中村国際刑事法律事務所 | 刑事事件の実力派弁護士集団 中村国際刑事法律事務所
お急ぎの方へ メニュー

痴漢で線路へ逃走?逃げてしまった場合に刑罰はどうなるのかを弁護士が解説

犯罪行為というものは、非日常的な行為であり、現象なので、被疑者自身意図しない方向にエスカレートしていくことがあります。痴漢を行えばどうなるかについての予測能力に欠けている人が後先考えずに痴漢行為に至るということがよくあるのです。

例えば、電車内で痴漢をし、被害者に咎められて逃走をはかり、ホーム上で被疑者のバッグを捕まえて放さなかった被害者を転倒させ、それでも離さなかったので左右大きく振り回して振り解こうとして、危うく線路内に被害者が落ちるところであったという事件は、死亡事件につながる危険な犯罪行為です。しかし、被疑者は痴漢をする際、そのような事態に至ることは思いもよらなかったのです。このように、当初犯罪行為がエスカレートし、より重大な犯罪を引き起こすことはよくあることで、かつ、深刻な結果をもたらします。

数年前にニュースになった列車運行妨害事件も同様に、男子学生が電車内で女子大学生の下半身を触るなどして痴漢した後、駅のホームから線路に飛び降りて逃走し、電車を急停車させて列車の運行を妨害したとの疑いで、警視庁に逮捕されました。被疑者は防犯カメラの捜査で浮上したということで、取り調べに対し容疑を認め、「逮捕されてしまうと思った」と供述したということです。電車内での痴漢を疑われた男性が線路内に逃走する事件は以前にも話題にあがりましたが、一体どのような罪になるのでしょう。

以下、そもそも痴漢とは何か、どんな罰則があるのか、逃走した場合どうなるのか、代表弁護士・中村勉が解説いたします。

そもそも痴漢とは

痴漢は通常、各都道府県が定めた条例を適用して条例違反として捜査されることとなりますが、犯行態様等が過激である場合には、条例違反より重い、刑法犯である不同意わいせつ罪が適用されます。東京都でこの条例に該当するのは、迷惑防止条例(公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例)第5条1項になります。

公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例 第5条第1項
何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であって、次に掲げるものをしてはならない。
(1)公共の場所又は公共の乗物において、衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人の身体に触れること。
(2)次のいずれかに掲げる場所又は乗物における人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置すること。
イ 住居、便所、浴場、更衣室その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所
ロ 公共の場所、公共の乗物、学校、事務所、タクシーその他不特定又は多数の者が利用し、又は出入りする場所又は乗物(イに該当するものを除く。)
(3)前2号に揚げるもののほか、人に対し、公共の場所又は乗物において、卑わいな言動をすること。

具体的な例としては以下が挙げられます。

  • 衣服や下着の上、身体に直接触れて下半身や尻、胸、太もも等を撫で回す行為
  • 密着して、身体や股間を執拗に押しつける行為
  • エスカレーターや階段などで、スカート内をカメラやビデオで下から盗撮しようとする行為

一方で、不同意わいせつ罪は、以下のように規定されています。

刑法第176条 不同意わいせつ
次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、6月以上10年以下の拘禁刑に処する。
1.暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと。
2.心身の障害を生じさせること又はそれがあること。
3.アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること。
4.睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること。
5.同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。
6.予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕させること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること。
7.虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること。
8.経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。
2項 行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、わいせつな行為をした者も、前項と同様とする。
3項 16歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者(当該16歳未満の者が13歳以上である場合については、その者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第1項と同様とする。

つまり、不同意わいせつ罪とは、16歳以上の者に対して、176条1項各号に定める「同意しない意思を形成し、表明し、もしくは全うすることが困難な状態」に乗じてわいせつな行為をした罪であり、16歳未満の者に対しては、用いた手段や被害者の状態に関わらず、わいせつな行為をすれば罪となります。
また、痴漢行為は不同意性交等罪に該当する可能性もあります。

