
刑事事件において、一つの行為や複数の行為が複数の犯罪に該当する場合があります。この際に、どのような刑罰を適用するかを定めるのが、「観念的競合」、「牽連犯」、「併合罪」といった刑法上の概念です。
観念的競合(かんねんてききょうごう)とは何ですか?
観念的競合とは、刑法第54条に定められる概念で、1個の行為が二個以上の罪名に触れることを指します。つまり、行為者が行った一つの動作や振る舞いが、結果として複数の刑罰法規(罪名)に同時に違反する場合に成立します。
観念的競合の刑罰(処断方法)
観念的競合が成立する場合の処断方法は、刑法第54条により、その最も重い刑により処断すると定められています。
例えば、ある輸出入行為が関税法違反と商標法違反という二つの犯罪に同時に該当する場合、これは観念的競合として処理され、成立した犯罪のうち重い方の罰が適用されます。また、痴漢行為の事例では、複数の都道府県の迷惑防止条例違反の罪が「包括一罪」として成立すべき事案について、原判決が両罪が観念的競合の関係に立つとして刑法54条1項前段を適用したことに対し、法令適用の誤りがあるとされた事例もあります。
観念的競合のポイント
- 行為の数: 1個の行為。
- 罪名の数: 2個以上。
- 刑罰: 最も重い刑で処断する。
牽連犯(けんれんはん)とは何ですか?
牽連犯は、複数の行為と複数の罪が存在する点で併合罪と似ていますが、その行為が手段と目的の関係にある場合に成立する概念です。刑法第54条1項後段に規定されています。牽連犯は、犯罪の手段または結果である行為が他の罪名に触れるときに成立します。これにより、複数の罪の間には密接な関係があることが前提となります。
牽連犯の具体例
空き巣の行為は、典型的な牽連犯の例です。空き巣は、窃盗(目的となる犯罪)のために住居に侵入する(手段となる犯罪)という行為をします。この場合、住居侵入罪(他の罪名)は窃盗という目的たる犯罪の「手段」にあたるため、窃盗罪と住居侵入罪は牽連犯になります。
牽連犯の刑罰(処断方法)
牽連犯の場合も、刑法第54条1項に従い、その最も重い刑により処断すると定められています。牽連犯とされたそれぞれの罪を比較して、より重い方の刑罰が科せられます。
例えば、住居侵入罪(3年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金)と窃盗罪(10年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)が牽連犯の関係にある場合、窃盗罪を基準として刑が科せられます。
併合罪(へいごうざい)とは何ですか?
併合罪とは、複数の犯罪について刑罰を科す際に使われる刑法上の概念であり、犯罪の名前ではありません。併合罪として扱われるのは、主に以下の2つのパターンです。
- 確定裁判を経ていない複数の罪: 同一人物が犯した、まだ確定裁判を経ていない複数の行為による複数の罪。罪名が同じであっても、別の機会の行為であれば併合罪となります(例: 別々の日に行った2件の強制わいせつ行為)。
- 確定裁判を経た罪と未確定の罪: 禁錮以上の刑に処する確定裁判を経た罪と、その裁判が確定する前に犯した確定裁判を経ていない罪。
併合罪の事案は実務上多く、例えば、振り込め詐欺の事案、性犯罪で余罪が発覚した事案、異なる機会に複数回行われた万引き事案などが挙げられます。
併合罪の刑罰(量刑の計算)
併合罪は、複数の行為によって成立する罪であるため、その量刑の計算方法が特別に定められています。
- 有期拘禁刑または禁錮の場合: 併合罪のうちの2個以上の罪について有期の拘禁刑または禁錮に処するときは、その最も重い罪について定めた刑の長期に、その2分の1を加えたものが長期とされます。ただし、それぞれの罪について定めた刑の長期の合計を超えることはできません。例えば、傷害罪(長期15年)と窃盗罪(長期10年)が併合罪の場合、最も重い傷害罪の長期15年にその2分の1(7年6月)を加えた22年6月が処断刑の長期となります。
- 死刑または無期刑がある場合: 併合罪のうち1個の罪について死刑に処するときは、没収を除く他の刑は科されません。また、無期拘禁刑または禁錮に処するときも、罰金、科料、没収以外の他の刑は科されません。
観念的競合、牽連犯、併合罪の違いまとめ
観念的競合、牽連犯、併合罪はいずれも複数の罪に関わる概念ですが、その構造と刑の処断方法に違いがあります。
| 項目 | 観念的競合 | 牽連犯 | 併合罪 |
|---|---|---|---|
| 行為の数 | 1個の行為 | 複数の行為 | 複数の行為 |
| 罪の関係性 | 1個の行為が複数の罪名に触れる(関係性なし) | 複数の行為が手段と結果の関係にある | 複数の行為が確定裁判を経ていない(密接関係なし) |
| 刑罰の計算 | 最も重い刑により処断(吸収主義) | 最も重い刑により処断(吸収主義) | 加重主義(最も重い罪の長期+1/2。ただし合計を超えない |
観念的競合は1個の行為が複数の罪に触れるのに対し、併合罪は複数の行為による複数の罪で、確定裁判を経ていないものを指します。牽連犯は、複数の行為による複数の罪を前提にしていますが、その行為が手段と結果の関係にあるという点で、単に複数の行為が並存する併合罪とは異なり、密接な関係があるという特徴があります。
例えば、物を盗むために他人の住居に侵入して窃盗を行った場合(住居侵入罪と窃盗罪)は、目的と手段の関係にあるため牽連犯として処理され、併合罪としては処理されません。