さを増しています。実際TV番組に出演していた有名人が,SNS上で過酷な誹謗中傷を受け,自殺してしまうという痛ましい事件も起こっており,この件で数名の誹謗中傷をした人物が,侮辱罪の略式命令で科料を受けています。
しかし,「あまりにも刑罰が軽すぎるのではないか」という世論の声がありました。
侮辱罪の厳罰化
侮辱罪は「拘留又は科料」という刑罰が法定されており,他の犯罪類型と比べるとかなり軽いに部類に属する犯罪でしたが,ネット上の誹謗中傷に対する非難が高まっており,厳正に対処すべきであるという世論の高まりを背景に,2021年に法務大臣は侮辱罪を厳罰化し,懲役刑を導入する刑法改正を法制審議会に諮問しました。そして,2022年6月13日に参議院本会議で可決,2022年7月7日に施行されました。
ただし,国会審議の過程で,厳罰化により表現の自由が制約されるのではないかとの懸念が示されたため,施行から3年後に有識者を交えた検証を行うことが明記されました。
改正前の法定刑は,刑法で最も軽い「拘留(30日未満)または科料(1万円未満)」でしたが,「1年以下の懲役・禁錮,または30万円以下の罰金が追加」され,懲役刑まで法定するものと改正されました。公訴時効も1年から3年に延びました。
なお,施行にあたり,法務省は,ホームページに改正の趣旨や処罰範囲,表現の自由との関係などについて「Q&A」を掲載しています(法務省:侮辱罪の法定刑の引上げQ&A)。
本コラムは代表弁護士・中村勉が執筆いたしました。
侮辱罪の成立要件
侮辱罪について,刑法第231条に,「事実を適示しなくても、公然と人を侮辱した者は、1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。」と規定されています。
つまり,「公然と人を侮辱した」場合に,侮辱罪が成立することになります。ここでいう「公然と」とは,適示された事実を不特定又は多数人が認識する可能性がある状態のことをいいます。ですから,不特定又は多数人が認識する可能性があるような状態で,他者を侮辱した場合には,侮辱罪が成立することになります。
刑法第231条(侮辱罪)
事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、一年以下の懲役若しくは禁錮若しくは三十万円以下の罰金又は拘留又は科料に処する。
侮辱罪と名誉毀損罪の違い
名誉棄損罪については,刑法第230条第1項に「公然と事実を適示し,人の名誉を毀損した者は,その事実の有無にかかわらず,三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する」と規定されています。
それぞれの条文からもわかりますように,侮辱罪と名誉棄損罪の要件の大きな違いは,「事実の適示」の有無にあります。
つまり,「○○は不倫している」,「○○は暴力団との付き合いがある」等の人の社会的評価を低下させるような具体的事実を適示するなどし,誹謗中傷をしてしまった場合には,名誉棄損罪が成立する可能性がある一方,そういった事実を適示なくとも前述のとおり「公然と人を侮辱した」場合には,侮辱罪が成立することになります。
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SNSやインターネット上で芸能人に誹謗中傷をしてしまった場合,名誉棄損罪又は侮辱罪が成立する可能性があります。
SNSやインターネットは,誰もが自由に閲覧できる空間ですから,そこでの誹謗中傷等は,当然不特定又は多数人が認識する可能性がある状態になります。したがって,SNS上での誹謗中傷は「公然と人を侮辱した」として,侮辱罪が成立する可能性があります。
侮辱罪の民事上の責任
侮辱による民事上の責任に関しては,侮辱されたことによって生じた精神的苦痛に対する慰謝料や,侮辱されたことにより毀損された社会的評価についての賠償請求が考えられます。
ここでは,仮に刑事処分を受けたからといって,民事上の責任がなくなるわけではないことに注意が必要です。
まとめ
以上のとおり,侮辱罪について解説いたしました。自分の行為が侮辱罪にあたるか等不安な方がいらっしゃいましたら一度弁護士に相談してみてください。
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