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過失致死について弁護士が解説

人はしばしば不注意によって過ちを犯してしまいます。
時には、その過ちによって人の死亡という重大な結果を引き起こしてしまうこともあります。このように不注意によって人の死亡という結果を発生した場合に、成立する犯罪が過失致死罪です。重大な過失により死亡した場合は、重過失致死罪に問われます。

ところで、過失致死罪は、過失の程度や種類によって、成立する犯罪やそこで科される刑の重さが大きく異なります。過失致死罪は、テレビのニュースなどでよく目にする犯罪の1つかと思います。過失致死事件の典型例は、自動車事故で、業務上過失致死事件として取り扱われますが、そのほかの業務上過失致死事件としては、実務的には、主に医療や企業活動が絡んだ事例でよく問題となります。医療事故のほか、列車事故、航空機事故、医療事故、イベントにおける死傷事故など、被害者の多い大型過失事故事件があります。

以下では、どのような場合に過失致死罪が成立し、どういった刑が科されるのか、また、殺人罪との区別はどのようなものか、さらに、過失犯として刑法はどのような犯罪類型を法定しているかについて、代表弁護士・中村勉が解説していきます。

過失致死の「過失」とは

「過失」とは、注意義務に違反すること、つまり、不注意を意味します。したがって、不注意な行為によって、人を死亡させてしまった場合には、過失致死罪が成立することになります。

ところで、「過失」があるかどうかを判断するのは容易ではありません。刑法学者による旧過失論、新過失論、新新過失論(危惧感説)といった議論があるように、必ずしも何をもって過失とするか、学説上も定まってはいないのです。ただ、実務的には、次のような判断プロセスを経ます。

死の結果を認容していないこと(故意がないこと)

故意(殺意)があれば、過失致死ではなく、当然、殺人罪となります。そして、殺意の認定は微妙な判断となり、特に激情犯にあっては、殺すつもりはなかったとの殺意否認をするケースが多いです。

人の死の結果を表象し、これを認容した場合(死んでも構わない)に殺意が認定され、認容がない場合には「認識ある過失」として過失犯となる、という微妙な違いなのです。内心の問題だけに、捜査官の誘導により不正確な自白調書を作成されるリスクもあり、弁護士によるアドバイスが必要不可欠です。場合によっては、黙秘戦略をとることもあるでしょう。

客観的注意義務違反があること

この判断要素としては、①まず、予見可能性がなければなりません。例えば、自動車を運転していて、空から人が落ちてくるというのは予見できないでしょう。②予見可能性があるとして、次に、結果予見義務違反がなければなりません。もっとも、予見可能性があれば、即、結果予見義務があるとされます。予見可能性があるのに予見義務違反が認められない例は考えにくいです。

③次に、予見可能性があり、すなわち、結果予見義務違反もあるとき、それにも関わらず結果を回避しなかったという点に結果回避義務違反が認められます。例えば、道路脇でお年寄りが自転車をこいでいるとき、「倒れることがあるかもしれない」という予見可能性はあります。むしろそのように予見できるように注意しなければならないのです。つまり結果予見義務があるのです。
それにもかかわらず、注意散漫、あるいは、スマホを見るなどして注意を怠り、漫然進行し、倒れたお年寄りを轢いて死なせた場合には、結果予見回避義務違反が認められます。

結果回避義務違反の前提として、結果回避可能性も要求されます。「自転車のお年寄りが倒れるかもしれないと思い、減速して進行し、案の定、お年寄りが倒れたのでハンドルを切ろうとしたが、左には歩行者の列が、右には対向車のトラックが来て、ハンドルを切ることができず、急ブレーキをかけたが間に合わなかった」という場合には、結果回避可能性がないとして過失が否定される余地があります。

過失致死罪に問われたら弁護士を依頼

このように、過失致死事件というのは、一歩間違えば、殺人罪に問われることもあり、また、過失の認定が専門的であるうえ、一般の犯罪に比べれば無罪率も高いです。そこで、実力のある弁護士を依頼することが重要です。そのような弁護士であれば、事故状況を慎重に分析し、過失の認定に関連して、場合によっては専門家に鑑定を依頼するなどして理論武装します。

