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黙秘権について教えてください。また黙秘権を使う適切なタイミングや、メリット、デメリットについても教えてください。

黙秘権について教えてください。また黙秘権を使う適切なタイミングや、メリット、デメリットについても教えてください。

黙秘権(もくひけん)とは、憲法および刑事訴訟法で被疑者・被告人に保障されている自己に不利益な供述を拒否する権利のことをいいます。これは、質問に対して何も答えない権利を指します。黙秘権は、被疑者・被告人の供述の自由を保障するものです。自分が有罪になる供述をする義務を法律で負わせることは、冤罪の防止と被疑者の人権の尊重のために許されないという理由に基づいています。


黙秘権の法的根拠

  • 憲法第38条1項: 「何人も、自己に不利益な供述を強要されない」と規定されており、人権の一つとして保障されています。これは「自己負罪拒否特権」の一態様です。
  • 刑事訴訟法第198条2項: 上記の憲法の規定を受け、被疑者に対し、あらかじめ、自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げなければならないと定めており、自己に不利益であるか否かを問わず、いかなる供述も強要されない権利を包括的に保障しています。

黙秘権を使う適切なタイミングと行使方法

黙秘権は、捜査機関に対していつ何時であっても使うことができます。捜査機関が黙秘権があることを告げる前であっても、黙秘する旨を伝えれば、その後沈黙していても構いません。

黙秘権の行使方法

  • 全部黙秘: すべてについて黙秘するという方法です。
  • 一部黙秘: ある質問に対しては黙秘し、ある質問に対しては話すというように個別の質問に対して黙秘することもできます。

また、実際に取調べで何も話さないことだけでなく、供述調書への署名を拒否するという方法もあります。

黙秘権行使の判断の難しさ

黙秘権を行使するかどうかの判断は、個別の事案ごとに極めて専門的な判断が必要です。そのため、刑事弁護を専門的に扱う弁護士の適切な助言が必要不可欠です。弁護士は、殺意の有無が微妙な事案にあっては黙秘権行使を助言し、自白の強要などを回避することができます。

黙秘権行使のメリット

黙秘権を行使することには、被疑者・被告人の権利を守り、刑事手続きを有利に進めるための大きなメリットがあります。

  • 不利益な供述調書の作成を防ぐ: 黙秘権を行使することで、捜査機関側に有利な供述調書が作られることを防げます。供述調書は一度署名・押印すると、後から内容を覆すことが極めて困難となり、裁判で自己に非常に不利な影響を及ぼす恐れがあります。黙秘を貫いた場合、供述調書が不利な証拠として裁判で使用されることはありません。
  • 冤罪・虚偽の自白を回避: 捜査機関は、誘導や強要、威迫などによって供述を引き出そうとすることがあるため、黙秘権を行使することは、事実と異なる自白調書に署名してしまうという最悪の事態を回避するために不可欠です。
  • 証拠不十分による不起訴の可能性: 自白以外の証拠が乏しい事件では、黙秘により捜査機関に情報を与えないことで、嫌疑不十分による不起訴処分を狙える可能性があります。
  • 不当な捜査への抵抗: 違法な取調べ(威圧的、脅迫的な取調べなど)が行われた際、黙秘権を行使することは、違法な取調べに対する抵抗手段となります。弁護士は、黙秘や否認をしている依頼者に対して不適切な態度を取る取調官に対し、抗議書を提出するなどのサポートを行います。

黙秘権行使のデメリットと注意点

黙秘権は権利として保障されていますが、行使することで事実上被る不利益や、留意すべき点が存在します。

逮捕・勾留のリスク増大

  • 勾留回避の困難化: 黙秘や否認をしていると、捜査機関は被疑者に罪証隠滅のおそれや逃亡のおそれがあると判断しやすくなり、勾留を回避することが難しくなります。その結果、長期の身柄拘束が続くことになります。
  • 保釈請求への影響: 実務上、被疑者が捜査段階で事実を否認ないし黙秘していた場合には、罪証隠滅のおそれの判断において不利に働くことがあります。不適切な運用ですが、このような運用が現になされている以上は、そのようなリスクも考慮する必要があります。裁判において、黙秘権の行使のみを理由に不利益な判決を受けることはありません。
  • 取調べの長期化: 黙秘することにより、取調べが長引くこともあります。

量刑上の不利益が生じる可能性

  • 黙秘したこと自体を量刑上不利益に扱うことは許されませんが、事案によっては、自白や反省がある場合に被疑者・被告人に有利に扱われることの反射的効果として、そのような事案と比較すると量刑が重くなることがあり得ます。
  • 軽微な事件で被疑者が被疑事実を認めている場合には、略式手続によって公開の裁判を避けることができる場合があります。そのような事件で黙秘を貫くことで、略式罰金では終わらずに公訴提起され、公開の裁判が開かれるため、被疑者に不利益な結果となることがあります。

黙秘権の及ばない範囲

黙秘権は「供述」を拒否する権利ですが、以下の証拠採取には及びません。

  • 供述以外の証拠採取: 指紋や足型採取、身長の測定、写真撮影、身体検査等。
  • 呼気検査: 道路交通法による警察官の呼気検査は、供述を得ようとするものではないため、検査拒否を処罰する規定は憲法違反ではないと解されています。
  • 氏名等: 原則として、氏名のごときは不利益な事項に該当するものではないと考えられており、黙秘権は及ばないと考えられています。

弁護士による適切な対応の重要性

黙秘権を行使すべきかどうかは、被疑者の状況や事件の内容によってケースバイケースであり、専門的な判断が求められます。

  • 弁護士との連携: 逮捕・勾留された場合、弁護士は唯一立会人なく接見できる存在であり、取調べに対する方針(黙秘すべきか、一部否認すべきかなど)を決定するために刑事弁護を専門的に取り扱う弁護士の助言が不可欠です。
  • 精神的サポート: 黙秘や否認を選択すると、取調官が強く当たってくることがありますが、弁護士は頻繁に接見し、被疑者の精神的なサポートを行います。
  • 供述調書の確認: 黙秘せずに話す場合でも、弁護士は供述調書の内容を正確に確認し、誤りがあれば訂正を求めるよう助言します。誤った調書に署名押印すると、裁判で証拠として採用されてしまう可能性があるためです。

黙秘権の行使は、単に何も話さないという行為ではなく、その後の刑事手続き全体を見据えた戦略的な防御手段です。どのタイミングでどの部分を黙秘するかという判断は難しいため、刑事事件に強い弁護士に相談することが確実です。

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