刑法177条 不同意性交等罪
前条第1項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、性交、肛門性交、口腔性交又は膣若しくは肛門に身体の一部(陰茎を除く。)若しくは物を挿入する行為であってわいせつなもの(以下この条及び第179条第2項において「性交等」という。)をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、5年以上の有期拘禁刑に処する。
2項 行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、性交等をした者も、前項と同様とする。
3項 16歳未満の者に対し、性交等をした者(当該16歳未満の者が13歳以上である場合については、その者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第1項と同様とする。

従来の強制性交等罪では「性交等」とは、性交・肛門性交・口腔性交を指し、下着内に手指を入れて性器を弄ぶ行為は強制わいせつ罪、単に服の上から体を触る行為は迷惑防止条例違反という理解がされていました。
しかし、2023年の刑法改正により、「膣に身体の一部を挿入する行為」が「性交等」にあたるとして、不同意性交等罪の処罰対象とされました。
したがって、例えば電車内で下着の中に手を入れ、性器に指を入れるなどの行為を行った場合は、不同意性交等罪に問われる可能性があるといえます。

痴漢行為に対する罰則とは

条例違反の場合

6月以下の懲役又は50万円以下の罰金、常習の場合は1年以下の懲役又は100万円以下の罰金(迷惑防止条例第8条)

不同意わいせつの場合

6月以上10年以下の拘禁刑(刑法第176条)

不同意性交等の場合

5年以上の有期拘禁刑(刑法第177条)

線路へ逃げてしまった場合の罪と刑罰

痴漢行為を行った後、被疑者は線路に逃走した場合、どのような犯罪が成立するのでしょうか。鉄道営業法第37条は「鉄道地内にみだりに立ち入る行為」について科料1万円未満の罰則と定めています。また、より罪の重い往来危険罪(刑法第125条第1項・2年以上の懲役)もあります。往来危険罪は法律の規定上、往来の危険を生じさせた、という要件が必要とされますが、鉄道営業法の鉄道地内立入は、往来の危険を生じさせた、という要件は必要とされていません。

鉄道地内に立ち入る行為さえあれば、他の妨害行為をしなくても犯罪になってしまうのです。加えて、線路内に立ち入ることによって、鉄道会社の正常な業務を妨害するおそれが生じることから、威力業務妨害罪(刑法第234条)が成立し得ます。

痴漢で逃げてしまう場合のリスク

後日逮捕・任意同行の可能性

痴漢行為が発覚した場合、多くは現場で目撃者に取り押さえられ、警察に引き渡される現行犯逮捕となりますが、現場から逃走することができたとしても、後日警察が訪ねて来て逮捕される可能性は十分にあります。
後日逮捕をする場合、警察は防犯カメラの映像や被害者・目撃者の証言、電車内での痴漢行為であればICカードの使用履歴など、様々な証拠を集め、逮捕の必要性が認められてから逮捕に踏み切ります。現に逃げてしまっていれば、逃亡や証拠隠滅のおそれがある(=逮捕の必要性がある)と判断することができるので、逮捕される可能性が高まります。

もちろん痴漢で取り押さえられてそのまま逮捕されてしまう事案もありますが、任意同行による取調べを経て身柄拘束はされずに在宅捜査となるケースもあります。仮に逮捕されたとしても勾留を回避して速やかに釈放されるケースもあります。逃走して後日逮捕されるケースと比べると日常生活へのダメージは相対的に軽減できることが多いでしょう。後日逮捕される場合、数日で警察から連絡があることもあれば、捜査に時間がかかり、数か月後に逮捕されることもあります。

痴漢の公訴時効は迷惑防止条例違反の場合は3年、不同意わいせつ罪の場合は12年、不同意性交等罪の場合は15年です。この期間中であれば逮捕される可能性は十分にあります。中には痴漢行為の3年以上後になって逮捕されたケースもあるので、逃走は現実的ではありません。

また、逮捕に至るほどの容疑が固まっていなくても、後日とりあえず事情聴取のために任意同行を求められることがあります。任意同行に応じた場合、取調べの最中に逮捕状が請求され、容疑が固まり次第そのまま通常逮捕されるリスクがあります。任意同行を拒否することもできますが、逮捕状が発布されていなくても拒否が続くことで後日逮捕状が発布され、最終的には逮捕される可能性があるため、むやみに拒否をするとかえって不利な立場に置かれてしまいます。