捜査段階にあっては、独自の調査結果をもとに検事に対して、「過失が認定できず嫌疑不十分とすべきである」旨の緻密な意見書を提出して検事に揺さぶりをかけます。

一般の事件では、弁護活動の中心は示談交渉になりますが、過失致死罪にあっては被害者は死亡しており、そのご遺族の処罰感情は峻烈です。検事が、結果ありきの雑な判断により起訴することのないよう、過失の認定につき十分な防御をする必要があります。

過失犯の類型

以下では、過失犯の類型について説明します。

過失致死罪

まず、過失致死罪について説明いたします。条文が規定する内容は以下のとおりです。

刑法第210条
過失により人を死亡させた者は、五十万円以下の罰金に処する。

過失致死罪とは、不注意によって、人を死亡させた場合に成立する犯罪です。前記の条文からわかるように、過失致死罪には懲役刑がありません。つまり、有罪判決が下されたとしても、基本的には罰金刑に処されることになるでしょう。

重過失致死傷罪

重過失致死傷罪について説明いたします。条文が規定する内容は以下のとおりです。

刑法第211条
業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、五年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。

この犯罪は、「重大な過失」がある場合に成立する犯罪で、前記条文からわかるように、実刑を含む過失致死罪よりは重い処罰が法定されています。またここでいう「重大な過失」とは、裁判例によれば、「注意義務違反の程度が著しい場合をいい、発生した結果の重大性、結果発生の可能性が大であったことは必ずしも必要としない」(東京高判昭57.8.10)と解されています。

本罪が適用される例はそれほど多くはないと思いますが、「自転車をふざけて乗ったまま赤信号を見落とし歩行者に突っ込み負傷させた」等の事例で適用されています。

業務上過失致死罪

業務上過失致死罪について説明いたします。条文が規定する内容は前記のとおりです。ここでいう「業務」とは、「本来人が社会生活上の地位に基づき反復・継続して行う行為であって、他人の生命・身体等に危害を加えるおそれのあるもの」(最判昭33.4.18)を意味します。

「業務」を行っている者は、それだけ他人の生命・身体に危害を加えやすい立場にありますから、高度の注意義務を要求されており、通常の過失致死罪より重い法定刑が定められていることに注意が必要です。また、ここでいう「業務」にあたるかどうかは、その活動が営利目的で行われていたかどうかや適法であったかどうかは問題になりません。ですので、ご自身の過失が、本当に「業務」上の過失にあたるのか疑問に思った方は、是非一度弁護士に相談してみてください。

自動車運転過失致死罪

自動車運転過失致死罪について説明いたします。条文が規定する内容は以下のとおりです。

自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第5条
自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、七年以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。

自動車運転過失致死罪は、ニュースなどで耳にされたこともあるのではないでしょうか。
ちょっとした過失から、重大な事故が起こってしまうことは少なくなく、ある日突然事件の当事者になってしまうこともあると思います。そして、ちょっとした過失であったとしても、人の死亡という重大な結果が生じていますので、仮に起訴された場合には重い刑が科されることも考えられます。ですので、自身に過失があったかどうかにかかわらず、早期に一度弁護に相談をし、アドバイスを受けることが必要になるでしょう。

危険運転致死傷罪

危険運転致傷罪について説明いたします。条文が規定する内容は以下のとおりです。

自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第2条
次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は十五年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処する。
一 アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為
二 その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為
三 その進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為
四 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
五 赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
六 通行禁止道路(道路標識若しくは道路標示により、又はその他法令の規定により自動車の通行が禁止されている道路又はその部分であって、これを通行することが人又は車に交通の危険を生じさせるものとして政令で定めるものをいう。)を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為

危険運転致傷罪は、平成13年の刑法改正により追加された犯罪であり、犯罪類型としては比較的新しいものであるといえます。しかしながら、罰則が極めて重いですから、対応を誤ると長期の懲役刑という重い処分を受ける可能性があります。

ですので、危険運転致死傷罪で疑われてしまった場合には、早期に弁護士に相談・依頼をし、ケースに応じて適切に対応し、執行猶予判決を目指していくべきでしょう。

まとめ

過失致死罪で疑われてしまった場合には、早期に示談交渉に着手し、取調べに対するアドバイスを受けることが有用ですから、早期に弁護士に相談して、弁護活動を進めてもらうべきでしょう。

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