
準抗告とは、裁判官が下した判断に不服がある場合に、その判断の取り消しや変更を求める申立て手続きのことです。準抗告は刑事訴訟法で認められている制度であり、具体的には、裁判官のした決定や命令に不服がある者が、簡易裁判所の裁判官に対しては地方裁判所に、その他の裁判官に対しては、その裁判官の所属する裁判所に、決定や命令の取り消しまたは変更を請求することができます。
裁判官1名が下した判断に対して準抗告を行うと、その判断を下した裁判官を含まない別の裁判官3名が選ばれ、合議で新たな判断を下すことになります。
準抗告の主な対象(勾留に関する裁判)
準抗告が申し立てられるものとして圧倒的に多いのは、勾留に関する裁判、特に勾留決定に対する不服申し立てです。勾留とは、逮捕された被疑者や被告人の逃亡や証拠の隠滅を防ぐために、刑事施設に留置して身柄を拘束することです。検察官による勾留請求が裁判官に認められ勾留が決定されてしまった場合、弁護人は早期の身柄解放を目指して準抗告を行うことができます。その他、準抗告が認められている裁判は以下の通りです。
- 勾留、保釈(保釈却下など)、押収または押収物の還付に関する裁判。
- 鑑定のため留置を命じる裁判(鑑定留置決定)。
- 忌避の申立てを却下する裁判。
- 証人、鑑定人、通訳人または翻訳人、または身体の検査を受ける者に対して過料または費用の賠償を命じる裁判。
また、検察官や警察官がした接見指定の処分や押収・押収物の還付に関する処分についても、裁判所に対して行う不服申立は準抗告とされています。
準抗告と抗告との違い
準抗告と抗告は、いずれも裁判所(または裁判官)の決定や命令に対する不服申立ての制度ですが、主に手続きが行われるタイミングと対象、そして申立先に違いがあります。
| 項目 | 準抗告 | 抗告 |
|---|---|---|
| 手続きの時期 | 原則として第1回公判期日前に裁判官が行った処分に対する不服申し立て。または起訴前。 | 判決に対する上訴として控訴・上告があるのに対し、決定に対する不服申し立て。 |
| 対象 | 勾留、保釈、押収、押収物の還付などに関する裁判官の裁判や、捜査機関(検察官等)の接見指定・押収に関する処分。 | 第1審裁判所がした勾留、保釈、押収等に関する決定など、判決以外の決定に対する不服申し立て(裁判所がした決定)。 |
| 申立先 | 簡易裁判所の裁判官の裁判に対しては管轄地方裁判所に、その他の裁判官の裁判に対してはその裁判官所属の裁判所に請求する。申立先が必ずしも上級裁判所ではない。 | 裁判所のした決定に対し、上級裁判所に申立てる。 |
簡単に言えば、第1回公判前の身柄拘束や証拠保全に関する裁判官の判断に対する不服申し立てが準抗告であり、第1回公判後の裁判所の決定に対する不服申し立てが抗告である、という違いがあります。なお、少年事件では、家庭裁判所の保護処分決定に対する不服申立ては抗告と呼ばれ、高等裁判所に対して行われます。
準抗告の手続きの流れと注意点(勾留決定の場合)
勾留決定に対する準抗告は、身柄を解放するための活動として弁護活動の重要な柱となります。
勾留請求却下への活動(前段階)
弁護人(弁護士)は、勾留が決定してしまわないように、まずは以下の活動を行うことが多いです。
- 検察官への意見書提出: 検察官が裁判所に勾留請求を行う前に、検察官に対して勾留請求をしないように求める意見書を提出し、説得を試みます。
- 裁判官への意見書提出: 検察官が勾留請求を行った場合には、今度は裁判官に対して、勾留請求を却下するように求める意見書を提出し、説得を試みます。この意見書には、逃亡や罪証隠滅のおそれがないことを示すため、家族の身元引受書や誓約書などの資料を添付することが重要です。この活動はスピード勝負です。
準抗告の申立て
もし勾留請求が裁判官に認められ、勾留が決定してしまった場合、弁護人は勾留決定に対する準抗告を早急に申し立てます。
- 主張内容: 準抗告では、そもそも勾留の要件(被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があること、定まった住居がない、罪証を隠滅するおそれ、逃亡のおそれのいずれかがあること)を満たしていないこと、あるいは勾留すべき理由や必要性がなくなったことなどを主張します。
- 審査: 準抗告が行われると、当初の勾留を決定した裁判官を含まない別の裁判官3名による合議体で、勾留の可否について再度の判断が行われます。
準抗告の結果
準抗告が認められることを認容と呼びます。
- 認容された場合: 勾留決定が覆され、認容された当日に身柄が解放されます。
- 棄却された場合: 準抗告が認められず棄却された場合、弁護人は、憲法違反や判例違反を理由として最高裁判所に対して「特別抗告」を申し立てることができますが、ハードルは非常に高くなります。
準抗告の認容率と重要性
勾留は、人の行動の自由を長期間奪う強制処分であるにもかかわらず、実務上、裁判官が検察官の勾留請求を認める確率は非常に高いのが現状です。
しかし、準抗告の申立件数は増加しており、その認容率も上昇傾向にあります(例えば、2013年で16%、2018年で19%)。準抗告は、一度下された裁判官の判断の覆しを求める手続きであるため、認容される可能性は低いとも言われますが、逮捕後すぐに弁護士に依頼し、意見書提出などの活動と並行して準抗告を行うことが、身柄解放のための重要な手段となります。準抗告が成功し無事釈放されたとしても、事件は終結したわけではなく、在宅捜査で継続することになります。