刑罰が重くなる

刑事裁判では、犯行の動機・被告人の性格・反省の意思・犯行の悪質性・被害者の処罰感情など、様々な事情が総合的に考慮されて量刑が決定します。
「現場から逃走した」という事情は、反省の意思が低い・行為の悪質性が高いなど、マイナスな評価をする情況証拠になり得る他、被害者の処罰感情を高めたり、裁判官からの心証を悪化させたりするリスクもあり、刑罰が重くなる可能性があります。

保釈請求が認められにくくなる

不同意わいせつ罪・不同意性交等罪で起訴され、勾留された場合、保釈請求が認められれば身柄拘束から解放されますが、保釈請求が認められるには、逃亡のおそれが乏しいことが必要です。一度逃亡していると、再度逃亡する可能性を疑われることになるので、保釈請求が認められにくくなります。

痴漢で逃げた場合には民事責任の追及も

痴漢で逃走するリスクは、刑事事件上の責任だけではなく、民事上のリスクも伴います。
痴漢行為だけではなく、さらに線路への逃走を行った場合、電車遅延など列車運行に影響を与えるため、振替輸送費用や乗客に対して払い戻した運賃などが発生している可能性があります。したがって、鉄道会社は被疑者に対して、これらの損害を受けたとして損害賠償を請求することができます。
また、痴漢の被害を直接受けた被害者は、痴漢という犯罪行為により精神的苦痛を受けた等として、被疑者に対して不法行為に基づく損害賠償請求権を有しています。以上より、被疑者は、刑事責任のみならず、民事上の損害賠償責任を複数負うことになりかねないでしょう。

痴漢で逃げてしまった場合には早期に対策が必要

逃走してしまうと、捜査機関はかなり高い確率で犯人を特定して逮捕しようと試みます。実際に痴漢をしてしまった場合と冤罪である場合を問わず、自ら出頭することで逮捕を回避できるケースがあります。もし現場から逃げてしまった場合には、早急に弁護士に連絡し、今後の対応について具体的に相談をしてください。自首をすべきか否かは、刑事事件の専門家に相談し判断してもらう必要があります。

警察署に出頭するときは、弁護士に同行を依頼することができます。弁護士は誓約書や身元引受書などともに意見書を作成し、捜査機関に対して在宅捜査を求めることで逮捕を回避できることがあります。また、被害者が特定できていて、被害届を提出されていることが明らかな場合には、示談交渉を行います。示談が成立すれば、不起訴処分となる可能性があります。痴漢の被害者は精神的苦痛を負っており、加害者とは顔を合わせたくないと考えているケースが多いため、代理人として弁護士が間に入ることで、スムーズに交渉を進めることができるでしょう。まずは早めの弁護士相談が重要です。

まとめ

いかがでしたでしょうか。今回は痴漢行為で逃げてしまった場合のリスクについてみてきました。なお、線路立ち入り行為については、以前、有名女性タレントが線路内に入り写真撮影したことも問題になりました。今日、線路立ち入り行為が禁止されていることを「知らなかった」というのはもはや済まされません。

「痴漢行為がばれたので逃げる」行為は後々被疑者となったときに自分の立場を不利にしてしまいます。また、線路に逃げ込んで、列車の運行に混乱を生じさせれば多くの人に迷惑が掛かるだけでなく、これまで見たように、民事でも多くの法的責任を負うことになります。

Columns

関連する弁護士監修記事を読む

経験豊富な弁護士がスピード対応

刑事事件は初動の72時間が重要です。そのため、当事務所では24時間受付のご相談窓口を設置しています。逮捕されると、72時間以内に検察官が勾留(逮捕後に更に被疑者の身体拘束を継続すること)を裁判所に請求するか釈放しなければなりません。弁護士へ依頼することで釈放される可能性が高まります。また、緊急接見にも対応しています。迅速な弁護活動が最大の特色です。

このページをシェア